20年の歴史展示

また、20年目を記念して、会場の一角に歴史展示コーナーが設けられた。

20周年 歴史展示コーナーの様子

SC初年度の1988年のコーナーに展示されたCRAY Y-MPのCPUボードとマニュアルなどのドキュメント類

各年度ごとに透明なプラスチックパネルと、下半分に展示ケースがあるという構成で、パネルには、その年のSCのGeneral Chairの写真と、その年のスパコン関係の主要な出来事が書かれている。そして、下のケースには、その年のスパコンのハードウェアやSCのシンボルマークやグッズなどが展示されていた。

Dell氏の基調講演

SC08は11月15日からの開催であるが、最初の3日間は教育のためのチュートリアルや、個別の技術分野のワークショップなどであり、本会議は、11月18日の朝8時半からのMichael Dell氏の基調講演で幕をあけた。Dell氏は、DELL社の創立者で、同社の会長兼CEOである。

基調講演を行うDell氏

Dell氏は、人間の脳の情報処理能力は、1,000億の神経細胞が各1000個のシナプスを持ち、200Hzで動作するとすると、20PFlopsとなるが、この半分の能力のスパコンを日本が作ろうとしている。しかし、脳1個分を作るには36億ドルかかるし、消費電力も膨大である。一方、脳は20W位しか消費していないと述べ、強力なスパコンを必要とする問題は数多くの分野で存在するが、コストダウンと小型化、低消費電力化が重要と述べた。その方向での進化の第4の波として、標準化、高密度実装、低エネルギー化、より良い管理性を挙げ、DELLのブレードサーバは、他社のものより消費エネルギーが少ないと同社の製品のアピールも忘れなかった。

招待講演

SC08では4件の招待講演が行われたのであるが、都合で筆者は2件しか聴講できなかった。聴講したのは、米国のNational Cancer InstituteのK.Buetow氏の「Developing an Interoperable IT Framework to Enable Personalized Medicine」という講演と、ヘネパタ本で有名なカリフォルニア大バークレイ校(UCB)のDavid Patterson教授の講演である。

Buetow氏は、氏が作り上げたCancer Biomedical Informatics Grid(caBIG)について講演を行った。

caBIGについて講演するNCIのBuetow氏

caBIGによる癌で変異が起こった部分の3次元構造と塩基配列データの表示

米国にはガンの研究や治療を行っている機関が多数存在するが、それらの連携が上手くいっていないことに危機感を抱き、caBIGというグリッドインフラストラクチャを立ち上げた。

そして研究者からの癌の遺伝子配列のデータや臨床からの治療のデータなどを集積し、研究者や臨床医からのアクセスを可能とするネットワークを作り上げ、情報の有効利用ができる環境を作り上げた。 また、治療データなどには個人情報が含まれるので、アクセスのセキュリティーなども配慮して情報漏洩がないように対策を行い、実用的なネットワークになっているという。

UCBのPatterson教授は、「Parallel Computing Landscape: A View from Berkeley」と題する講演を行った。ITRSの2005年のロードマップではクロックの向上が続き2013年には23GHzに達するというものであったが、消費電力の壁が認識され、一転して2007年(ITRSの改定は2年後ごとである)のロードマップでは2013年には7GHz程度に変更されてしまった。

このため、並列化による性能向上が必須になったと述べた。しかし、過去に並列化を試みた会社は100%失敗しており、並列化は難しい。しかし、並列化による性能向上を実現しないと、コンピュータ業界は成長産業では無く、旧製品を置き換えだけの産業になってしまうので、UCBに「Parallel Laboratory(Par Lab)」を設立し、並列化の研究を始めたという。

そして、MS Wordを走らせるのに100コアは必要なく、並列化を有用にするためには、並列化により性能向上が可能になるキラーアプリケーションを見つける必要があると述べ、ポータブルなシステムでは、音楽や音声認識などを挙げた。

また、出会った人の名前を思い出せなくて困った場合に、携帯電話などで撮影した映像を画像認識し、忘れていた名前を耳元で囁くというのも有望なアプリケーションであると述べた。

Par Labの研究について講演するPatterson教授

並列コンピューティングが有効と考えられる13分野と処理の性質を示すマトリクス

そして、同教授が推進しているFPGAで1008コアまでのプロセサのシミュレーションが出来るRAMP Blueを使った研究について述べ、シミュレータであるがカスタムLSIで作ったプロセサと比較して1/20程度の速度でプログラムを実行することが出来、何万倍も遅くなってしまうソフトウェアシミュレータとは異なり、現実的なアプリケーションでの実行を研究できる環境を構築していると述べた。