SIA(米国半導体工業会)が、毎年「半導体業界に最も貢献した人物」に贈る賞「Robert Noyce(ロバート・ノイス)賞」の今年の受賞者として、TSMCの現会長兼CEOの魏哲家(C.C.Wei)氏と、その前任者の劉徳音(Mark Liu)氏を選んだと発表した。台湾のTSMCを世界最大のファウンドリ会社に育て上げた両氏の功績が認められ、業界で最も栄誉ある賞が贈られることは、時宜を得たまことに妥当な受賞と言えよう。
米国に完全に受け入れられたTSMC
TSMCのアリゾナ工場「ファブ21」は、2024年末から最先端4nmロジックプロセスによる量産を開始した。高コスト、人材確保などの幾多のチャレンジをものともせず、敢えて「顧客のできるだけ近くに」拠点を構えるべく巨額設備投資を断行したTSMCと、それを主導した歴代CEOのチームが、業界で最も栄えある「Robert Noyce賞」を受賞したのはまことに妥当な話だ。
戦略物資、半導体サプライチェーンの国内化をはかるトランプ政権下で、NVIDIAを始めAMD、Apple、Qualcommといった米国の有数ファブレスブランドの先端半導体の生産を一手に引き受けるTSMCの製造サポートは、米国半導体ブランドの世界市場での成功に不可欠なものになっている。米中の技術覇権競争が激しさを増す現在、先端品の台湾工場での生産は地政学上の大きなリスクとなっていただけに、アリゾナ工場の快挙は半導体サプライチェーン構造の今後の在り方を象徴していると言っても過言ではない。
SIAの発表は台湾企業のTSMCが、米国半導体業界にとっての重要なパートナーとして完全に受け入れられたという事実を象徴するものだ。
半導体界のレジェンド、Robert Noyce
Intelの共同創業者で、集積回路の発明者として業界に広く知られるRobert Noyceは、もっぱら業界では愛称の“ボブ”・ノイスの名で呼ばれる。1957年創立のフェアチャイルド・セミコンダクター社で最高の技術者でリーダーとして経験を積んだボブ・ノイスは、そこで出会ったGordon Moore(後にMooreの法則で知られる)やAndy GroveらとIntelを創立した。
ノイスはIntelを創業しただけではなく、その積極果敢なシリコンバレー精神を代表する立役者で、時を同じくして生まれた多くのスタートアップ企業に大きな影響を与え、切磋琢磨しながらシリコンバレーの発展に大きく貢献したが、1990年に趣味だったテニスのプレー中に心臓発作で急死してしまった。62歳の若さであった。SIAはノイスの貢献を讃えて翌年から半導体業界に貢献した人物に送る「Robert Noyce賞」を設けることになったというのがその背景だ。
この賞の重みが解かっていただけると思う。
シリコンバレーを始めとする米国の半導体業界にとっては、今日のTSMCの貢献は多大なものがあり、そのコミュニティーにTSMCを喜んで迎えたという印象がある。
過去の受賞者の面々
1991年から設けられたこの栄えある賞の過去の受賞者のリストを見ると、半導体レジェンドの名前がずらりと並ぶ。すでに30人以上が受賞しているが、その中でも注目される人物を下記のように列挙してみた。
- Rod Canion:IBM互換パソコンで一時代を築いたCompaq社CEO
- Gordon Moore:Intel創業者の一人、「Mooreの法則」でもその名を広く知られる
- Jack Kilby:テキサス・インスツルメンツで集積回路を発明
- Jerry Sanders & Wilf Corrigan:AMD、LSI Logicの創業者、SIAの創立者
- Craig Barret:黄金時代を築いたIntelのCEO
- Morris Chang:TSMCを創業
- Lisa Su:AMD、現CEO
- Jensen Huang:NVIDIA、現CEO
- Lip-Bu Tan:当時はCadenceのCEOとして(現在はIntelのCEO)
こうした錚々たるシリコンバレーのレジェンドに伍する受賞者としてTSMCの魏哲家(C.C.Wei)と劉徳音(Mark Liu)の両氏はその名を半導体の歴史に残すことになる。



