前回は、スマートフォンやタブレットなど、身の回りのデバイスとWebアクセシビリティの関係を考えました。今回は少し視点を変えて、Webアクセシビリティに関する規格や法律を挙げながら、Webアクセシビリティに対応する重要性を考えましょう。

執筆者紹介:

サイボウズ株式会社 小林大輔
同社プログラマーとして、Webサービス「kintone」の開発を行う傍ら、社内外に向けて「Webアクセシビリティ」に関する啓発活動を行っている。

海外ではWebアクセシビリティが訴訟のタネに

国内外では、Webアクセシビリティに関する規格や法律の整備が進んでいます。国際的な規格としては、Webに関する標準化団体であるW3Cが策定したWCAG2.0(Web Content Accessibility Guideline 2.0)という基準があります。

アメリカやカナダ、オーストラリアなどでは、公的機関や民間企業のWebサイトに対し、WCAG2.0で定められた基準の達成が法律で義務付けられていて、基準を達成していないサイトに対しては、訴訟や苦情申し立てが多数発生しています。それだけ、Webアクセシビリティへの対応が、Webサイトを設ける側の責任として重く見られているということです。

日本でも整備が進むWebアクセシビリティの規格と法律

日本でも、JIS規格の中でWCAG2.0と同等の基準が定められています。(JIS X 8341-3:2016) 国・地方公共団体等の公的機関が設ける「公共サイト」については、このJIS規格で定められた基準に準拠することを目標とした「みんなの公共サイト運用ガイドライン」が定められています。

さらに2016年4月1日より、「障害者差別解消法」という法律が施行され、行政機関や民間企業に対し、情報アクセシビリティへの配慮が法律で義務付けられるようになりました。

Webサイトのアクセシビリティに問題があることで、障がいを持つ方から苦情の申し立てがあった場合、サイトの中で問題のある箇所を修正するといった合理的な配慮を提供する必要があります。

規格や法律に対応するメリットは?

以上のように、Webアクセシビリティに関する規格や法律の整備は国内外で進んでいます。ただ、国内の動きは海外諸国と比べて緩やかです。海外における罰則は国内のそれよりもずっと厳しいため、特にグローバル企業などにおいては、訴訟リスクを回避することは重要な課題となります。

また、適正なWebアクセシビリティ基準に則って、準拠の状況を表す試験結果などを公開することは、Webアクセシビリティに取り組んでいることを対外的にアピールすることに繋がります。

試験結果を公開している企業はいくつもあります。例えばグリーでは、自社のサイトについて、JIS規格の基準を満たしているか試験を行い、結果を公開しています。また、ヤフーでは、Webアクセシビリティに対する考え方を説明した上で、自社のコーポレートサイトについて試験結果を公開しています。

このように、Webアクセシビリティは、「対応したほうがモアベター」という状況から、Webコンテンツが満たすべき重要な品質のひとつになりつつあります。