1636年に設立されたアメリカ最古の大学、ハーバード大学(2012年は創立375周年)では大学生6700名と大学院、プロフェショナル学生1万4500名の総勢2万1000名が、日々研修、研究に励んでいる。2012年11月1日時点で、ハーバード大学には138カ国から大学生723名を含む4404名の留学生が集結し、アジア17諸国からは千数百名の学生達が留学中である。

大学生 大学院生/プロフェッショナル トータル 割合
日本 9 83 94 2.3%
韓国 47 257 304 6.9%
中国 50 636 686 17.1%
インド 15 236 251 5.7%
シンガポール 18 120 138 3.1%
台湾 5 81 86 2.0%
情報提供:ハーバード大学インターナショナルオフィス

近年、日本から米国の大学及び大学院への留学生の数が、減少している傾向を裏付けるかのように、ハーバード大学キャンパス内で、日本人の留学生に出逢うことは本当に稀である。私が受講している今学期(秋)の大学院生対象のクラスでも、日本からの留学生の姿は見られない。とても寂しい現実であり、他の先進国や発展途上国の若者と比較すると、日本の若者だけが国際舞台からふるい落とされてしまう危惧さえ覚える。

ハーバード大学の若者達はとても行動的で、勉学に加え、仲間との交わりを大切にし、個々に"一生の友"となる人脈(ネットワーク)を築きあげている。

特に20代、30代の若者には、男女問わず、海外で学ぶ機会を積極的に捉え、勇気を持って日本から海外に飛び出すことを薦めたい。他国の同世代とコミュニケーションを計り、国内では得難い刺激に与り、自分をしっかり見つめ直しながら、進むべき道を模索し、自分なりのネットワークを構築して欲しい。世界に跨る仲間や友が自分への付加価値となり、誇りとなるのだから。海外に親友と呼べる人がいるかどうか自分に問いかけて欲しい。そして何か感じことがあれば、直ぐにでも行動を起こしてもらいたいと切に願う。

ハーバード大学キャンパス周辺(ハーバードスクエアと呼ぶ)を歩いていると、Dunkin's DonutsやStarbucksを除いて、有名なチェーン店(ファーストフード、コンビニエンスストア、ファミリーレストランなど)が存在していないことに始めは違和感を覚える。先日、セブンイレブンまでがクローズしてしまった。

地域住民や学生の間には、地元企業を支援しようとする強い意識が浸透しているように映る。Dunkin's Donutsは1948年にマサチューセッツ州クインシーで創業され、地元に密着した企業としての存在感を高め、住人の愛着心を掻き立てるように思える。

ハーバードビジネススクール(HBS)、ハーバードケネディスクール行政大学院(HKS)、ならびにハーバード教育大学院(HGSE)を跨って大学院生に最も人気を博しているのは「Entrepreneurship(アントレプレナーシップ:起業家精神)」に関連する教科である。3つのプロフェッショナルスクールは学生達に起業家精神を果敢に促し、多くの学生達は起業家を目指し、起業家のイメージを膨らませ、ビジネスプラン策定に没頭している。

学生達は、利益追求型のビジネスモデルだけではなく、社会貢献をミッションとするNPO(特定非営利活動法人)設立を目指しソーシャルイベンチャーに挑もうとしていることに共感を覚える。

近い将来、日本の社会においても若者が選択肢の1つとして、NPO法人に加わり、社会貢献に向け精力的に取り組む日々がやってくることを期待したい。

ハーバードの授業風景

以下に私がこの秋学期(9月2日週~12月9日週)に受講している科目「Learning and Governing High Performing Nonprofit Organization」を紹介させてもらうこととで、どのような授業が行われているのか、を感じてもらえれば幸いだ。

この教科は、主にハーバードビジネススクール修士課程2年生を対象にした科目ながら、ハーバード教育大学院生ならびハーバードケネディスクールの大学院生達も受講が認められている。講義は原則的には週2回、月曜日と火曜日10時5分から11時25分に行われ、祝日と重なった場合に限り、水曜日の同じ時間帯に繰り替え授業が行われる。

第1回の講義では、Allen Grossman指導教授からSyllabus(18ページのコース概要と課題が記述)が受講生に配布され、コースの詳細説明があった。遅刻ならびに欠席は基本的には認められない。欠席する際は、事前に指導教授の許可が必要となる。

クラスの討論に集中することを優先し、授業中はパソコンの使用は固く禁止されている。受講生は全員、課題のケーススタディ(20ページ前後)を予習し、授業に臨む。このコースは他のコースと比べ、読書の課題が著しく少ないのは、学生には幸いかも知れない。成績は、50%がクラスでの発言で、残り50%が学期末試験の結果で判断される。

授業の進め方は、ハーバードビジネススクールのケーススタディ手法により、指導教授がケースに関し質問を投げかけ、挙手した学生を指名するシステムを採用している。驚異的なのは、教授の質問に対し、一斉に大勢の学生が挙手を繰り返すことである。

受講している学生の数は65名。男性24名、女性41名で、圧倒的に女性のパワーが上回っている。近い将来、多くの女性達が素晴らしいリーダとして実社会で活躍するであろう。学生の大半は実務経験が数年以上の20代後半から30代前半のように思える。授業中に居眠りをしている学生や携帯電話を操作する者はひとりもいない。

指導教授と学生達の間には暗黙の了解が存在し、共に真剣勝負に挑んでいるようにも思えてならない。教授は学生達の為に最善を尽くし指導し、学生達は教授の真意に応えようと、前向きに課題に取り組み、そして講義に備える。教授と学生の間にはWin-Winの関係が見事に成立していることに魅せられてしまう。

学生は自ら考え、問題の解決法を見出すことの訓練を重ねる。同じクラスメートの意見に耳を傾け、違う思考や発想を学び、そして必然的に視野を広める。

ハーバードケネディスクールの玄関先に亡きジョンF. ケネディアメリカ合衆国35代大統領の名言の一部「Ask What You Can Do」が掲げられている。本来の名言は「Ask not what your country can do for you - Ask what you can do for your country」であり、国や自治体に求めるばかりのではなく、自分に何が出来るかを問いなさいというという意味だ。人の為になることがあれば、どんなことであっても、、一歩踏み出す勇気を持ち、行動に繋げることが尊いのである。

筆者は約1年間に渡り、第2の人生で成し遂げたいことを見極めたいと思い、真剣に自問自答を繰り返してきた。そして辿り着いた結論の1つは、成し遂げたいことへのパッション(情熱)を持ち続けることの大切さである。

パッションさえあれば、どのような試練も乗り越えることが出来、道は拓かれて行く。パッションに勝るものはない。そう信じている。

ジョンハーバードの銅像

ハーバードビジネススクールのべーカ図書館

(次回は12月20日に掲載予定です)

著者紹介

川上誠
サンダーバード国際経営大学院修士課程修了。1979年 Intel本社入社。1988年ザイコ―ジャパン設立以降、23年間ザイログ、ザイリンクス、チャータードセミコンダクター、リアルテックセミコンダクターなどの外資半導体メーカーの日本法人代表取締役社長を歴任。そして2012年ハーバード大学特別研究員に就任