香港で開催された「Mobile Asia Congress 2010」の基調講演で、KDDIの小野寺正会長が登場し、次世代の携帯通信規格であるLTEの動向について講演した。
小野寺会長は冒頭、米国におけるデータ通信量が、2014年には年間773ペタバイトにまで達し、09年と比較して47倍にまで拡大し、日本では07年間からの10年間で、データ通信量は200倍になるとの予測を紹介。09年からの5年間で、米国は35倍、日本は15倍になる、とみられているという。
小野寺会長は、この急激なデータトラフィックの増加にいかに対応するかという点が、「すべての携帯事業者にとって大きな問題だ」と指摘する。
この問題を解決する方法として、小野寺会長はキャパシティの増大させる3つの方法を紹介。1つは新たな周波数の利用で、日本では今後周波数帯域が2倍に拡大される見込みだという。もう1つは次世代通信のLTEの導入で、これにより既存のEV-DO Rev.Aに比べてキャパシティは2倍に拡大するという。この2点によってキャパシティは合計4倍に拡大する。
しかし、これだけでは増大には追いつかない。これに対処する方法として「基地局の密度」を挙げている。これは、ひとつの基地局がカバーするエリアをより狭くすることで密度を上げる手法で、KDDIでは大都市圏でのセルサイズを500mにすることで、キャパシティを10倍まで拡大できるとしている。この施策により全体で40倍のキャパシティ増大可能になるとしている。
もう1つの手法として小野寺会長は、KDDIが国内で採用しているマルチキャストのMBMS(Multimedia Broadcast Multicast Service)を紹介する。既存のユニキャストの通信では、基地局から1対1で端末にデータを配信し、1つの基地局で1Hzあたり1.69bpsの容量となるが、MBMSの場合、1つの基地局から複数の端末に同時配信することで、1Hzあたり3.13bpsと2倍の周波数効率になると説明する。仮に10人のユーザーが1つの基地局に接続して、同時に同じデータを利用する場合、効率は20倍になるという。「MBMSは、キャパシティを増やすためのキーテクノロジー」と小野寺会長は強調する。
もう1つの方法が複数のアクセス手段を提供することだ。KDDIの場合、モバイルWiMAXのUQ WiMAX、公衆無線LANサービスのWi2という2つのサービスがあり、これに今後開始するLTEを加えることで、複数のアクセス手段を用意する。「将来的にはマルチアクセスの提供が必要だ」と小野寺会長。
UQとWi2という2つの無線サービスも併用することでトラフィックの増加をさばく。特に無線LANは、トラフィックのピーク時間である夜中は、自宅での利用者によるものなので、これを無線LANで固定網にトラフィックを逃がすこともポイントとなる |
KDDIは12年以降にLTEサービスを開始するが、計画では1.5GHz帯と800MHz帯の2つの周波数帯を使い、800MHz帯で全国展開し、利用率の高い都市部では1.5GHz帯を活用する方針だ。15年3月までには、800MHz帯で人口カバー率96.5%、1.5GHz帯で同53%を見込んでいる。800MHz帯は国際標準の周波数帯で、1.5GHz帯は国内限定の規格になる、としている。
KDDIの戦略の基本は、LTEだけでなく、モバイルWiMAXや無線LANを使ってキャパシティの増大に対応していくマルチアクセスだ。「ユーザーはいつでも(ネットワークを)使いたがっているだけで、接続方法は関係ない」と小野寺会長は強調。事業者側は、いつでも通信ができて、しかも簡単に接続でき、高速であるという手段を提供する必要がある、と話す。
通信手段としては固定系も重要で、FTTHに加えてCATVも重視する。日本では、CATVは90%以上の過程をカバーしているが、利用率は非常に低いと小野寺会長。しかし、CATVはKDDIにとって重要なアクセス手段となると指摘している。
小野寺会長はLTEの導入によって1メガビットあたりのコストが、現在の1/5~1/10になると予測するが、それでもデータトラフィックの伸びに対して対応しきれないとして、固定、携帯などのマルチアクセスに加え、放送も融合させるFMBCが必要だとしている。