スイスのバーゼルで開催された時計と宝飾の祭典「BASEL WORLD 2011」で、数々の新モデルを発表したカシオ。G-SHOCKの生みの親であり、時計事業部の最高責任者(時計事業部長)である増田裕一氏に、あらためて2011年の技術テーマやカシオの腕時計の方向性についてお話をうかがった。

コアテクノロジーとして標準化される「スマートアクセス」

カシオ計算機 取締役 時計事業部長 増田裕一氏

――バーゼルでは、今年のテーマとして「Faces Inspired by Electronics」を掲げられていましたね。

増田「カシオは今までにない"時計の新しい顔と表現"を実現します、という宣言です。私たちの強みである、エレクトロニクス技術に裏打ちされたものなんですよ、と。具体的には、アナログウオッチにおける"スマートアクセス"や、デジタルウオッチにおける"スマートウオッチ"などを包括したテーマともいえます」

――バーゼルでも、アナログウオッチの展開に非常に力を入れていらっしゃるように感じました。

増田「アナログウオッチは、エレクトロニクスを得意とするカシオが新たに挑戦していく分野です。スイス高級時計に代表される伝統的なアナログウオッチと、どう差別化していくかが重要になりますが、ただ針や文字盤の形を変えただけでは既存のアナログウオッチと方法論が同じです。これではカシオの存在意義が薄れてしまうので、歯車やクォーツだけでは不可能な表現をする必要があるんです。

カシオ計算機の強みはエレクトロニクス技術

私たちが導き出した答えは、"機能をインジケートする針の動き"でした。機械式ムーブメントは歯車の連結ですから、それに繋がるすべての針は連動して動きます。一方、エレクトロニクスのムーブメントは複数のモーターをプログラムが制御しているので、それぞれを自由に駆動できる。私たちは"Multi Mission Drive"(マルチミッションドライブ)と呼んでいますが、この技術のひとつの到達点が、OCEANUS(オシアナス)で好評だった"スマートアクセス"なのです。今回、スマートアクセスをEDIFICE(エディフィス)という別ブランドにも搭載したことには、実に大きな意味があります」

"スマートアクセス"を初めて搭載したOCEANUS「OCW-T1000」

OCEANUSに続いて"スマートアクセス"搭載のEDIFICE「EQW-A1000」も登場

――スマートアクセスが、カシオのアナログウオッチの標準化されたコアテクノロジーになる第一歩ということでしょうか。

増田「その通りです。リューズの操作で豊富な機能を容易に使いこなすことができ、針の動きでさまざまな機能や状態をインジケートしていく。スマートアクセスの技術は、カシオのアナログウオッチの考え方の集大成といっても過言ではありません。

アナログウオッチには、多機能化するとフェイスデザインも複雑化して見にくくなるという宿命的な弱点があります。スマートアクセスでは、モードによって針の役割を切り替えてダイヤルを見やすくしたり、ディスク針がさっと動いて現在のモードを示すといった工夫で、この弱点を克服しています。

複数の針を個別のモーターで駆動するMulti Mission Drive

将来的に搭載する製品の幅が広がり、例えば演出的な性格が強い表現が入ってきたとしても、制御プログラムを変えればコアムーブメントはそのまま対応できる。PROTREK(プロトレック)で使われているようなセンサーを積めば針が方位や高度などを示すインジケーターになり、ストップウオッチであれば、今回発表したEDIFICEになるわけです。

スマートアクセスは、新しいアナログ表現を可能にするエレクトロニクス制御ならではのテクノロジーであり、ひとつのマイルストーンといえる完成度まで来たと思っています」……つづきを読む