先週、恒例の「CES 2026」が米国ラスベガスで開催された。
毎年の年初に開催されるこの大イベントは、そのタイミングと米国のラスベガスという開催地のゆえに、電子業界にとっては世界最大のイベントとなっている。
私も現役時代に何度も訪れ、街全体に広がる展示会場と、顧客とのミーティング用にセットされたホテルの会議場の間を分刻みで動き回る4日間を過ごした経験がある。半導体業界をはじめ、電子産業サプライチェーンの有力企業が一堂に会するこのイベントでは、各企業のトップが登壇し、自社のアピールに大変なエネルギーを使う。
今の私は報道によってその雰囲気を感じるのみだが、日本にいてもその熱気は充分に伝わってくる。元々はコンシューマー向けの電子機器の展示会であるが、生成AIの登場以来、発表内容はAIが中心となっていて、AIアプリケーションを支えるサーバー、ロボット、自動車など大変に多岐にわたる分野をカバーするものとなってきている。その中で、今回私が最も注目したのは、キーノートを務めたLisa Su率いるAMDと、久しぶりの新製品発表を行ったIntelのイベントである。主戦場のパソコンのCPU市場で長年にわたって熾烈な競争を繰り広げてきたこの両社のぶつかり合いは、主軸がAIに移った現在でもやはりCESのメインイベントの1つである印象がある。
次期AIアクセラレーター「MI455X」で「Yotta(ヨタ)スケール・コンピューティング」の到来を宣言したAMDのLisa Su
キーノートのスピーカーの1人として登壇したAMDのLisa Suは多くのパートナー企業の幹部の登壇を迎え、2時間ぶっ続けで精力的なプレゼンを行った。内容はさすがにキーノートスピーチらしく、自社製品/技術をアピールするだけではなく、今後も拡大し続けるAIの広範囲な分野での実装とその効果を強調した。パートナーとして登壇した企業が代表するアプリケーション分野は、ロボティクス、医療/新薬開発、宇宙開発に加え、最先端研究に必要な膨大な計算力を提供するHPCにおよび、あたかも「NVIDIAのプレゼンではないか?」という錯覚を起こすほど、AMDのAIアクセラレーターが広範囲に普及していることを見せつけた。
しかし、プレゼンのハイライトはやはりGPUアクセラレーターの最新型半導体製品、「Instinct MI455X」のサンプルを高々と掲げるLisa Suのいつものポーズだった。
2nmおよび3nmプロセスで製造されるMI455Xは最大432GBのHBM4を擁する巨大チップで、2026年末の出荷を予定している。
AMDはチップレベルの技術だけでなく、HPC向けのラックマウント型プラットフォーム“Hellios”も提供する。“Hellios”はCPUやGPUだけでなく、大規模なAIワークロードをサポートする統合システムで、1台の重量がコンパクト車2台分あるという大規模なものだ。
Lisa Suはこのプラットフォームをもって“Zetta(ゼタ) Flops”の100倍にあたる“Yotta(ヨタ)Flops”レベルを視野に入れる。“Yotta”とはいかにも耳慣れない単位だが、10の24乗というとんでもなく大きな数字で、AIアクセラレーターによる計算力の級数的な上昇を印象付けた。
最新プロセス「Intel 18A」で製造するモバイルプロセッサーの新製品を発表したIntel
Intelは久々の新製品の発表でCES 2026での注目を集めた。今回のIntelの発表は、単なるモバイルCPU新製品の発表イベントというものとは意味合いが違った。登壇したのはPat Gelsingerの辞任を受けて、昨年Intelの新CEOに就任したLip-Bu Tanである。
「Intel Core Ultra シリーズ3」のブランドを持つこのモバイルPC用プロセッサーは、Intelの最新製造プロセスである「Intel 18A」による最初の製品だ。この10年間、製造問題を抱えてじりじりとAMDにCPUシェアを奪われたIntelが満を持して発表したこの製品は、高性能Pコアと省電力Eコアを多数組み合わせながら、ゲーミング性能を犠牲にすることなく、最長27時間使用可能なバッテリー駆動時間を実現するという出色のものだ。モバイルプロセッサーとしてはいささか重厚すぎるスペックだが、パワービアなどの独創的な技術を凝縮した最新鋭Intel 18Aプロセスへの期待は高まる。
かつてはAMD製品との性能比較は公開では一切行わなかったIntelが、今回はAMDを追う立場としての自覚からか、かなりハイスペックな内蔵グラフィクス性能のベンチマーク比較を披露していたのは非常に印象深い。
CEOのLip-Bu Tanに課せられた課題は山積しているが、Intel 18Aプロセスの実製品での性能と成熟度がいかほどのものかは、今後第2四半期に市場に出回るPC製品の売れ行きで徐々にわかってくると思われる。組み込み・産業用の後継製品も計画されていると言い、Intelのカムバックが本物かどうか今後の趨勢が注目される。
CESでの伝統的な両社の競演は、近年AIデータセンターへの巨大な投資額の発表に終始する現状にいささか辟易していた業界ウォッチャーにとっては新鮮なものに映ったに違いない。


