Seymour Cray賞とSidney Ferbach賞

スパコン関係の最大の栄誉であるSeymour Cray賞とSidney Ferbach賞の表彰は、SCの恒例の行事である。今年のSeymour Cray賞は、Steven Wallach氏、Sidney Ferbach賞はイリノイ大学のWilliam Gropp教授に贈られた。

「The Soul of a New Machine」という、今は亡きData GeneralのMV/8000というミニコンピュータの開発のドラマを描いた本がある。ピューリッツア賞を受賞し、日本でも「超マシン誕生 - コンピュータ野郎たちの540日」という邦題で訳が出た。

筆者も読んだ記憶があるが、かなり昔のことで記憶が定かでないが、当初は会社に内緒のSkunk Worksとして始まった32ビットミニコンの開発であるが、本命のプロジェクトがこけて、Data Generalの命運を担うプロジェクトになり、苦闘の末にMV/8000として商品化されるEagleマシンを開発するという話である。

この本では、開発マネージャのTom West氏が主役として書かれているが、アーキテクトとしてこのマシンの開発の技術的な中心となったのがSteven Wallach氏である。同氏は、その後、Convexというミニスーパーコンピュータを開発、製造する会社を創立し、成功を収めた。

Convexはその後HPに買収され、その技術は、現在のHPのSuperdomeなどのRISCベースのUnixサーバに引き継がれている。今年のSeymour Cray賞は、これらの功績を評価したものである。

「Computer Architecture Past Present Future」と題して、Cray賞の受賞講演を行うWallach氏

「What Next?」と今後の方向性を予測するスライド

Conveyの製品の枠組みを示すスライド

同氏のSeymour Cray賞の受賞講演は、「Computer Architecture Past Present Future」と題してスパコンの歴史をハードとコンパイラ技術の両面から振り返り、最後に、Wallach氏が最近になって創立したConveyの技術や製品について述べるものであった。

同氏は、命令アーキテクチャはx86が勝利したと断じ、今後は、x86アーキを各種のアプリケーション向けに拡張する方向に進む。そして、それらを容易にプログラムできるように、コンパイラでサポートするのが良い、この考え方でConveyは製品の開発を行っているという。

最初の製品はx86アーキに32ビットベクトル計算ユニットをつけ、信号処理などの性能を強化する製品であるが、その後、データマイニングなど右下の写真にあるように、6つの適用分野別の製品を開発していく考えである。

William Gropp教授は、アルゴンヌ国立研究所時代に、多数のコンピュータ間で通信して並列処理を行うための標準技術となっているMPI(Message Passing Interface)を開発した功績が評価された。

Gropp教授の受賞講演は、MPIに関して、なぜ、それが標準技術として広く受け入れられることになったかを技術的に説明したものであった。MPIは、ポータビリティが高く、性能も高い。また、ベースとなるコンセプトが単純で対称性が高く、モジュラに出来ているという。このため、多くのコンピュータシステムに移植されており、スパコンに限らず、PCクラスタなどの多数のコンピュータで分散処理を行うシステムでは標準的な通信手段となっているという。

Fernbach賞の受賞講演を行うGropp教授

何故、MPIが成功したかの要約スライド

Peta-scale時代を超えるためにMPIに必要な拡張のスライド

そして、ペタスケール時代を超えるために必要な拡張として、分散メモリのサポートとノード性能の向上、エラー対応、ロードバランスなどを挙げた。また、メモリレーテンシ問題の解決法の研究、MPI経由のリモートメモリアクセスモデルの改良、並列IOアクセスの機能についても検討が必要という。