1年前に天気アプリ「(Not Boring) Weather」でApple Design Awardsのファイナリストに選出されたAndy Works。今年は習慣トラッカーアプリ「(Not Boring) Habits」で、2022 Apple Design Awardsの受賞アプリの1つに選ばれた。

(Not Boring)シリーズは、アプリ名が示す通りユーザーを退屈させない楽しいアプリである。ただし、実際に使っている人が多いかというと、ざっと検索してみたところネットで(Not Boring) Habitsを勧める記事は少ない。日本語だとほぼ皆無である。理由ははっきりしていて、機能がシンプルすぎてアプリとして力不足であること。(Not Boring) Habitsの機能は、その日に実行したことにチェックマークを付けて記録するだけ。例えば、1日に数回実行するルーティンや悪い癖を減らすルーティンを設定したくても、そうした機能は用意されていない。

アプリとしてはお勧めしづらいが、プロダクトデザインに興味があるなら一度体験してみることをお勧めする(7日間の試用が可能)。Andy Worksの特徴的なデザイン思考が、モバイルアプリのUXデザインに新たな視点をもたらしてくれる。特に(Not Boring) HabitsはAndy Worksのデザインアプローチがよく引き出されており、納得のApple Design Awards受賞である。

  • Andy Worksの「(Not Boring) Habits

Appleは受賞アプリの紹介で「あっと驚くようなデザインに、遊び心のある触覚、見事なゲーミフィケーションを備えたライフハックアドベンチャー。森や山の中を進むことでやる気を引き出します」と説明している。アプリのゲーミフィケーションというと、クエスト、アイテムの獲得やレベル上げといったゲーム要素が取り入れることをこれまで指していた。習慣化アプリでも、例えば植えた種を木に育てるタイマーなどゲーミフィケーションを用いたアプリがいくつも存在する。

(Not Boring) Habitsでもそうしたゲーム要素を取り入れているが、それ以上に重視しているのがゲームプレイの操作感……「ゲーム感覚(Game feel)」である。その点で従来のゲーミフィケーションのアプリとアプローチが異なる。

従来のゲーム化された習慣化アプリは、ユーザーが実行したことにチェックを付けて記録し、やった日が何日続いているか簡単に把握できるようにする部分にゲーム要素を取り入れている。だが、タップ操作は、ToDoアプリでボックスにチェックを付けるのと何ら変わりはない。

ゲームもキャラクターをジャンプさせるためのボタン操作は、プレイヤーの押し込みを認識する単純なバイナリ入力である。しかし、そのシンプルな操作に、モーションやパーティクル、アニメーション、サウンド、振動などを細かく調整したアクションやインタラクションを組み合わせ、軽やかなホップや舞い上がるような力強い跳躍などを通じてプレイヤーに様々な感覚を覚えさせる。マリオのジャンプも操作自体は単なるボタン操作でも、出力されるジャンプはマリオ独特のジャンプであり、それがマリオ・シリーズで遊ぶ楽しさにつながる。

キャラクターが砂丘を滑走するとき、さ〜っと滑るように移動して爽快感を与えるか、それとも足が埋まるような感覚でフラストレーションを感じさせるか。プレイヤーの感覚を呼び起こすための選択による演出が、ゲーム開発ではデザイナーの腕の見せどころになる。しかし、アプリ開発では、ゲーム性を取り入れたアプリであってもこのゲーム感覚が意識されることはない。「あなたがデジタル製品をデザインしているとしたら、"ゲーム感覚"については何も知らないでしょう。でも、それを恥じ入ることはありません。私もそうでしたし、過去1年以上の間に質問してみた何十人もの優れたプロダクトデザイナーもそうでした」とAndy Worksのアンディ・アレン氏は述べる。

Andy Worksは、ゲーム感覚を重視して、ゲームをビルドするように(Not Boring)シリーズのアプリをデザインしている。例えば、‌(Not Boring) Habitで実行済みのチェックを入れるタップには、ゲームで大型武器をチャージして大きな一撃を放つようなアクションを参考に、長押しと球体が大きくなるアニメーションを使った。ただ、長押しだとボタンがすぐに反応しなくて操作に気づいてもらえない可能性があるので、その操作しかないというぐらいシンプルに、そして大きくボタンをデザインした。タップして実行済みのチェックを入れると大きな達成感を得られる。

タップの反応に演出は不要、演出が楽しいのは最初だけですぐに飽きるからチェックを付けるだけで十分という人もいるかと思う。しかし、たかがタップ、されどタップである。過剰な演出は飽きられるだろうが、適切にデザインされたタップは、退屈な作業を楽しく意味のあるものに変えてくれる。だから、毎日または繰り返し行うルーティンワークにこそ、ゲーム感覚が効果を発揮する。(Not Boring) Habitsの受賞をきっかけに、ゲーム感覚を取り入れたUXの向上が他のアプリ開発にも広がることを期待したい。