米サンフランシスコで自動運転タクシーが群衆に取り囲まれ、破壊・放火された。ロボタクシーへの懸念が強まる中、人の役に立つロボットへの理解と共感を得られるか、被害に遭ったWaymoの対応が注目されている。→過去の「シリコンバレー101」の回はこちらを参照。

ロボタクシーが放火される

2月11日、米サンフランシスコで、稼働中のWaymoの自動運転タクシー(ロボタクシー)が群衆に取り囲まれ、花火を投げ入れられて炎上する事件が起こった。旧正月で混雑するチャイナタウンで交通渋滞も起こる中、ロボタクシーが動けなくなり、居合わせた一部の人たちが暴徒化した模様である。

その場にいた人達が撮影した動画がSNSに投稿され、多くのニュースでも報じられた。サンフランシスコ市は、自衛のためといった正当な理由に基づいた行動ではなく破壊行為だったと見ている。

今後同様の事件が続けば、ロボタクシーの営業を許可した市の責任も問われかねない。実際、サンフランシスコ市では路上駐車していたテスラ車2台に火をつけられる事件が続いた。ここ数年の治安の悪化により、サンフランシスコはホームレスの多い危険な街というイメージで見なされがちである。そのような無法地帯とのイメージを払拭したい市は、「破壊行為の責任を追求する」と宣言した。

  • 落書きされ、窓を破られて火をつけられたWaymoのロボタクシー(サンフランシスコ消防局の公式Xより)

    落書きされ、窓を破られて火をつけられたWaymoのロボタクシー(サンフランシスコ消防局の公式Xより)

注目されるWaymoの対応

そこで今、Waymoの対応が注目されている。この事件が裁判に持ち込まれれば、ロボットやAIに対する人々の感情をめぐる議論に発展する可能性があるからだ。

この事件で破壊および放火を行った容疑者の特定には、Waymo車が記録していた映像や他のデータが重要な証拠になる。Waymoが捜査に全面的に協力すれば、逮捕状の発布や起訴の可能性が高まる。一方で、Waymoが事件を大ごとにしないように望むなら、それは捜査に大きな重みを持つことになる。

この事件に関して、多くの専門家や弁護士がコメントしており、Waymoはこのままの沈静化を望むという見方が優勢である。この事件は腫れ物であり、触れれば悪化する可能性がある。

裁判となれば、ロボタクシーが一般市民にとって危険か否かの議論が煽られ、Waymoはその矢面に立たされる。また、近年のGoogleやAppleの独占問題裁判の例のように、企業機密が公開されるリスクもある。

しかし、沈黙は憶測を呼ぶ。この事件でWaymoは明らかな被害者であるにもかからず、少なからず悪評にさらされている。映像からは許されざる暴力行為が見て取れるが、一部メディアはこれをハイテク企業への攻撃と論じ、(Alphabet傘下の)Waymoとその営業を許可した市にも一定の責任があると指摘している。

仮にロボタクシーは危険であると信じている人による行為だったとしても、それは破壊や放火を正当化する理由にはならない。Waymoがロボタクシーによる変化や革新を促したいのであれば、ロボタクシーを守るために破壊行為の責任を追求することが必要となるだろう。公正かつ透明性をもって行動することで、Waymoは公衆の信頼を維持し、ロボタクシーの将来に対する支持を強化できるだろう。

ただ、その場合、「ロボタクシーは危険」という懸念に対し、Waymoは単なる器物破壊ではなく、人の役に立つロボットに対して同情を得るように議論を展開することになるだろう。そこで理解と共感を得られるかは、Waymoにとってターニングポイントになる可能性がある。

米国は過度の車社会を見直そうとしている

米国は今、過度の車社会を見直そうとしている。米国の多くの地域では、建物に屋根を設け、最低限の駐車場を確保するように要求されてきた。ところが、ここ数年で駐車場設置を義務づけない都市が増えている。例えば、カリフォルニア州は2022年に、公共交通機関の近くにある建物の最低駐車台数を撤廃した最初の州となった。

駐車場が減っていると聞いて、リモートやハイブリッドワークの影響を思い浮かべるかもしれないが、その背後には、都市空間を費やす価値の問題がある。米国には7億から20億台分の駐車スペースがあると言われている。

20億台だとすると、世界の四輪車の保有台数を大きく上回る。公共交通機関が発達している都市では、貴重な空間が駐車場に奪われている。また、無味乾燥な大型駐車施設は都市のスプロール化を促し、車中心に偏り過ぎることで移動の利便性が低下している場合もある。賃貸物件では、駐車場を設けるコストが賃借人に転嫁され、家賃の上昇につながっている。

人口の都市部への集中が進む中で、成長する都市部では、住宅や学校、事業展開のためにさらなるスペースの必要性が高まっている。駐車場を縮小させた都市では、多くの跡地が住宅や公園に転用され、低所得者向けの住宅にも割り当てられている。

  • サンフランシスコで駐車場だった場所に建設されたMason on Mariposa、複合施設と2棟のアパートメント・ビルなどを含む

    サンフランシスコで駐車場だった場所に建設されたMason on Mariposa、複合施設と2棟のアパートメント・ビルなどを含む

ただし、駐車場が減少すると、ディナータイムの繁華街など時間と場所によっては駐車場を見つけにくいといった新たな問題が出てくる。

そこで、少ないスペースにより多くの車を駐車できる完全自動化駐車システム、駐車スペースを効率的に使える駐車アシスト技術、IoTを使って駐車スペースを監視してドライバーがスマートフォンで空いている場所を見つけて予約できるサービスなど、さまざまな技術の導入が進んでいる。ロボタクシーも将来の可能性の1つだ。

  • Waymoのロボタクシーには障害者団体を含む多くのコミュニティ団体が支援の声をあげており、メリットを評価する利用者の声も多いが、接触事故などトラブルも起きており、サービス提供地域の拡大にブレーキがかかっている。

    Waymoのロボタクシーには障害者団体を含む多くのコミュニティ団体が支援の声をあげており、メリットを評価する利用者の声も多いが、接触事故などトラブルも起きており、サービス提供地域の拡大にブレーキがかかっている。

大きな変化に対して、人々が懸念や拒否感を覚えるのは一般的な反応である。それを和らげ、理解を促し、試してもらうのは容易ではない。だが、その努力を怠ると、従来のライフスタイルのまま駐車場が減少する悪循環に陥ることになる。逆に、ロボタクシーに対する恐れや敵意に振れた振り子を戻すことができれば、持続可能な都市を目指した未来志向の交通システムへの移行を強化できる。