民間が作成するも、政府の影が残った公聴会議案

公聴会では消費者代表、キャリア代表、消費者団体代表、上海市、湖北省、遼寧省などの地域代表、専門家代表、政府代表ら計18人の間で激しい応酬がみられた。また、会場外、公聴会開催期間以外でも、消費者団体や証券会社、メディアなどにより議論が闘わされた。主な論点を整理すると、下記のようなものとなっている。

公聴会においては、たたき台として2つの議案(表1)が示された。両案は国家発改委と信息産業部からの委託を受けて、民間研究機関や専門家が作成したものだ。これまで公聴会で討議されてきた議案は、主管省庁自身があらかじめ作成したものがほとんどであったから、今回は、議論の土台自体がかなり開かれたものになったといえるだろう。

だが、公聴会自体が国家発改委と信息産業部による主催で、議案も結局は両省庁により提出されたため、依然として「政府主導」の性格は色濃く残されているといえる。

表1 「漫遊費」の上限基準の調整に関する議案と最新案

通話状況 現行 公聴会議案1 公聴会議案2 2月5日最新案
ローミング先で市内通話をかける場合 0.6元/分 0.4元/分 0.7元/分 0.6元/分
ローミング先で市外通話をかける場合 0.6元/分+0.07元/6秒 0.4元/分+0.07元/6秒 0.7元/分 0.6元/分
ローミング先で国内IP通話をかける場合 0.9元/分 0.7元/分 0.7元/分 0.6元/分
ローミング先で市内通話を受ける場合 0.6元/分 0.4元/分 0.3元/分 0.4元/分
ローミング先で市外からの通話を受ける場合 0.6元/分+0.07元/6秒 0.4元/分+0.07元/6秒 0.3元/分 0.4元/分

湖北省代表で中南財経政法大学教授の喬新生氏は、「公聴会でたたき台となったのは政府が提出した案で、キャリアは具体的な案を出していない。キャリアが各種の値下げプランを提供している今日、この2つの議案に基づいて議論しても消費者にとってはあまり魅力がない」と手厳しかった。

「専門用語が多く、分かりにくい」議案に批判噴出

喬氏はさらに、「議案ではおびただしい専門用語が使われているが、一般の携帯電話ユーザーには分りにくい。具体的に携帯電話通話料金を引き下げるとは言っていないし、肝心の漫遊費のことも『当地市内通信料金より高い分』などとあいまいに定義しているため、ユーザーにとっては、本当の価格が一体いくらかが謎となっている」とし、議案自体に疑問を投げかけた。

消費者代表の黎香友氏は、「私は、漫遊費の全面廃止を強く求めている。私が知るかぎり、ローミング料金をこれほど複雑にしているのは中国だけだ」と語り、遼寧省代表の孫洪文氏も、「わが国の漫遊費改革の最終目標は、米国やオーストラリアのように漫遊費の全廃とするべきだ」と述べた。

前出の朱錦林氏の本音も漫遊費の全廃にあると考えられ、これら全廃を求める立場と、漫遊費の上限基準を引き下げようというところにとどまる議案とは次元が明らかに異なる。そのため、議案自体にどれだけの意味があるのかを疑問視する向きが多かったわけである。

前出の網易のネット調査によると、専門用語の多さに疑問を呈した喬氏の指摘どおり、95.9%のユーザーが「議案そのものが分らない」と回答している。また、中国消費者協会のネット調査では、97.6%の消費者が2つの議案のいずれにも反対していることが明らかになっている。

実に9割以上の消費者が、両議案を「わからない」、あるいは「反対だ」としているわけで、それをたたき台にして行われた公聴会にどれほどの意味があるのかという問いは、非常に説得力のあるものといえる。