HubSpot Japanは2月19日、「日本の営業に関する意識・実態調査2024」を発表した。同調査は2019年より「日本企業の売上を支える営業組織の現状と課題を明らかにし、日本の営業組織の次のステップを考察する」ことを目的に実施されているものだ。今回は特に新型コロナウイルス感染症が5類に移行して最初の調査ということもあり、例年にも増して興味深い結果が得られている。

また、一昨年からムーブメントを引き起こしている生成AIのトレンドが、営業担当者の意識にどのような影響をもたらしているのかといった点も見逃せない注目ポイントだ。

今回は調査結果を紹介すると共に、日本の営業組織の現状についてHubSpot Japan株式会社 マーケティングチームシニアマネージャー 土井 早春 氏に解説いただいた。

デジタル化で業務が効率化されても「無駄な会議」は減っていない

まずは営業活動の実態から見ていこう。調査結果によると、営業担当者が商談やその準備、フォローアップといった顧客とのやりとりに使っている時間は業務時間の54%だという。残りの時間は会議やチームのマネジメント、報告や書類作成など、顧客とは関係のない業務に使っているわけだ。

この54%という数字は果たして多いのか少ないのか。結論からいえば「一概にはいえない」となる。なぜなら、顧客にどれだけの時間を使うかは、業種や企業規模、営業スタイルなどによって違ってくるからだ。たとえば大企業などで業務プロセスを細分化できる場合、業務時間のほとんどを顧客とのやりとりに使えることもある。逆に営業組織が小規模な場合や1人のアカウント担当者が顧客1社の窓口となるようなモデルでは、すべての業務を営業担当者が行う必要があり、結果として顧客に割ける時間が減ることもあるだろう。

もっとも、アンケートによると多くの営業担当者が「1日にあと25分、顧客とのやりとりに使う時間を増やしたい」と回答していることを鑑みれば、「お客様とのやり取りが業務時間の半分程度であることは、営業担当者としては少ないと感じている」(土井氏)のだろう。

ここで気になるのが、顧客とやりとりする時間を捻出するためにその他の業務を効率化できないのか、ということだ。

この点についても興味深い調査結果が出ている。「業務において無駄だと感じる時間の割合」について聞いたところ、結果は「業務時間の約22%を無駄だと感じる」だった。実はこの結果は同調査の過去4回の結果と同じ水準であった。コロナ禍でリモートワークやオンライン会議等が浸透したことで業務は効率化されたように思えるが、実態は異なると土井氏は語る。

「たとえばリモート勤務で移動時間が削減され効率が上がるかと思いきや、チームで円滑に仕事をするための社内会議が頻繁に開催されるようになって可処分時間は案外増えていないという声が聞かれるなど、何か1つの変化でそれまで感じていた課題が一気に解決するというわけにはいかないのが実態のようです」(土井氏)

たしかに「具体的に無駄だと感じる業務内容」という設問についても、回答で1位となったのは「社内会議」であり、この順位も過去4回の調査を通して同じであった。つまり、「リモートワークやオンライン会議が主流になっても、会議そのものの数は減らなかった」と言える。会議スタイルの主流がオンラインに移行したことでオフィスの会議室を予約する必要がなくなり、むしろ気軽に多くの会議を開催できるようになったという点も影響しているのかもしれない。

では、テクノロジーによる業務効率化はどうなのか。近年は生成AIなども登場し、業務効率化が進んでいてもおかしくないように思える。

この点についてもHubSpotはアンケートを実施。その結果、営業組織における生成AI認知率は78.8%と高い数値が出た一方で、業務に活用したことがあるのは21%に留まった。さらに、営業責任者の生成AI利用率が30.1%なのに対して、現場の営業担当者では利用率が12%と大きな差が生まれているようだ。

HubSpot Japan株式会社 マーケティングチームシニアマネージャー 土井 早春 氏

「生成AIを活用することで、お客様とのやりとりに使える時間を増やすことは可能だと考えています。ただ、ほとんどの営業担当者はまだそこまでの活用に至っていません。そうかといって生成AIを知らないわけではなく、“知ってはいるけれど使えていない”のが現状なのでしょう」(土井氏)

なぜ営業担当者は生成AIの活用が十分にできていないのか。その理由について土井氏は「ユースケースが不足しているから」だと分析する。たとえば営業組織よりも生成AIの利用率が高いマーケティング組織は、以前からSEO領域やオンライン広告などにAIを活用していたため、生成AIの活用についてもイメージがわきやすい。一方で営業組織はこれまでAI自体を業務で使う機会が少なかったために、生成AIもうまく活用できていないのだろう。

コロナ5類移行で行動制限が解かれるも、むしろ訪問型営業は減少傾向

続いて、「理想とする営業スタイル」の変化について見ていこう。

調査では「売り手(営業担当者)」と「買い手(顧客)」に分けて、理想とする営業スタイルについてアンケートを実施。その結果、2024年調査では興味深い結果が得られた。

まず、売り手の意識としては「訪問型営業の方が好ましい」の割合が2020年以来初めて微減。かわりに「リモート営業の方が好ましい」「どちらでもよい」が微増した。一方で買い手の意識としては「訪問とリモートどちらでもよい」が38.8%と継続して過去最高水準に達したのだ。この変化を土井氏はこう読み解いた。

「新型コロナウイルス感染症が5類になり、本来であれば売り手・買い手ともに『訪問型営業の方が好ましい』の割合が増えてもいいように思えます。しかし、実際には微減している。これは、売り手の意識が買い手の意識に近づいてきたからだと思われます」(土井氏)

売り手と買い手の数字の違いに注目してほしい。たとえば、2021年の結果では売り手の57.3%が「訪問型営業の方が好ましい」と回答しているのに対して、買い手のそれは40.3%に留まっている。2022年も2023年も同じで、買い手よりも売り手の方が訪問型営業を重視しているのだ。端的にいえば、買い手は「訪問でもリモートでもどちらでもいい」と思っているのに、売り手が「やはり訪問しなければ」と思っているのである。

しかし、営業スタイルは当然、顧客のニーズに合わせて変化していく。顧客がそこまで訪問を求めていないのなら、営業担当者の「訪問するべき」という考えも少しずつ減っていくことが予想される。「変化は常に買い手側から表れる」(土井氏)のであり、2024年の調査結果でそれがようやく数字として見えてきたのだろう。

なお、「訪問型営業」が減少したことで、もう1つの興味深い現象が起きていると土井氏は言う。それが、「売り手が訪問型営業を好む理由」だ。

営業担当者が訪問型営業を好む理由として1位に挙がったのが、『訪問することで商談相手から信頼を得られると思うから』(61%)であった。この数字はデータ聴取を始めた2021年から毎年増加しているという。

「“営業は訪問して対面で行う”という慣例が当たり前ではなくなった今、それでも訪問営業を好むという営業組織や担当者の中では、『顧客の信頼を得るために訪問するのだ』という目的意識が以前よりも強くなってきているのではないでしょうか」(土井氏)

「人間の感覚」「データ」どちらかでなく、”中間地点”を探ること

続いて、「営業組織における意思決定」について見ていこう。生成AIの台頭以降、「AIではなく人間が行うべき仕事は何か」という議論を見かけた人も多いのではないだろうか。

本調査では、回答者が所属する営業組織において、意思決定の際に「データを重視」するのか「人間の感覚を重視」するのかを尋ねたという。結果として、まずは営業組織の規模が「データ」と「人間の感覚」のどちらが意思決定のポイントになるかに影響を及ぼしていることがわかった。

調査結果を見ると、従業員が100名以下の組織では「人間の感覚」を重視する率が66.9%と高かったのに対し、101名〜500名規模の組織では57.9%、501名〜1,000名規模の組織では52.8%、1,001名〜5,000名規模の組織では47.9%と、組織が大きくなるにつれてデータを重視する傾向が見られた。なお、全体平均では「データを重視する」が44.5%、「人間の感覚を重視する」が55.5%と、ほぼ半々という結果になった。

この結果について、土井氏は「思ったよりもデータ重視派が多いと感じた」という。

「あくまでも私の所感ですが、日本は海外よりも、組織内で日頃から共通認識を醸成し、『人間の感覚』をベースにした意思決定を行うのが得意だと感じます。例えばHubSpotが本社を置く米国では、日本と比較して様々な文化や言語が入り交じることが多く、“暗黙の了解”が通じないため、客観的根拠としてデータを重視する企業文化が広がっているのではないかという見解を、米国の上司や同僚から聞いたこともあります。その上で今回の調査結果として、日本の営業組織の約半数は、意思決定においてデータを重視しているという結果が出たことは興味深いです」(土井氏)

もともとは感覚を重視する文化でありながら、データを取り入れている日本の営業組織もある。「そこにこそ日本企業の可能性があるのではないか」と土井氏は続ける。

「直感を用いて議論したり、お客様の気持ちに寄り添ったりといった感覚的な部分は、日本人が得意とするところであり、強みでもあります。そこにプラスアルファとしてデータをうまく活用できるようになると、日本の営業組織はもっと強くなれるのではないでしょうか。人間の感覚とデータ、どちらかだけに偏るのではなく、うまく“中間地点”を探っていくことが重要なのだと思います」(土井氏)

いずれにしても、今後の営業組織にとって大切なのは「自社としての考えや方針を持ってしっかり発信する」ことだろう。たとえば生成AIを活用する方針にしてもそうだ。前例のない変化が起き得る時代において、絶対の正解はない。だからこそ、企業は自らのスタンスを明らかにすることで従業員に指針を示す必要がある。

「HubSpotも企業としてのスタンスの発信を大事にしています。生成AIに対する方針はもちろん、少し前になりますが、例えばBlackLivesMatterのような社会運動に対する会社としての考えや、新型コロナウイルス感染拡大期の顧客やパートナー、従業員への対応方針などをHubSpotはいち早く表明しました」(土井氏)

重要なのは確固たるスタンスを持ち、それを発信すること

今回の「日本の営業に関する意識・実態調査2024」について、土井氏は「世の中には変わっていくものと変わらないものがある」ことを実感したという。たとえば、どれだけテクノロジーが進化しても常に何かしらの課題が生まれるものだということは、“変わらないこと”だ。

「そうした課題に対して絶望するのではなく、しっかりと向き合っていけば、必ずお客様から信頼を得られる営業組織になれるはずです」(土井氏)

一方で、コロナ禍や生成AIの盛り上がりといった現象は“変わっていくもの”である。そうした新しい変化に対しては、しっかりと意思を持って議論し、自社なりの見解を発信していくことが重要になる。

「変化のスピードはとてつもなく速くなっています。昔のように他社の後追いでも何とかなる時代ではありません。大切なのは目の前の課題に向き合うこと、そして新しい変化に対する見解をしっかりと持つこと。そうすれば、強い組織を作れるでしょう」(土井氏)

この1年、新型コロナウイルス感染症の5類移行や生成AIの盛り上がりなど、大きな変化が訪れた。その変化は営業組織や営業担当者にも少なからず影響をもたらしていることが、「日本の営業に関する意識・実態調査2024」から見て取れた。

企業が時代の変化に対応し、競争力を高めていくにはどうすればいいのか。今回の調査結果と土井氏の見解が、その答えを見出すヒントになりそうだ。

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HubSpot年次調査「日本の営業に関する意識・実態調査2024」
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