富士フイルムグループ全体の業務基幹システムの企画から構築、運用を担う富士フイルムシステムズは、デジタルによる業務変革で富士フイルムのビジネスを成長させることがミッションです。同社では、変革を行うのはあくまでも「人」であるとの立場から、DX(デジタルトランスフォーメーション)を牽引するクラウド人材の育成に力を入れています。さらには高度な知識とスキルを展開する中心となる Cloud Center of Excellence(CCoE)を立ち上げ、最新クラウド技術を迅速に取り入れた自社開発力の向上を推進していく考えです。そしてこの取り組みを、マイクロソフトは CCoE のアーキテクトの育成面から、同社の DX 推進を支援しています。
競争に勝つ業務変革を実現するため、人材面での DX に注力する
富士フイルムシステムズは、2020 年 4 月に富士フイルムICTソリューションズと富士ゼロックス情報システムの 2 社が統合して誕生したシステムインテグレーション会社です。富士フイルムホールディングスの子会社としてグループ全体の業務システム・情報インフラの構築・運用管理を行うことはもちろん、グループが掲げる DX(デジタルトランスフォーメーション)を技術面から牽引していく立場にあります。
富士フイルムホールディングスは 2021 年 7 月、デジタルを活用して一人ひとりが生産性を高め、革新的な顧客体験創出と社会課題解決に貢献することを謳う「DXビジョン」を策定しました。富士フイルムシステムズ社長の豊福 貴司 氏は、富士フイルムグループが目指す DX について次のように語ります。
「富士フイルムはもともと写真フィルムを事業の柱としていましたが、需要が激減したことから事業の多角化を進め、危機を乗り越えました。AI や IoT など ICT の急激な進化に伴い、様々な業界でビジネスモデルが急激に変化する激動の変革期であり、ここを乗り越えビジネスを拡大させていくためのキーが DX だと考えています」(豊福 氏)。
このビジョンのもと、グループでは「製品DX」「業務DX」「人材DX」の“3つのDX”に取り組んでいます。最新技術を駆使しながら幅広い事業分野で製品・サービスを創出していくのが「製品DX」、クラウドや AI を使ってシステムを刷新し業務変革を実現していくのが「業務DX」。そして、3 つ目の「人材DX」について豊福氏はこう解説します。
「DX は、AI やクラウドがあれば勝手に実行されるわけではありません。それらはあくまでもツールですから、製品や業務の DX を成し遂げていくうえでもツールを使いこなせる人間の存在が必須であるということで、人材面での DX を 3 つ目に掲げています」(豊福 氏)。
グループ内唯一の情報システム会社として富士フイルムシステムズが深く関わるのは、デジタルを使って業務をいかに効率よく変革していくかという「業務DX」の部分です。とはいえ「業務DX」にもバックボーンとしては最新の技術が、そしてその技術を操り開発運用に活かす人間の力が必要ですから、同社の取り組みは必然的に「人材DX」にも深く関わることになります。
最先端のクラウド技術は、マイクロソフトの人材育成プログラムとクラウド ソリューション アーキテクトから習得
この「人材DX」を実現するための施策として、2020 年秋からマイクロソフトが提供する「クラウド&AI人材育成プログラム(ESI)」を導入しています。このプログラムはクラウドを理解するための基礎知識に始まり、アプリ開発者やインフラ技術者に求められるスキルを、オンラインによるトレーニングで学び、更には Microsoft Azure(以下、Azure)の資格取得にまでチャレンジできるものです。
同社では数多くの社員にこのプログラムによる学びの場を設定し、クラウドや AI の基礎力強化を図ってきましたが、さらなるチャレンジもしています。豊福 氏が引き続き説明します。
「まずは会社全体のレベルを底上げしたうえで、技術をさらに極めていくために、社内でクラウドに関わる技術をリードする CCoE(Cloud Center of Excellence)の設立を計画しています。社員が個々に基礎的知識を学ぶことにはもちろん意義がありますが、中核的な組織を立ち上げ、そこでノウハウを獲得して横展開し、底上げのレベルアップのスピードを上げていくことも必要です」(豊福 氏)。
その組織こそが CCoE であり、CCoE で活躍するトップランナー人材を育成する目的で、選抜メンバーを対象にマイクロソフトの Azure に関する知識と技術、そして経験値を有するクラウド ソリューション アーキテクトが、クラウド導入を加速するための Azureの技術とベストプラクティスを情報提供しています。
同社がCCoE の必要性を感じる背景には、富士フイルム全体の DX を加速させるため、アプリケーションのデリバリー速度を飛躍的に高めなければならないという理由があります。従来はインフラ技術を中心にクラウドを利用しており、アプリ開発のスピードアップまでは実現できていませんでした。そのなかで、業務DX で重要な役割を果たす Azure 上のデータ活用経営基盤や、Dynamics 365 のシステムといったグループでの導入が予定されている基盤を活用していくには、マイクロソフトのクラウド技術を効率よく獲得し、高度に使いこなすことがとりわけ急務となっていました。
「クラウド技術は進化が激しく、まさにスピード勝負であり、的確にキャッチアップしていくことが重要です。座学で知識を得ても、実践が伴わなければ、富士フイルムが勝っていく源としての業務DX にはつながっていきません」と豊福 氏。業務DX のコアエンジンとなる CCoE で Azure に関わるさまざまな技術を横展開する際、先頭に立って牽引する人材を育成することが必須であると考え、CCoE 設立の第一歩として、マイクロソフトのクラウドソリューションアーキテクトから最新技術の講義をしてもらうとともに、Azure 導入のための標準ガイドラインの策定を一緒に行ってもらったということです。
ちなみにこれらの技術情報は、同社の CCoE 設立に向けたプロジェクトの状況を踏まえ、マイクロソフトがオーダーメイドで特別に提供しているものです。コンテンツについても参加者の要望を聞きながら、ニーズに応じて柔軟に決めていく体制をとっています。
座学+実践ベースの豊富な学びで現場に活かせるノウハウを獲得
CCoE の第一歩として、これまでにインフラ・アプリケーション・データの各領域で 6 人の選抜メンバーを育成し、すでにインフラ領域とアプリケーション領域で 3 人がプログラムを完了して実際の DX 案件で活躍を始めています。
プログラムの期間は 3 カ月を基本とし、週 1 回 2 時間程度、マイクロソフトの最先端技術をクラウド ソリューション アーキテクトからリモート形式で学んでいきます。座学だけでなく、実際のプロジェクトにおける Azure 設計を行うなど実際の業務を題材とした OJT を実施し、今後の CCoE の活動につなげていくことを目指しています。その過程で、Azure Certified の認定資格取得も学びの一つの指標として取り入れています。
2021 年 6 ~ 9 月に参加した鈴木 智 氏は、クラウド技術を活用した先進的なアプリ開発をリードしてきました。現在は、Azure の実利用の展開促進と全社的な技術力向上をミッションに活動しています。
鈴木 氏の参加の際、まずは座学で Azureの設計思想も含め全体を俯瞰する形で基本を学び、その後は Azure Well-Architected Framework をベースとして、実際の Azure 環境構築プロジェクトに参加する形の OJT で学びを進めたといいます。「プロジェクト上の課題についてマイクロソフトの技術者に直接オンラインやチャットで質問し、答えていただくなど、現実のプロジェクトに基づくサポートをしてもらいました」と鈴木 氏は話します。
鈴木 氏に関しては、これまでの実績と経験に加え、今後の全社技術向上においてリーダーとして期待していることから選抜したと豊福 氏が教えてくれました。実際に鈴木 氏は CCoE の組織化を提案した人物であり、本プログラムに選抜された際は「とてもありがたく感じました。ただ、今後会社を引っ張っていかなければならない立場ということで、身が引き締まる思いでした」と振り返ります。
一方、海津 朱那 氏は現在進行形でプログラムに参加中です。2022 年から AI を使った機能開発の案件に携わっている海津 氏は、やはり経営層の大きな期待を背負い、データ領域でプログラムに参画しています。内容は、環境構築の学びが中心だった鈴木 氏と異なり、サーバー構築やサーバーレスアプリケーション構築等の代表的なクラウドの学びをハンズオンも交えながら体験後、データ分析を行う Azure サービスにフォーカスして学習しているとのこと。今後は機械学習についても学んでいく予定だといいます。
プログラムに参加して得られた成果として、鈴木 氏は「Azure を会社のルールに従って使えるようにする現場で、基盤面の設計思想の座学やディスカッションから得られた知識を活かせています。また、CAF(Microsoft Cloud Adoption Framework for Azure)を活用した現場でのガイドラインの整理ができた点も成果と考えています」と話します。プログラムの中では、最新技術の採用について他社サービスとも比較しながら、公平な視点での情報をマイクロソフトの担当者から聞くなど、さまざまな情報を得られたのが印象的だったと振り返ります。
対して海津 氏はまだプログラムの途中ですが、「現在取り組んでいる AI を使った案件で困っている内容についてハンズオン形式での指導をリクエストしたところ、実際に使うサービスをハンズオンで丁寧に教えてくれました。私のリクエストに対して、毎回これでもかというほどハンズオンを実施してくれるようになったのです。ほかにも、困りごとにはタイムリーに相談に乗ってくれましたし、データ分析基盤を Azure へ移行する場合にどういったサービスが使えるか、現状のデータ量やコスト、使い方を想定したうえでの代替案など、自分たちの目線に合った提案やサポートをしてくれるのがとても印象的でした」と、エピソードを話してくれました。
座学だけでなく、ハンズオンの実践から得られた学びは特に大きかったようです。
「座学のみではなかなか吸収できない部分もあるのですが、実際に作っているとイメージが湧きやすく、気をつけるべきところもよくわかるので、理解度はかなり深まりました。CCoE の活動でも、ハンズオンの際にマイクロソフトの技術者が渡してくれた資料を私なりに噛み砕き、Azure を触ったことのない人に展開していこうと考えています」(海津氏)。
全社底上げを牽引する CCoE の組織化に向け着実な第一歩を踏み出す
プログラムを一通り終えたいま、CCoE の組織化に向けた課題について鈴木 氏はこう話します。
「まず、CCoE を活用する環境を作ることはできました。セキュリティの専門家については今後育成していかなければならないなど、まだ道半ばではありますが、プログラムで学んだことを活かせる手応えを感じています」(鈴木 氏)。
これについて豊福 氏は「会社としては、CCoE は最初から完璧なものを目指すというより、走りながら徐々に組織を作り上げていく形をとっています。インフラ・アプリケーション・データ領域以外のプロフェッショナルについても、今後このプログラムを活用して育てていく可能性があるでしょう。さらには、プログラムを修了したメンバーが増えていくことで社内の技術コミュニティが活性化され、自己学習の輪が広がることも期待しています」と語ります。
最後に、豊福 氏は今後に向けた展望を語ります。
「Azure 上のデータ基盤がこれからさらに増えていくなかで、AI などの最新技術を活用しながら業務 DX を進化させていくことが、富士フイルムグループにおける当社のミッションです。いまはそのベースラインをつくり上げている段階で、今後本腰を入れて Azure の活用を広げていきます。マイクロソフトのクラウド技術は当社にとって、また富士フイルムグループの DX にとって欠かせないものとなっているので、マイクロソフトには Azure に関わる人材育成にこれからも継続的な支援をお願いしたいと思います」(豊福 氏)。
鈴木 氏も、マイクロソフトのサポートに対して次のような要望を教えてくれました。
「クラウドの進化は 1 年前に学んだことが陳腐化するほど速いため、正直、ついていくのが大変です。マイクロソフトには、プログラムを終えてからも定期的なフォローアップや最先端の情報提供をぜひ継続してほしいですね。また、技術者は社内のみにとどまっていると視点が固定化され、進化が止まってしまうので、企業の技術者同士が交流する場を設けてほしいと思います」(鈴木 氏)。
マイクロソフトはこうした要望に真摯に応え、これからも富士フイルムの成長をさまざまな面からサポートしていきます。
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