日本企業でありながら、米国や中国との深い関係のなかでビジネスを成長させてきたフェローテック。この数年は半導体や電子デバイスの製造拠点を中国に置くことで、驚異的な成長率をたたき出している。一方で、同社は日本回帰の強化や、グローバルでの多様なビジネス展開に舵を切りつつある。先日も熊本県大津町に新拠点を設立することを発表し、関係各所から注目を集めたばかりだ。今回は代表取締役社長グループCEOの賀 賢漢氏にコロナ禍におけるビジネス展開や日本・グローバル展開のビジョンなどお話を伺った。

2030年に5000億円目標、上海市のロックダウンでも操業を維持

──好業績が続いていますが、直近の決算をふまえ、好調の要因や力を入れている製品やサービスなどを教えてください。

23年3月期業績予想の連結売上高は1,800億円で、前期比34.5%の増収です。米国や中国の半導体製造装置メーカーからの当社への増産要請は大変強く、2021年もこの要請に基づいて、マテリアル製品(石英・セラミックス・シリコン・CVD-SiC)の生産能力増強を継続してきました。また、真空チャンバーやロボット部品の金属加工についても顧客からの増産要請が強く、当社としても大きく生産能力増強に取り組んでいます。一方、産業機器やEVなど車載向けのパワー半導体基板(DCB/AMB)に関しては、世界的な需要増が顕著なため、当社も第三者割当増資で積極的な生産能力増強に取り組んでいます。長期的な全社の目標としては、2030年に5,000億円を目指しています。

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──上海市のロックダウンなど、中国のゼロコロナ政策が半導体市場や世界経済にも影響を与えているようです。中国で強みを持つフェローテックですが、影響はありましたか。

フェローテックホールディングス
執行役員 代表取締役社長

グループCEO(最高経営責任者)
賀 賢漢氏

上海の生産拠点では、4月以降のロックダウンの中でも政府感染防止措置に従いながら、半導体産業保護政策を受けて生産を継続しました。上海市宝山区の工場のうち、操業を続けることができたのはわれわれ含め2社だけです。工場内に急きょ宿泊所を設置し、管理者をはじめとした有志の従業員たちが泊まり込むことで、一定の生産稼働率を維持しました。材料や部品の仕入れ、製品出荷における物流に関しても、市政府から「通行許可証」を入手することで、一定の水準を維持することができました。

こうした状況のなかで、感染が広がったり従業員の心的なストレスで生産に影響がでてしまっては無意味です。感染対策は徹底し一丸となって取り組み、食事や睡眠はもちろん、息抜きができる場を設けるなどのメンタルケアも行いました。社員の生活を守りながら、取引先のビジネス維持にも貢献できたと思います。この実績をふまえて現時点では、23年3月期の業績予想にもロックダウンによる影響は織り込んでいません。

「中国一本槍」はリスク!? ビジネス環境が変わるなか製造を日本に回帰

──日本のほか、マレーシアなど中国以外のビジネスにも力を入れているようです。固定資産を中国外に持つ狙いや今後のグローバル展開の見通しを教えてください。

日本や東南アジアのお客様は、安定したサプライチェーンの確保という点から、できるだけ国内や近隣エリアから部材を調達したいという意向があります。先日も、日本の有力メーカーとの会合で、部材の大部分を日本国内で調達しているという話を聞きました。こうした意向を受け、当社としても、日本国内を強化していくべきだと判断しています。

また、東南アジアの顧客についても、同様の意向があります。そこで、半導体関連製品の供給体制を整備するため、当社としては東南アジア初となるマレーシアに生産拠点を構築します。できるだけ顧客の意向に沿うことで、当社のさらなる事業の成長につながると確信しています。グローバル企業として、生産拠点やM&A戦略なども含め、適切なエリアで多様な取り組みをしていきます。今後は、中国のみでなく、日本回帰は勿論のこと、マレーシア、アメリカ、ヨーロッパなどにも積極的に投資していきたいと思います。

──今年5月、熊本県大津町に新工場を設立することが発表されました。同じく熊本県に新工場を設立するTSMCとの取引も検討しているとのことです。新工場設立の狙いと目標を教えてください。

熊本はアメリカのシリコンバレーのようなデバイスメーカーの集積地になっていて、1年前から注目していました。フェローテックでは石英、セラミックス、シリコン、CVD-SiCなどの半導体マテリアルのほかにもシリコンパーツ製造や部品洗浄、再生ウェーハ、金属加工、蒸着装置などさまざまな事業を展開しています。サーモモジュールやパワー半導体、磁性流体などの電子デバイスもあります。新工場で展開する事業は検討中ですが、操業開始は2024年6月の予定で、投資規模は48億円程度を想定しています(2022年7月時点)。近隣のお客様に良質な半導体関連製品およびサービスをタイムリーに供給することが可能になると考えています。また、TSMCとは、台湾、中国でも複数の製品、サービスで取引関係にあることから、日本においても当社の製品・サービスでお役に立てればと思います。

──熊本県周辺では大手半導体メーカーの大規模な投資計画もあります。日本政府も後押ししているようです。こうした動きをどうご覧になっていますか。

半導体を中心に製造業のとりまく環境が変わってきていると思います。先日、当社の全社会議でも述べたのですが、1980年の創業から40年、中国での工場設置や米国フェローテック・アメリカ設立から30年、シリコンバレーでの製造開始から20年ほど経ち、ビジネス環境は大きく変わりました。そうしたなかで、製造を日本に回帰したいという思いがあります。これまで製造は中国が中心でしたが、中国一本槍で進むのはリスクがあります。今年3月2日に日本に戻り、熊本にも出向きましたが、直接現地を見て、関係者と話をするなかで、大きなチャンスであることを確信しました。

──熊本工場では100名規模で現地採用を進めるとのことです。TSMCは初任給28万円予定という報道もあり話題になりました。採用についてのお考えを聞かせください。

具体的な金額を今申し上げることはできないのですが、一緒にビジネスを立ち上げ、成長していく人材を獲得するためにもできるだけ好待遇で迎え入れたいと考えています。熊本県では半導体や半導体関連製品の投資が活発で、採用に関する需要も非常に高いものがあり、当社としても人材確保は極めて重要な課題です。ありがたいことに大津町より様々なご支援をいただけるというお話もあるので、従業員の住まいなどの環境も整えていきたいと思っています。

「失われた30年」の間に日本企業として国外で得てきたもの還元していく

──フェローテックの工場では、最先端のITシステムを活用した省力化や自動化が進められているそうです。どのような仕組みなのでしょうか。熊本工場などでもそうしたノウハウが生かされるのでしょうか。

経営戦略のなかの重点施策の1つに「品質・人材強化」があります。まず、品質強化の一環で、自動化、デジタル化、見える化を推進していますが、そこで重要になるのがITです。ITシステムについて、ERP(財務会計)、MES(製造実行)、WMS(倉庫管理)、PLM(製品ライフサイクル管理)、QMS(品質管理)などを中心にシステム基盤を刷新し、さらに、IoTやMMS(移動体計測)なども活用して、中国の複数拠点を中心に生産設備の変革を進めています。たとえば無人搬送車(AGV)や吊り下げ式ロボットで生産を行うことで、工場内の人と協調しながら効率よく作業を進めることができます。ITを活用すれば、どの工場でどのくらい生産しているかなどスマートフォンやPC上で一元的に把握することができます。

熊本の新拠点においても、こうした最先端のITシステムを活用した自動化、デジタル化、見える化を推進していきます。前述したように、日本国内では人員確保も重要な課題ですので、自動化システムをできるだけ取り入れることで工場の生産効率を意識し、働きやすい環境を心がけていくつもりです。

──日本の製造業は「失われた30年」などと言われ、古く効率が悪いとも言われます。

実際にはそんなことはありません。むしろ、ハイテク、材料、化学などは先端的です。30年前の日本は中国にとってお手本でした。もっとも、30年経つなかで中国の製造技術は急速に成長し、一方日本では成長が止まってしまった部分もあるかもしれません。30年経ったいま、日本は中国の高い技術を取り入れるべきところも増えてきていると思います。

──もう1つの重点施策である人材強化について教えてください。

人材強化は7年前からとくに力を入れています。たとえば、中国国内ではオンライン教育の施設や大学との連携、研究所の設置などに取り組んできました。食事やジムなどの従業員の健康を促進する福利厚生面や給与水準の向上も人材育成には欠かせません。今後は、日本の拠点でも、これらの教育設備や教育システムの充実に取り組んでいきます。

仕事は、心配ごとをかかえることなく楽しんで取り組むことがいちばんです。日本に回帰するなかで、フェローテックが中国市場やアメリカ市場で学んできた「30年で得た教訓やノウハウ」を日本国内にも還元していければと考えています。

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