「安全で複雑にしたいけど、覚えやすくしたい」パスワード作成には人の心理が大きく影響する。それはAIにとって推測しやすい。

サイバーセキュリティ企業Home Security Heroesが、AIを搭載したパスワードクラッキングツール「PassGAN」を使って、実際に設定されていた1500万個以上のパスワードを解析する実験を行った。結果、51%を1分以内に見破り、解析率は1時間で65%、1日で71%に達した。

AIは人の心を読める? もちろんそんなことはなくて、大文字・小文字と記号や数字も使った15文字以上の長さで、明らかなパターンを避けたパスワードならPassGANにも簡単には見破られない。つまり、これまで通りの普通に複雑なパスワードで通用するのだ。

では、なぜPassGANにすぐに割られてしまうかというと、過去に流出したパスワードデータの傾向から「人々はより安全なパスワードよりも、よりシンプルでハッキングしやすいパスワードを使用する傾向が明らか」(Home Security Heroes)なのだ。いまだに「password-1234」のような破られやすいパスワードがよく使われているように、人は複雑なパスワードにして面倒になるより、覚えるのが楽なパスワードを選び、そしてそれを「自分だけは大丈夫」と正当化してしまう。そんな人の心理から作られたパスワードが、AI時代になってさらに簡単に破られている。

そこで「AIにはAI」ということで、新しいBingのチャット機能に「日本人にとって覚えやすく、推測されにくいアルファベットと記号から成る18文字のパスワードをいくつか考えてください」と頼んでみた。その回答が以下だ。

  • 「0k0n0m1y@k1!D@1suk1」=「お好み焼き!大好き」、最初は打つのに苦労するが、「i」→「1」など入力パターンを覚えたらすらすらと入力できる。

「お好み焼き!大好き」「ありがとう!さようなら」「なんでも!きめたる」が日本人にとって覚えやすいフレーズというのは違和感だが……「覚えやすく、見破られにくい」という点では良い仕事をしている。

さて、我が家で最近気になることが発生した。小学校高学年の息子がどこで知ったのか「ChatGPT」に興味を持ち始め、そして妙に詳しい。なぜ関心があるかは「推して知るべし」で、ただ良い点はChatGPTをどういうふうに活用できるかを面白がっていること。親の目を盗んで宿題のチーティングに使うかもしれないが、今のところ、作成したYouTube動画の英文説明をChatGPTに添削・書き直しを提案してもらって「なるほど〜」と感心しているなど、プラスに作用している。

当然、彼の友達グループの面々もChatGPTについて知っている。でも、これは政治の話と同様、面倒な議論に発展しそうなので父兄同士の会話にするのは避けていた。が、父兄面談の時に担任の先生には聞いてみた。すると、先生自身が毎日のように使うユーザーになっていたという予想外の展開……(子供がChatGPTを知った情報源ではない)。

例えば、黒人歴史月間についてのスライドの内容をまとめる時にChatGPTに叩き台を作ってもらう。学校や教育関係者向けのサービスで共有されているスライドや資料があるものの、最近起こっていることや地域のケースも踏まえて説明した方が生徒はより興味を持つ。そうしたスライドの自作に、プロンプトを工夫して対話型AIに協力してもらうことで作成時間を大幅に短縮できる。

以前のように夜中まで教材作りをしたり、時間がなくてオリジナルのスライドを使うのをあきらめたりすることが減ったという。また、保護者対応にも非常に役立っているという。以前は保護者からのメールへの返信に数時間を費やし、いくつか翌日に回すことも珍しくなかったのが、今は秘書が手伝ってくれているかのように毎日ちゃんと返信できているそうだ。

今年2月にK-12(幼稚園〜高校)の2000人以上の教師と生徒を対象にWalton Family Foundationが行った調査によると、51%の教師が仕事でChatGPTを利用している。週に1度は使用している先生が40%、そして10%が毎日使っている。使用体験がある先生の88%、生徒の79%が「教育に良い影響を与えている」と回答。使用したことがない先生でも「悪影響」を懸念するのは10%で、44%が「影響はない」だった。そして、生徒の65%、教師の76%が、学校にChatGPTを取り入れることが将来的に重要になると回答。「ChatGPTは教育のモダン化がなぜ必要なのかを示す例」だと、生徒の63%と教師の72%が認めている。

昨年末にChatGPTが登場した直後、教育関係者の間で深刻な懸念が広がり、すぐにChatGPTの利用を禁じる学校が現れた。その時はそうした動きに不安を覚えた。たしかに、ChatGPTには思考プロセスや出典を飛ばしてもっともらしく結論を述べる危うさがある。結果をコピペして提出する生徒も出てくるかもしれない。

しかし、使用を禁止したり、端末でのアクセスをブロックしたりすれば、かえって地下に潜ることになる。その結果、生徒の誤用や濫用、悪用につながりかねない。分かりにくいものをただブロックしてしまうのは、楽な方法を選ぶ人の心理のように思えたからだ。

教育への悪影響を防ぐにせよ、生徒の能力を伸ばすのに役立てるにせよ、生徒を導く教師が良い点と悪い点を理解する必要があると感じていたので、多くの先生が体験を通じてChatGPTを評価するようになったのは歓迎である。

  • 昨年末のChatGPTの登場に真っ先に懸念を示したのが教育関係者だが、それゆえに最もChatGPTの影響や効果を検証しており、結果、多くの先生が自身の生産性向上のために活用し始めている。

ちなみに子供の担任の先生は、授業にChatGPTを使ったり、教室で使い方を教えたりすることには慎重だが、子供が対話型AIに作文を作らせて提出する可能性についてそれほど心配していない。学校の授業内で子供の作文能力を評価するテストを定期的に行っているので、作文をサボって成長が滞ったら結果にすぐに現れる。宿題についても、計算問題で計算の過程を書かせるように、ライティングも過程(プロセス)重視にして対応できる。そもそも、約30人規模のクラスで毎日対面でコミュニケーションしている。各生徒の変化にはすぐに気づける。つまり、これまで通りで通用すると考えている。