2020年以降、マーケティング組織を取り巻く環境は大きく変わった。パンデミックによる影響はもちろん、プライバシー規制が強まり顧客のターゲティングが難しくなったことや、AIが急速に進歩し今まで以上に変化への対応を迫られていることなどもマーケターを悩ませる課題といえる。

HubSpotが実施した「2023年版マーケティング組織の課題調査」では、上述のような環境の変化と課題が浮き彫りになる中で、約7割のマーケティング従事者が「過去1年で施策のROI(Return On Investment:費用対効果)を厳しく問われるようになった」と回答し、ROIについての課題が高まっていることが明らかになった。

本記事では、日本のマーケティング従事者732名を対象にオンラインで実施した同調査結果をもとに、マーケティング組織の現状を整理。その上で、マーケターが今後取るべきアクションについて、HubSpot Japanシニアマーケティングディレクター 伊佐 裕也 氏に見解を伺っていく。

マーケティング組織を取り巻く社会環境は大きく変化

ここ数年に起きたマーケティング組織の変化。その最初の転換点になったのは、やはり2020年に世界を襲ったパンデミックだろう。コロナ禍によってオフラインコミュニケーションは断絶され、多くの企業のビジネスは変容を余儀なくされた。営業担当者は顧客を直接訪問することが難しくなり、あらゆる展示会が中止され貴重なリード創出の機会が失われた。

そのような状況下で企業が活路を見出したのがオンラインにおける施策だ。オンライン会議ツールを活用した商談、メルマガやウェビナー、SNS運用、オンライン広告などの需要が一気に高まり、これまでオフラインを中心にビジネスを行っていた企業も軒並みオンラインへと進出した。

結果として起こったのが、デジタルコンテンツの飽和だ。あまりにもコンテンツが増えすぎたことで、顧客はどのコンテンツに価値があるのかわかりにくいと感じるようになった。また、入札で価格が決定する運用型のオンライン広告は、競合が増えたことで単価が上昇した。HubSpotの調査によると、マーケターの62.3%が2023年現在、広告単価の上昇を課題に感じているという。米国においては、オンライン広告の効果を疑問視し始めた企業や、不況で広告費を賄えなくなった企業の撤退などにより、最近は広告単価下落の兆候が見られるという声も聞かれるが、いずれにしても先の変化が読みづらいことに変わりはなく、マーケターにとっては頭の痛い状況が続いているといえるだろう。

さらに追い打ちとなったのが、グローバルで進むプライバシー規制だ。サードパーティCookieが規制され、企業にとっては自社で取得できるファーストパーティデータの重要性が増している。ただ、そう簡単に適用できる企業ばかりではなく、やはりこの点もマーケターにとっては喫緊の課題といえる。実際に今回の調査でもマーケターの65.7%が「プライバシー規制により顧客のターゲティングが難しくなっている」ことが課題だと回答している。

加えて、昨今の社会情勢として外せないのが、生成AI(ジェネレーティブAI)が与えたインパクトである。AIそのものは、以前から社会のさまざまな場所で活用されていたが、ChatGPTに代表される生成AIは、これまでのAIと異なり「独自の新しいアウトプットを生み出すことができる」点とその進化のスピードで大きな注目を集めている。今後はマーケティングやセールスの分野においても、生成AIが何らかの形で導入されるようになることは間違いないだろう。今回の調査でも「AIなど新しいテクノロジーの情報収集や活用が必要であると感じている」との回答は91.2%に達している。

一方で、「AIなどの新しいテクノロジーにマーケティングのプランが追いつかない」との回答が62.6%、「AIなどの最新のテクノロジーを活用することへの漠然とした不安がある」との回答が55.5%に達するなど、最新テクノロジーにどう対応していけばいいのか、不安感を覚えるマーケターも少なくないようだ。

“わかってはいるものの実践できていない”?現在のマーケティング組織の課題と現状とは

ここまで見てきたいわば外的な要因の現状分析を踏まえて、さらにマーケティング組織における課題にフォーカスしていこう。

調査によると、「マーケティング担当者/部門としての目標達成の難易度は、過去1年でそれ以前と比べて難しくなっている」(73.1%)、「1年前と比較して、社内でマーケティング施策のROIを厳しく問われるようになった」(67%)と、多くのマーケターが状況の厳しさを実感しているようだ。

これらの要因の1つが買い手側の変化である。前述したようにパンデミック以降、デジタルコンテンツが急増し、買い手にはより多くの情報が届くようになった。また、世界的な不況の影響もあり、買い手側はこれまでよりも慎重に製品やサービスを比較するようになり、結果として購買に至るまでのプロセスが長期化したのだ。これは日本だけでなく、グローバルのビジネスシーンでも共通して起きている変化である。実際にHubSpotの調査でも、1年前と比較して「見込み客は競合との価格比較に敏感になっている」と42.2%のマーケターが回答しており、この顧客の変化を裏付けている。

こうした状況を打開し、ROIを高めていくにはマーケティング施策の効果測定が不可欠だ。効果測定を繰り返すことで顧客理解を高め、より見込み顧客のニーズに合致する、インパクトの大きな施策に投資することが必要だからだ。この点は多くのマーケターも感じているようで、「マーケターが考えるROIを高めるために必要なこと」という問いには、「自社の見込み客像を正しく理解すること(93.8%)」「マーケティング組織として、施策それぞれの効果を測定できるようにすること(94.4%)」がそれぞれかなり高い数値となっている。

さらに、「マーケティング組織内だけにとどまらず、営業など他部署との情報やデータを連携すること」「商談の成立など営業のフェイズまで見据えたプランニングをすること」など、別の部署との連携が必要だと感じているマーケターも9割を超えており、効果測定と部署を超えたデータの連携の重要性は誰もが実感しているようだ。

だが、事はそう簡単ではない。

調査によると、「効果測定がきちんと行えていない」と回答したマーケターは72.6%に上っており、「ROI改善のために必要だと思うことが実践できていない」マーケターも半数に達している。

”わかってはいるものの実践できていない”のが実情なのだ。

では、こうしたマーケティング組織の抱える課題をどのように解決していけばいいのだろうか。

顧客を理解し、一貫した顧客体験を提供していくには

昨今の組織が抱える様々な課題の多くは人員不足の影響によるところが大きい。実際、「マーケティング担当の人員が増員できない、または人員が減らされたこと」について、64.2%のマーケターが課題に感じているという調査結果も出ている。

だが、前段で提示した「マーケティング組織におけるデータ分析や効果測定がきちんと行えていない課題」の原因を人員不足で片付けられるかというと、そうではない。伊佐氏はこう話す。

「人員不足が解消したからといってデータ分析や効果測定ができるようになったり、それらから導かれる顧客の深い理解が実現できたりするわけではありません。マーケティング施策の効果測定をするにしても、そもそも目標をどう設定すればいいのか理解していなければ、的外れになってしまいます。たとえば、ブランディング広告の効果測定のためにリード創出の件数を見たり、コミュニティーマーケティングにおいて売上ターゲットを測定したりしても、分析結果に基づいた施策の策定に繋げづらいでしょう。こうした効果測定のためのデータの収集や分析にはある程度の経験値とスキルが求められており、ここで意味する“不足”とはそういったスキルを持った人材といえます」(伊佐氏)

さらに、社内でツールが乱立していることが多い点もデータ連携を行う上で問題になっていると伊佐氏は言う。たとえばメールマーケティングやイベントマーケティング、広告やコミュニティーなどさまざまなマーケティング施策を行っても、取得したデータが異なるツールや部署に散らばっていては連携が難しい。その結果、実施した施策の関係性をうまく分析できず、一面的な見解にとどまってしまう。複数の施策の効果測定を俯瞰してカスタマージャーニーを設計するには、「データ」と「組織」の2つがしっかりと連携できていることが重要なのである。

「まず、データの連携やジャーニーの設計といった課題は手段であって、何のためにやるのかを改めて考えることが重要です。そもそも自分たちはどんな顧客に何を届けたいのか、ペルソナを明確に設定し、そこからジャーニーの設計が始まります。大事なのは点と点をつないで線にすることです。たとえば顧客がメールを見て製品に興味を持って連絡を取ったとします。その後営業担当者がつき、商談したら、メールでやりとりしていた内容がまったく共有されておらず、的はずれな提案をされてしまった……といったことはデータと組織が分断されていたから起きる事態といえます。そうならないために、一貫性のある顧客体験を作ることが重要です」(伊佐氏)

HubSpot Japan株式会社
シニア マーケティング ディレクター 伊佐 裕也 氏

今回の調査で見えてきた課題として挙がった「ROI」についても、伊佐氏は顧客視点を持った上で「リターンをどこにおくか」をしっかり設計すべきだと提言する。多くの企業はROIのリターン部分を目の前の売上に設定しがちだが、それ自体は間違っていないものの、より大局を見たROIの考え方もあるという。

「ここでも、企業目線に絞ったROIにとらわれるのではなく、顧客に何をもたらすことができて、どんな関係性を築きたいのかという顧客目線を持つことが大事なのではないでしょうか。たとえば、良い顧客体験を提供できれば、仮に一度離れても顧客は戻ってきてくれるものです。そうした中長期的な目線で関係を築き、ライフタイムバリューを向上させることをリターンとして考えることもできるはずです。いずれにしても、ROIにはさまざまな考え方があります。企業の中で、今一度顧客視点をもち、どんな指標でROIを測るのがいいのかを考えることが重要です」(伊佐氏)

ROIをどう測るのかを定め、データと組織を連携させて一貫性のある顧客体験を作り出す――それは決して簡単なことではない。そこで活用したいのが、様々なデジタルソリューションである。

HubSpotの調査によると、マーケターがROIを高めるために必要だと考えるツールは1位「データ分析ツール」、2位「CRMツール」、3位「社内のコミュニケーションツール」だという。いずれもデータや組織を連携させるためのソリューションとして納得感のある回答といえるだろう。しかし、こうしたツールは導入そのものが目的になってしまっているケースも少なくないと伊佐氏は指摘する。

「どんなツールも使われなければ意味がありません。そのため、何のために導入するのかという意識を持つことが非常に重要です。また、自分たちの組織に合ったツールを選ぶことも大事です。導入や活用をどこまでサポートしてくれるのか、そういったところもしっかりと見て、組織に確実に浸透するツールを選ぶべきでしょう」(伊佐氏)

データと組織の連携を実現するソリューションの一つがCRMプラットフォーム「HubSpot」だ。「HubSpot」は顧客と企業の最初の出会いとなる顧客接点から購買、購買後のサクセスまでのすべてのデータを一元管理できる。これにより、カスタマージャーニーの各接点における分断がなくなり、一貫した顧客体験を提供できるのだ。

「『HubSpot』は使いやすいUIやヘルプページを備えており、またチャットや電話による手厚いサポートも提供しています。そのため、専門知識を持たない方でも使いこなしていただけます」(伊佐氏)

また、同社は2023年3月には生成AIを活用したツール「ChatSpot.ai」と「コンテンツアシスタント」をリリース。チャットで話しかけるような自然言語でのCRMの利用が実現し、これまでITツールを使ってことがなかった人でも使いこなせるような、操作性に優れたUIに進化を遂げている。ITリテラシーの程度に関わらず、どんなフェイズの企業でも最新テクノロジーを活用したデータ分析が可能となるため、顧客にカスタマイズした提案ができ、顧客との関係性を深める一助になるだろう。

最後に伊佐氏は「マーケターの方の漠然とした不安はよく理解出来ます。私もこれからどうなっていくのかと思うことはあります」と述べた上で次のように述べた。

「しかしそれと同時にとてもわくわくしています。積極的に学んだり挑戦したりすることで、今できないことも3ヶ月後にはできるようになっているかもしれない。そんな風に変化を楽しんでいきたいですね」(伊佐氏)

この数年でビジネス環境は激変し、これまでの常識が通用しない世界が到来した。不安を抱えるマーケターも少なくないだろうが、裏を返せばこの状況はチャンスともいえる。これから起きる変化を楽しむ気持ちで、「まずはトライしてみる」という柔軟性を持つことは今後のマーケターに必要なスキルなのはないだろうか。

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HubSpot調査「日本のマーケティング組織が抱える課題」
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