企業がAI開発に取り組む上でネックになりうるのが開発環境の構築だ。本来はモデル開発などのコア業務に集中したいのに、計算リソースの管理や学習モデルの管理といった環境構築にリソースを取られてしまい、なかなか開発効率が上がらないケースが多いのである。
そうしたインフラ面をサポートするのが、マクニカの提供する「AI学習環境構築サービス」だ。同サービスではシステム構築に加えてNVIDIA製のハードウェアも提供。現場でAI開発に関わる方やそれを支援する管理職の方に向けた技術勉強会から、導入時・導入後のトラブルをサポートし、企業のAI開発を強力に後押ししている。
今回、このAI学習環境構築サービスを導入し、AI開発を加速させている村田製作所にインタビューを実施。技術・事業開発本部 共通基盤技術センター データサイエンス推進課 シニアマネージャーの田邉健太朗氏、マネージャーの徳本直樹氏、プリンシパルエンジニアの伴野泰祥氏、伊藤直也氏に導入の経緯と活用事例について伺った。
AIプロジェクトの増加で開発環境の見直しが急務に
村田製作所はセラミックスベースの電子デバイスの研究開発・生産・販売を行う電子部品メーカーだ。同社の製品はスマートフォンやテレビ、PCなどあらゆる電子機器に使われており、世界でもトップクラスのシェアを誇るグローバルカンパニーである。
そんな同社が現在、注力しているのが長期構想「Vision2030」に基づくDXの推進であり、その中で重要な要素として挙げられるのがAI開発だ。といっても最近になってDXに取り組み始めたわけではない。そもそも同社は「DX」という言葉が世の中に広まる前からデジタルを業務に導入しており、データ分析やデータ活用にも積極的だった。
そうした村田製作所におけるデータサイエンス領域のうち、新しい要素技術開発を一手に引き受けるのが、技術・事業開発本部 共通基盤技術センター データサイエンス推進課である。同組織はコーポレート部門や製造部門といったあらゆる事業部と連携し、全社を横断したDX推進とAI開発に取り組んでいる。
一方で、今後のAI開発を考えたとき、解決すべき課題もあった。
「これまでのAI開発における計算機の環境構築は、エンジニアがその都度必要な分を買うか、AWSやAzureを使って行っていました。ただ、そのやり方だと、AIプロジェクトが増えていくにつれてコストが膨れ上がってしまいます。また会社としても全体感がつかめないため、予算が見繕いにくいという課題がありました」(伴野氏)
事実、同社におけるAIプロジェクトは増加の一途を辿っていた。このままの状況が続くと、管理コストの増大や計算機リソースの不足によりAI開発の停滞につながってしまう恐れもある。そこで同社が導入したのが、マクニカのAI学習環境構築サービスだった。
「大型の計算機を導入してシェアリングする形にしたほうが費用も抑制できます。また、一般的にエンジニアは開発におけるトラブルを一人でなんとかしようと抱え込んでしまう傾向にありますが、開発環境を部署で一元管理すれば知見を共有できますから解決が早くなります。そうした点を考慮して、これから先を見据えるのであれば、AI学習環境構築サービスを導入したほうがいいだろうという話になりました」(徳本氏)
NVIDIA製品の提供と高いセキュリティ、手厚いサポートが決め手
競合サービスではなく、マクニカのAI学習環境構築サービスを選んだ理由は3つあるという。まず、マクニカがNVIDIAの正規代理店を務めており、同サービスでもNVIDIA製のハードウェアを提供している点だ。
「NVIDIAのデータセンターGPU『V100』は、学術界をはじめとする様々な産業のAI開発に用いられています。これから環境を構築するのであれば、やはり確かな実績と信頼性のあるNVIDIA製品を採用すべきだろうと考えました」(徳本氏)
2つめの理由がマクニカによるサポートだ。もともと村田製作所はマクニカと取引があり、そのサポートの手厚さを十分にわかっていた。「せっかく導入するなら、やはりサポートが一番いいところにした方がスムーズに物事が進むはず」(徳本氏)という判断からマクニカのAI学習環境構築サービスの導入に至ったのだ。
「導入初期はやはり、わからないことも多々ありました。マクニカさんから技術勉強会を実施いただき、その後もサポートをしていただけたことで、非常にスムーズに環境構築できたという実感があります」(伊藤氏)
最後に強固なセキュリティが保証されている点だ。言うまでもなく村田製作所は日本を代表する電子部品メーカー。その技術は世界トップクラスであり、同社が扱うデータは最高レベルの機密情報といえる。そうした情報が万が一にも流出しないようにするには、AI開発環境においても高いセキュリティが求められるのだ。
「村田製作所には『Need not to know(必要な者だけが知るべき)』のカルチャーが根付いています。情報管理には非常に厳しいため、いくらAIの効果が大きかったとしても、いきなり多くのデータをクラウドに上げるとなると社内での理解が得られなかったでしょう」(徳本氏)
その点、マクニカのAI学習環境構築サービスはオンプレミスを想定して提供しており、最新のセキュリティソフトを導入するなど万全のセキュリティを確保している。
「もしこれがクラウドだった場合、機密性の高い情報を数多く取り扱っている材料開発部門や量産工場からデータを入手する事自体ができなかったと思います。自社サーバだったからこそ、機密性の高い情報を入手する事が出来、AI開発に取り組めたのです」(伴野氏)
AI学習環境構築サービスで開発したAIが大反響を呼んだ
AI学習環境構築サービス導入プロジェクトは2021年9月から開始され、翌月には早くも部署内での本格活用がスタートした。その後の効果は全社に知れ渡ることになるが、そのきっかけとなったのが電子顕微鏡の画像を分析するAIソフトの開発だった。
「マクニカさんと構築したAI学習環境で最初に試したのは、走査電子顕微鏡(SEM)の画像を入力することで粒度分布や標準偏差が出力できるAIソフトです。これまでは人の目で写真を確認し、手作業で粒子一つ一つに丸付け作業をしていたのですが、そのようなやり方の場合、1枚につき30分以上時間がかかってしまいます。AIを用いることでその作業を自動化することができ、会社にとってもかなりのインパクトがありました」(伴野氏)
AIによる業務効率化の成果を社内向けに開催しているAIフォーラムで発表したところ、社内から問い合わせが殺到。「AIを活用した画像解析の効果が周知されたことで、もっとAIを様々な領域に活用していこうという流れが生まれました」(伴野氏)という。
全社に衝撃を与えたAIの開発以降、同社では様々な取り組みが進んでいる。
たとえば、画像にしても平面だけでなく、3Dの立体画像を使った試みだ。立体物をデジタル化するためには無数の点で位置情報を示した点群データを用いるが、このデータをAIで処理するのである。
「3Dの点群データは平面の画像データと比べてデータ量が膨大です。それだけ大きなデータをAIで扱うのは従来の環境だと難しい。ですが、今回導入したAI学習環境とNVIDIA製品なら、現実的な速度で処理できます」(伊藤氏)
3Dの点群データを用いたAIの取り組みはまだ発展途上で、本格的な活用はこれからだ。とはいえ、「これまでは検討すらできなかったわけですから、現実的に考えられるようになったのは大きい」(伊藤氏)という。
また、自然言語処理を用いたAIチャットボット開発も進んでいるという。社内のノウハウやトラブル対応の方法などをデータベース化し、自然言語で呼び出せるようにする仕組みだ。
「もともと社内向けにはルールベースでのFAQは用意されていました。ですが、昨今のChatGPTのトレンドなどもあり、自然言語処理によるチャットボットにも取り組むべきだろうとなったのです」(田邉氏)
ChatGPTの処理性能を支えているのが大規模なGPUサーバであることは周知の事実だ。社内向けに限定したとしても、高精度なチャットボットを開発するのであれば、計算機環境がリッチであるにこしたことはない。その意味でも、NVIDIA製品が利用できるマクニカ提供のAI学習環境は最適だったといえるだろう。
「Vision2030」実現に向けた村田製作所のAI戦略
現在、AI学習環境を用いた開発は、共通基盤技術センターの一部社員が主体となって行っている。だが、AIの導入効果が証明されたこともあり、今後はノウハウの共有を進め、できるだけ多くの社員がAIの環境を扱えるようにしていきたいという。
「AIやGPUのことはよくわからなくても、データだけ用意したらAIができあがって、そのAIを自部署に引き取って活用できるような、そんな状態を目指したいと考えています。多くの社員が同時にAI環境を利用できて、開発を加速させるSDKの提供からそれらのサポートもしてくれるソリューション(NVIDIA AI Enterprise)や、GPUリソースをフル活用できるスケジューリング機能もあるといいなと感じています」(伴野氏)
村田製作所は「Vision2030」の中で「3層構造のポートフォリオ」を成長戦略として打ち出している。1層目は「基盤事業の進化とビジネスモデルの進化」であり、2層目は「用途特化型デバイス」、そして3層目が「新たなビジネスモデル創出」だ。
この3層目の実現に必要不可欠なのが、AIをはじめとする最新技術なのだと田邉氏は言う。
「技術の進歩でどういうことができるのか、それをどうすれば事業に落とし込めるのかをバックキャスト思考で考え実行するのが我々の組織の役割です。技術の進歩は早く、将来どうなっていくのかもわかりません。ただ、何か技術進歩が起きたとき、そこにいち早く着手するためにも、基盤となるAI開発環境をしっかり整えておくことは重要なのです」(田邉氏)
今後、企業が競争力を高めていくためにはAIの利活用が欠かせない。しかし、自社でAIを開発するためには、計算機環境はもちろん、何よりも開発環境の構築がネックとなる。いち早く環境を準備し、モデル開発に取り掛かるためには、マクニカのAI学習環境構築サービスを活用するのがベストといえるだろう。
同サービスの導入によりAI開発を推進する村田製作所。「Vision2030」で掲げる3層目のポートフォリオ「新たなビジネスモデル創出」実現に向け、同社は確かな一歩を踏み出している。
[PR]提供:マクニカ