イー・アクセス取締役会長の千本倖生氏

先頃総務省で、2.5GHz帯の電波を用いたブロードバンド無線アクセスシステム(BWA)事業化を目指し、免許申請している4社によって、申請内容のプレゼンテーションと相互に意見を交わす公開カンファレンスが開催された(22日)。ソフトバンクと共同でオープンワイヤレスネットワーク(OpenWin)を設立し免許獲得を目指す、イー・アクセス取締役会長の千本倖生氏(イー・モバイル代表取締役会長兼CEO)がこれについて所感を述べた。討論の実施が有益であると指摘したうえで、今回の免許交付にあたっては、政府の情報通信政策に照らすと「競争の促進」と「国際競争力の強化」がキーワードであるとし、「MVNOへの対応」「認定された2社間の競争」「国際標準技術」の点を重視すべきとの考えを示した。26日に開催したイー・モバイルのサービス発表会で話した。

千本会長は「オープンな場で申請者が主張、討論することができたことについてはきわめて高く評価している。我々オープンワイヤレスネットワークは申請の内容をオープンにしてきた。(アッカ・ネットワークス、NTTドコモらの)アッカ・ワイヤレスも同様だが、(KDDIなどが中心の)ワイヤレスブロードバンド企画とウィルコムは、経営上の秘密に属する事柄として、オープンにしてこなかった。だが、あのカンファレンスで明確に開示され、どのグループの案が最も国民に資するものか明らかになる。ADSLが普及し始めた頃は、イー・アクセスはソフトバンクと激しく争ったことがあるが、そのようなバトルをオープンな場でやったからこそ、日本は世界で断トツのADSL大国になれた」と話す。

このカンファレンスが開催されるきっかけとなったのは、一部報道で「特定の社にすでに(割り当てが)決まったような報道があった」(千本会長)ことだが、千本会長はこれを強く批判。「総務省も明確に否定している。いま、申請者へのヒアリングの過程だが、あのカンファレンスの後もまだそういうような記事が出ている」と憤りを隠さない。

「今後の議論のポイント」として千本会長は次のように語った。「ひとつ目は競争促進だ。ここではMVNOへの対応が最大のポイントになる。2.5GHz帯のサービスを全国展開することになれば、第2種指定電気通信設備の議論(※)がいずれ出てくる。総務省の方針は明らかではないが、何らかの接続ルールが求められる。OpenWinは標準約款としてMVNOの利用条件を公開する。MVNOとなる各社の条件はまったく平等になる。もし、我々が免許を獲得できたとしたら、いま免許申請で競い合っている他社が免許を取得できなかった場合、それらの社がMVNOを望めば、平等に扱う。我々はリテール(一般消費者への直接のサービス提供)を一切せず、すべてMVNO向けに事業を展開するので、これらMVNOと競合が生じることはない。他の3社は、リテールもMVNOもやるといっており、自前のリテールとMVNOの平等性はどう担保するのか明確ではない」。

※:「第2種指定電気通信設備」とは相対的に多数の加入者を持つ移動体通信ネットワークのこと。公正競争確保の観点から、これを持つ事業者はMVNO向け接続約款の作成・届出などが義務付けられている。現在はNTTドコモグループとKDDI・沖縄セルラーが該当する。

認定された2社間での競争が望ましい。国際競争力強化の課題も重要

千本会長は、今回の免許「2枠」がいずれもモバイルWiMAXであるべきと主張している。2社のモバイルWiMAX事業者が認定され「(2事業者間で)ユーザーが乗換ができるよう互換性が必要だ。そうなれば、サービスと設備の競争が起こってくる。もし、次世代PHSとモバイルWiMAXということになると、(一般的に)ユーザーは一方から他方へと移行することができない。それぞれ、第3世代携帯電話との競合はあっても、次世代PHS、モバイルWiMAXの独占事業ができることが懸念される。競争促進の観点から、国民経済の視野に立った判断が必要になるのではないか」(千本氏)

また、かつて日本の携帯電話業界が国際標準ではないPDC方式を選択したことにより、国際的な競争力が削がれたと千本会長は強調する。「2.5GHz帯のブロードバンドサービスでは、できるかぎり欧米や世界での標準といえるモバイルWiMAXを採用した方が良い。携帯電話でも、GSMであれば世界各地で使える。国際標準がぜひとも必要だ。携帯電話の分野では、PDCを用いていた10年間で、日本の端末の産業は弱体化した。オープンな議論と透明な審査を求めたい。国民の資産である電波を、どの陣営にどのような根拠で割り当てるのか、しっかりとした説明をしてほしい」(同)

さらに千本氏は、イー・モバイルのデータ通信サービスの下り伝送速度を3.6Mbpsから7.2Mbpsに増速したことに関連して、「ADSLの代替となるのはFTTHではなくモバイルのブロードバンドサービス」との見解を示し、以下のように述べた。「現在、当社のデータ通信サービスは16万ユーザーを獲得しているが、自宅内でも固定と同様に使う層が増えている。それは、このサービスが固定のADSLと遜色ないほどのパフォーマンスを実現しているからだ。今回増速したことで、快適性はますます高まる。NTTなどによる光ファイバーのサービスは、コストや設備投資が膨大なものとなって利用料が値上げされており、NTTでは2010年の光回線ユーザー獲得目標を3,000万から2,000万に下方修正している。ADSLから光回線へ、という流れは大きな変曲点を迎えている。ADSLの次はモバイルだ」