ワイヤレスストロボを使った作例。詳しくは最後のページ参照
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「神は光あれと言われた。光があった」というのは有名な旧約聖書・創世記の冒頭部分。"光を作り出せるのが神なら、写真にとってストロボ使いは神なのかもしれない"と、今回の撮影で少しだけど思ってしまった。そのくらい光を作る作業は楽しかったのだ。カメラから離して使える外付けストロボ、「ワイヤレスストロボ」を取り上げる。

光を作るワイヤレスストロボ

「ストロボ」は米ストロボリサーチ社の商標だが、日本では一般名詞のように広く浸透しているため、ここでも撮影用の発光装置を「ストロボ」と呼ぶことにする。

さて、プロ用カメラを別にすると、コンパクトも含めてほとんどのカメラにストロボが内蔵されている。暗い場所で光を補うためだ。しかし内蔵ストロボを使うと人の顔がテカったり、妙な影が写ったり、背景が暗く落ちるといったことも多い。プロ用カメラにストロボが内蔵されていないのは、外付けストロボを使うのが当たり前とされているため。仕事レベルの写真には内蔵ストロボは使えないという判断かもしれない。

外付けストロボの特長は光が強いことだが、カメラ本体から離して使えることもそれに負けないくらい大きなメリットである。光源と撮影位置が別にできるから自然な光で撮影できる。しかしストロボを離して使うにはカメラとストロボをつなぐケーブルが必要になる。このケーブルが面倒なのだ。バッグからケーブルを取り出し、つないで設置する。ケーブルがあるからカメラ位置も限られる。スタジオならまだしも、普通に屋外で気軽に使えるようなものではない。そこで「ワイヤレスストロボ」である。

ワイヤレスストロボはカメラからの信号(赤外線)を受け、離れたところからシャッターに合わせて発光する。ケーブルがないから設置は自由だし、ちゃんとしたものならカメラ側で発光量も設定できる。本当に手軽に使えるのだ。

ワイヤレスストロボの何がいいかというと、"光を加える"という使い方が簡単にできること。スタジオ撮影を別にすると、ストロボは"光を補う"という使い方が多い。逆光や暗い場所では被写体を照らして明るくしたり、直射日光が強いときは影を照らして軟らかくするといった使い方だ。しかしそれだけじゃつまらない。普通ならありえない光を加えてもいいんじゃないか。写真は自由なものだ。

そういった使い方がなかったわけではないが、気軽にできるのはデジタルカメラだから。自然にはありえない光を加えると仕上がりが予想できないから、フィルムでは勇気がいる。しかしデジタルならその場で確認できる。ダメだったら削除すればいい。だから光を使っていくらでも遊ぶことができる。デジタルとの組み合わせで、ワイヤレスストロボは実に魅力的なツールになってくれる。

今回ワイヤレスストロボとして使用したSB-600

今回使用した機材はこれだけ。あとは三脚ぐらい

独走のニコン「クリエイティブライティングシステム」

ワイヤレスストロボが使える機材を考えてみる。まずカメラ側から外部ストロボを発光させる信号を出す機能(もしくは装置)が必要になるが、ここではニコンの流儀に合わせて「コマンダー」と呼ぶことにする。

カメラの内蔵ストロボがコマンダーとして使えれば、必要なのは外部ストロボだけ。ただ、この場合重要なのは、内蔵ストロボがコマンダーのみになるのか、同時に光源としても使えるのか、という点だ。光源として使えれば、外部ストロボと併せてふたつの光が使えるが、コマンダー専用となると外付けストロボの1灯になってしまう。これは実にもったいない。

現状、コマンダーと光源の同時使用が可能な内蔵ストロボをもつカメラは、ニコンの「D80」「D200」、そしてD200のボディを使う富士フイルムの「S5 Pro」しかない。簡単にいえばニコンだけなのだ。ニコンは「クリエイティブライティングシステム」の名で、他灯ライティングを強力にプッシュしている。このクリエイティブライティングシステムのうち、ワイヤレスで発光させるシステムを「アドバンストワイヤレスライティング」と呼んでいるが、どうにも長くて覚えづらい名前だ。ニコンの考え方には強く賛同するが、もうちょっと簡単な呼び名はなかったのだろうか。

光源にはならなくても、内蔵ストロボをコマンダーとして使えるカメラには、「D70」「D70s」、ペンタックスの「K10D」、ソニーの「α100」がある。ただしK10Dをコマンダーにするにはファームウエアを最新のものにアップグレードしなければならない。

キヤノンはどうだろうか? EOSシリーズは内蔵ストロボでは制御できず、専用コマンダーの「ST-E2」が必要になる。ただしST-E2をセットすると内蔵ストロボは使えない。また同種の装置はニコンも用意していて、コマンダー「SU-800」を使えば、D2/D40シリーズでもワイヤレスストロボが可能になる。

コマンダーとしてだけでなく、通常の外付けストロボとしても使いたいというなら、コマンダー機能を備えた外部ストロボを用意すればいい。ニコンの「SB-800」、ペンタックスの「AF540FGZ」「AF360FGZ」がそれだ。ただしワイヤレスストロボを使う場合、リモートで発光する外部ストロボが別に必要になる。ちょっと贅沢なシステムだ。

今回使用したD80。内蔵ストロボがコマンダーと光源の両方で使える

ニコンD200。これも内蔵ストロボがコマンダーになる

富士フイルムのS5 Pro。ストロボ部はD200とまったく同じ

どのカメラにもついている内蔵ストロボ。これがコマンダーとして使えるかが重要

キヤノンのスピードライトトランスミッター「ST-E2」

ニコンのワイヤレススピードライトコマンダー「SU-800」

ワイヤレスストロボが可能な一眼レフ。ニコンのチカラの入れ具合がわかる

やはり自動調光でなければ面倒

いままで挙げた以外でも、ワイヤレスストロボが使えなくはない。多くの外部ストロボには「スレーブ発光」という機能がついている。他からのストロボ光を検知して自分も発光する機能で、スレーブ専用の「ヒカル小町」といった名品もあるぐらいだ。こういったストロボを使えば、どのカメラでもワイヤレスストロボが使えることになる。

しかしこの場合、発光量をマニュアルで調整しなければならない。慣れているプロなら面倒でないのかもしれないが、一般にはちょっと薦められない。また、プリ発光を拾ってしまう可能性もある。プリ発光とは測光などのために事前にストロボが光ること。コンパクトカメラなどでは何度も光るものがある。これを外部ストロボが勘違いすることも多いのだ。

下に簡単な多灯システムの図を挙げた。今回は内蔵ストロボ+外部ストロボという2灯で撮影しているが、図のような3グループ程度の多灯撮影はよくあるが、それぞれの光量をマニュアルで合わせるのは面倒なもの。手元のカメラですべて調整できるものが望ましい。外部ストロボまで含めた自動調光やTTL調光が可能なシステムがお薦めである。

多灯撮影。各グループで明るさを変化させてバランスを取る。主灯は別にしてもかまわない。ニコンによると1グループ3灯ぐらいまでが使いやすいとのこと