前回は、障がい者が対象と捉えられえがちなWebアクセシビリティに対して、すべての人にとって価値があるという側面を紹介しました。今回はその視点をさらに掘り下げ、身の回りのデバイスとWebアクセシビリティの関係を考えてみましょう。

執筆者紹介:

サイボウズ株式会社 小林大輔
同社プログラマーとして、Webサービス「kintone」の開発を行う傍ら、社内外に向けて「Webアクセシビリティ」に関する啓発活動を行っている。

デバイスの多様化とアクセシビリティ

最近はスマートフォンやタブレット端末が広く普及していて、これらの端末は機種ごとに画面の大きさが異なっています。また、縦横の表示切り替えや、画面の拡大縮小も簡単に行うことができます。Webコンテンツを制作するにあたっては、拡大縮小に耐えるレイアウトや、多様な画面サイズに適した表示比率が必要とされています。Web業界ではレスポンシブWebデザインというキーワードで知られている潮流です。

また、電子ペーパーを用いた読書用の端末などには、色を表示する機能を持たず、モノクロで表示するものもあります。これらの端末にはWebを閲覧する機能を備えているものもあるため、色に依存した表現を使ったWebコンテンツを制作してしまうと、特定の端末から正しく情報を読み取ることができない可能性があります。

さらに、スマートフォンやタブレット端末は、データの入出力方式もさまざまです。指先によるタッチ操作だけではなく、最近は音声入力や音声出力も一般的になりつつあります。マウスやキーボードの入力だけ、あるいは視覚的に表示されることだけを想定したWebコンテンツは、様々な入出力方式に耐えうるものではありません。

どこでも使えるデバイスの「不便」

以上のように、画面の拡大縮小への対応、色に依存しない表現、音声による入出力などは、多様なデバイスの普及に伴って、一部のユーザーのために必要な機能ではなく、多くの人にとってメリットがある機能になっています。

また、デバイス自体が多様化するとともに、それを使う利用環境も多様化するようになりました。スマートフォンは屋外の眩しい環境でも使われますし、電車や人混みの中などでも使われます。環境によっては、晴眼者であっても本来の色が見えづらい、タッチ入力が難しい、周囲の音が大きくて音声の入出力が難しい、回線速度が遅く画像や動画を表示できない・・・など、様々な制約を受ける場合があります。

誰にとってもアクセスしやすいWebの必要性

デバイスの多様化、利用環境の多様化によって、障がい者や高齢者だけではなく、より多くの人達が、Webへアクセスするときに困難を感じるようになってきています。Webアクセシビリティは、もはや障がい者や高齢者に対する特別な配慮ではなく、すべての人が、どんな端末やどんな環境にあっても、Webにアクセスできるために必要なものになっていると言えるでしょう。