2018年9月に経済産業省が公開した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」に足並みをそろえる形で、佐賀県では「第4次産業革命を佐賀県から」を合言葉に、県内企業のDXの推進とAI/IoT活用を支援する目的で、2018年10月に佐賀県産業スマート化センターを開設しました。

同センターではAIやIoTの理解を深めてもらうための展示・体験ブースの設置、企業の取り組みを支援する相談員の配置を行うとともに、定期的な人材育成セミナーの開催や、ソリューションを持つIT企業と導入を希望する企業とのマッチング支援・交流会の開催などを行っています。このマッチングに登録している企業は現在170社を超えており、佐賀県内のDXへの注目度の高さがうかがえます。

そうしたさまざまな取り組みの結果、県内企業のDXやAI/IoTへの理解・興味が深まり、現在スマート化センターは月間100名が訪れる施設に成長しており、次の一手としてPythonを中心としたIT人材育成講座を開催することにしました。

  • インタビュイーの方々

    (右)佐賀県産業労働部産業政策課DX・スタートアップ推進室 係長 東 泰史 氏
    (中)佐賀県産業労働部産業政策課DX・スタートアップ推進室 井上 絢水 氏
    (左)佐賀県産業労働部産業政策課DX・スタートアップ推進室 五反田 龍之介 氏

Q.佐賀県内でDXを推進する中で、Pythonを中心としたIT人材育成講座を開くことになった経緯を教えてください。

東氏:
スマート化センターの活動もあり、佐賀県内でもAI/IoTの活用やDXを推進する企業が増えました。また県外からのIT企業の進出も増加する中で、次の課題として、社内にそれに対応できる人材がいない、人材募集をかけても採用できないといったIT人材不足が叫ばれるようになりました。

その一方で、県内でプログラミングを含めたITの知識を得るためには、国立大である佐賀大学や2年制の専門学校に通う必要があるなどハードルが高く、IT企業やITを活用する企業での勤務を希望しながらも、それに必要な知識を県内で学ぶ機会が得られないという若年者の声も聞こえてきます。

これら両者をマッチングできるようになれば、人材不足および若年者の県外流出という両面での課題を解決し、さらなるDXの推進が期待できると考え、プログラミング未経験でもIT人材として必要な知識を習得できる講座「SAGA Smart Samurai ~ゼロから学ぶプログラミング塾~」を立ち上げることにしました。

どのプログラミング言語を選択するかにあたっては、若い人たちに興味を持ってもらえるような人気のある言語であることや、初心者でも学びやすいこと、AI/IoTの活用にも役立つ将来性のある言語は何かと考え、Pythonを選択しました。受講希望者が殺到し、多くの方が最後まで学習を続けられたことはPythonを選択した影響が大きかったと感じています。

Q.「SAGA Smart Samurai ~ゼロから学ぶプログラミング塾~」の講座内容をお聞かせください。

東氏:
現在ではコロナの影響によりオンラインで講座を実施しています。受講者はZoomとSlackとPyCharmを同時に使いながら、作成したコードはGitHub上で共有するといった実践形式です。

Pythonの基礎をしっかり学ぶということはもちろんですが、開発環境の構築やOS、Web APIなど、開発に関連する知識を一通り学ぶことができます。簡易なプログラムであれば自分で実装できるスキルを身につけることはもちろん、IT企業の開発チームの一員として活躍し、ユーザー側の企業に就職した場合も、IT事業としっかり話ができるなど、現場の課題に取り組めるレベルを目指しています。

Q.Python試験を推奨いただいていますが、その理由と受講生の反応を教えてください。

東氏:
オンライン講座というのもあってか、講座が進むにつれ、受講生の多くが「自分は他の人と比べて遅れている」という不安を感じていたようで、「学んだ成果を見える形にしたい」という声があがるようになりました。 そこで、当初から講座の到達レベルとして「Python 3 エンジニア認定基礎試験」に合格できることを設定していたこともあり、それを機に本格的に認定試験の受験を受講生に薦めることにしました。まずは試験の概要を受講生に知ってもらおうと思い、Pythonエンジニア育成推進協会に相談したところ、代表理事の吉政氏にオンライン説明会を開催いただきました。そのあと、受験者同士の勉強会を企画するなどの合格に向けたサポートを行いました。

結果として、満点合格者を含め受験者6人が全員合格しました。合格した方は、学習の成果がしっかり目に見える形となり、「自分は理解できている」という自信をもてるようになったようです。合格者の声を聞いてほかの受講生も受験に向けた準備を進めています。

井上氏:
講師が薦めている教材を調べて購入したり、関連する他の試験を受けてみたりなど、意欲的な行動が増え、Pythonエンジニア認定試験を受験したことで学習へのモチベーションがあがったように思えます。

Q.コロナ禍で講座の開催に影響はありましたか?

東氏:
当初は集合研修を予定していましたが、全面的にオンライン授業に変更しました。ZoomとSlackを利用して、講師が受講生の理解度を確認しながら進めていますが、意外とこの方が、コミュニケーションが取りやすいと好評なようです。

また、基本的にはオンラインですが、自宅にWi-Fiがないといった事情や、誰かと一緒に学習したいといった希望を考慮して、学習場所も用意しています。学習場所は県内のおしゃれなカフェに協力をお願いしていますので、皆さんのモチベーションも上がり、お互い励まし合いながら楽しく学習しているようです。学習場所としての利用を機に、カフェのファンになった受講者も多く、コロナ禍で来店者が減少する中で店舗側にも少しは貢献できたかなと思っています。

井上氏:
大きなスクリーンがある会場で受講したい方や、受講生同士で集まって学習したい方は用意した会場で学習していますが、ほとんどの方が自宅でのオンライン受講で、育児や家事をこなしながらなど、それぞれの都合に合わせて快適に受講できている印象です。 用意した会場にはおしゃれなカフェもありますので、気分転換として活用したり、自主的に仲間と集まって学習したりもしていたようで、オフラインとオンラインをうまく使い分けて利用していると思います。 最初はオンラインでの学習についていけるのかといった不安もあったと思いますが、Slackを使えば朝から深夜まで、都合のいいタイミングで投稿ができますし、授業中に質問をしにくいという人でもSlackなら質問を投げかけやすいと感じていたようです。

Q.講座にはどういった方が参加していますか?

東氏:
県内在住者、県内企業勤務者、佐賀県への移住予定者を対象に受講者100名を募集しました。受講料は無料ですが、テキスト代や環境を整備するための実費は受講者が負担しています。 当初は100名集客できるか不安で、Webサイトの公開や説明会の開催、チラシ、ポスター、SNS広告などあらゆる手段を尽くしましたが、いざ募集が始まると、1週間で応募が100名を超え、最終的には700名以上の応募をいただくこととなり、Pythonの人気の高さに本当に驚きました。 最終的には講座で学んだ知識を実務で活用できそうな方を中心に100名選考し、そのうち求職者と学生が約半数、残り半数が在職者の方となっています。在職者の方の中にはIT企業で働いている方も10人ほどいます。

Q.求職者が約半数ほどですが、講座の中で何か支援をされているのでしょうか。

東氏:
このプロジェクトではIT人材を必要とする約40社の県内企業にサポート企業として登録いただいており、そうしたサポート企業の方に、講義の合間に企業紹介をしていただく交流会を行っています。受講生のうち、半数ほどが求職者であることも手伝って、受講者・企業側ともに非常に好評をいただいている企画です。

交流会にご参加いただいた企業の中には、地元では有名なIT企業もあれば、あまり知られていなかった企業もあり、求職者だけでなく、在職中の方も関心度が高いようです。 受講生の中にもサポート企業にお勤めの方がいらっしゃって「受講生に自社に来て欲しい」と企業側の担当者として交流会を開催いただいたこともありました。

Q.「SAGA Smart Samurai ~ゼロから学ぶプログラミング塾~」の開催で感じたことや、今後の計画があれば教えてください。

五反田氏:

多くの方に手を挙げていただき、最終的に75%の人が最後まで取り組んでくれたということがとても嬉しかったです。また、講座終了後に機械学習を実装するハッカソンを企画したところ、高いハードルを設定していたにも関わらず、チャレンジする人が数十人出てきたことにも驚きました。

今回、コロナでオンラインになってしまったことは仕方のないことではありますが、その状況に左右されずに、やりがいを持って取り組んでくれたことが一番の収穫だと感じています。

東氏:
講座の選考に漏れてしまった方から「追加でやって欲しい」という話も多数いただいていますので、次年度も引き続き開催したいと考えています。受講生の皆さんに対しては、学んだことが現場で活かせるように、今後もどんどん次のステップに向かっていってほしいです。Pythonエンジニア認定基礎試験、データ分析共に、興味を持っている方も多いので、今後も受講生の受験・合格を継続して支援していきたいです。

団体概要

佐賀県産業スマート化センター
所在地:佐賀県佐賀市鍋島町八戸溝114 佐賀県工業技術センター生産技術棟内
URL :https://www.saga-smart.jp/

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