米国政府のIntelへの資本参加、NVIDIAとIntelのx86カスタムCPU協業と、矢継ぎ早に発表された大規模案件はいずれも競合AMDにとっては分が悪そうな流れが続いた。しかし、この流れはOpenAIによるAMDのAIチップの大量調達の発表で一気に変わった。この発表で、AMDの株価は一時24%という驚異的な急上昇を見せ、NVIDIAの株価を抜き去った。

この協業はAMDの次世代製品群にOpenAIが早々にコミットするという、動きが早いAI業界でも異例の大型長期契約で、NVIDIAの競合としてのAMDの地位を確固とするものになるだろう。

AMDの次世代AI製品の大量調達で6GWのデータセンターを構築するOpenAI

ChatGPTの発表で一気にAI開発の表舞台に立ったOpenAIは、現在でもAI開発の最前線にあり、CEO、Sam Altmanの動きは常に業界全体の注目を浴びている。ChatGPTをいち早く自社製品に取り込みAI時代の幕を開けたMicrosoft、巨額投資を決めたソフトバンク(SBG)とNVIDIAとの協業と、AI開発と巨大データセンター構築に向けて爆走するOpenAIがAI半導体の大量の調達先として選んだのがAMDである。

  • OpenAI CEOのSam Altman氏

    OpenAI CEOのSam Altman氏 (編集部撮影)

両社の契約によれば、今後AMDの次世代AI半導体「Instinct MI450」製品群を中心に大規模な調達枠を確保し、6GWレベルのデータセンターを構築することを目指す。このAMDとの協業の発表に先立って、NVIDIAがOpenAIに最大1000億ドルを投資するという発表があっただけに、このAMDとの巨額の契約はさすがにNVIDIAのCEO、Jensen Huangをも驚かせる意外な展開だったに違いない。現在では一般に「1GW相当のAIデータセンターを構築するには、約500億ドルの資金が必要とされ、そのうち最もコストがかかるのは半導体で、その割合は6割以上」と言われている。この計算でいけば、「この契約で今後数百億ドルの売り上げ増が期待できる」というAMD CEOのLisa Suの発言にも現実味が充分にある。この契約で、AMDはトップを走るNVIDIAにつける事実上の第2位の地位を確保することになる。

株式の10%を譲渡する捨て身の覚悟でNVIDIAに対抗する姿勢を見せるAMD

歴史的にGPU市場ではNVIDIAに対する唯一の競合として市場を2分してきたAMDであるが、GPUの汎用性に早くから気づき、CUDAを基盤とするAI開発のエコシステムを構築したNVIDIAはここ数年でAMDを大きく引き離し、AI半導体市場ばかりでなくデジタル市場での突出したトップ企業に成長した。AMDの積年の目標は「IntelによるCPU市場独占に風穴を開ける」ことであったが、この数年でAMDのCPU市場でのシェアはIntelに拮抗するレベルに到達し、依然としてそのトレンドは変わらない。創立以来の目標は見事に達成された。

AMD CEOのLisa Suは2年前に今後のターゲットをAI半導体市場を独占するNVIDIAにシフトし、「Instinct MI300」製品群のリリースで新たな目標を宣言した。その後、AMDのAI半導体の採用はMETAやOracleなどの大手顧客で着実に進んだが、AI開発の最前線にあるOpenAIが具体的な数値目標を伴う巨大データセンター構築という共通目標を目指す正式契約という形で発表したことには大きな意味がある。そのOpenAIのAMDへのコミットメントに応えるAMDの決意は「OpenAIに対して将来的に発行済み株式の約10%に相当する株を付与する」という異例の契約内容にも現れている。まさに「あっぱれ」の快挙だと言える。

  • AMDのInstinct MI300

    AMDのInstinct MI300 (編集部撮影)

今後も大きな成長が期待されるAI半導体市場は第2フェーズに突入

現在のAI半導体市場の内容を分析すると以下のようなことが見えてくる。

  • AI半導体を大量に使用するデータセンター構築のトレンドは加速している
  • 半導体供給ブランドは、GPUベースのNVIDIAとAMD、巨大ITプラットフォーマーの自社設計半導体をサポートするBroadcomやMarvelといったカスタムチップ供給者、それとTenstorrentなどに代表される小規模なスタートアップに分けられる
  • 業界にはNVIDIA一強の状態をよしとしない雰囲気が溢れている
  • トップを走るNVIDIAにAMDが加わりトップグループを形成し、開発競争はさらに激化し、70%という驚異的なNVIDIAの粗利率も今後は競争にさらされる
  • これらの先端半導体の製造を一手に引き受けるTSMCは、製造キャパシティーをさらに引き上げる。このファンドリーサービスへの巨大な需要はSamsungやIntelといったファウンドリの参入チャンスを広げる
  • 広帯域メモリー(HBM)の需要もさらに急増し、SK hynix、Micron、Samsungも製造キャパシティ―を増強する
  • 今まで沈黙していた中国ブランドの全容とその実力が次第に明らかになり、大きな経済圏を形成し、世界市場に影響を与える

今回のAMD/OpenAIの巨大な契約は、これまでのAI市場のNVIDIA独占にAMDが風穴を開けたことを意味し、AI市場が次のフェーズに入ったということを印象付けた。

市場全体が急拡大するAI分野は今後さまざまな変化が生まれる機会にあふれている。