PlayStation 5 Pro(PS5 Pro)が発表された。GPUの演算ユニット数のPlayStation 5(PS5)比で67%の増加とメモリーの28%高速化させることで実現したハードウェアの性能向上に見合う強気な値段設定は、PlayStationとしての新製品に懸ける意気込みを感じる。これまでの主力であったPS5と比較して遥かに高いグラフィック性能は、シーンに応じたダイナミックな光の反射や屈折を表現し、私のような門外漢にもレイトレーシング性能の段違いな進化が感じられる。演算エンジンに使用されているGPUはPS5同様AMDが設計したAPUだ。

  • PS5 Proの外観
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  • PS5 Proの外観
  • PS5 Proの外観 (C)2024 Sony Interactive Entertainment Inc.

PS5 Proの発表から間もなく、ロイター通信が「PlayStaion 6(PS6)のエンジン競争でIntelが敗れる」と指摘した興味深い記事を掲載した。関係者への聞き取りをベースにしたこの記事によると、次世代機種のPS6には再びAMDのAPUが搭載されることになったらしい。

PlayStationのエンジンの歴史

ゲームコンソールの歴史において初代PlayStation(PS)の登場は劇的だった。もともと“NEWS”というワークステーションを手掛けていたソニーの技術陣はグラフィクス性能にはとりわけこだわっていた。ワークステーションの性能を遊びに持ち込もうという思いを込めて開発された初代PlayStationのエンジンにはグラフィクス性能に長けるRISC(Reduced Instruction Set Computer)型CPUを検討していて、AMD、Intel、Motorolaを含むRISCプロセッサーを評価した結果、NEWSワークステーションにも使用されていたMIPS系が選抜され、R3000コアをカスタマイズしたCPUが選ばれた。このカスタムチップにはポリゴン高速処理用のベクタープロセッサーが含まれており、グラフィクス性能は格段に高まった。その後に登場したPlayStasion 2(PS2)はやはりMIPS系のR5900コア128ビットのカスタムチップが採用された。ソニーと東芝の共同開発による“Emotion Engine”と呼ばれ、このプロセッサーは急速にデジタル化する家電への応用も視野に入れたものであった。その後のPlayStasion 3(PS3)ではIBMが開発に加わり、ソニーと東芝の2社にIBMを加えた3社による共同開発で“CELL”と呼ばれるカスタムチップが開発された。ゲームコンソール黄金時代となるこのころからは、総出荷台数は1億5000万台を超えるようになり、MicrosoftのXboxと並び大きな半導体市場セグメントとなっていった。

2013年に発表されたPlayStatiion 4(PS4)のエンジン選定の時期はその3-4年前の2009年頃だったと私は記憶している。カナダのグラフィックプロセッサー会社ATI社を買収したAMDは、CPU+GPUのヘテロ構造をとる最新のAPUアーキテクチャーを提案した。対するIntelは無数の小規模CPUコアを集積した“Larrabee”を提案してきた。PlayStationの技術陣にとっては、エンジンの選定は肝であり、多くのアプリケーションソフトを効率よく実行するハードウェアには世代ごとに新たなアーキテクチャーを取り入れる労力をいとわない意気込みが十分に感じられた。結局、AMDの提案が採用されたが、PlayStation側は当時、AMDとIntelが係争関係にあったことを懸念していて、「2-3年後に発表される予定の製品にAMDがカスタムチップを大量に供給できるのかどうか」について、私自身、係争の経緯などの説明のために本社の法務部門のトップと共だって訪問した記憶がある。カスタムチップの選定は足が長いものである。

PlayStation 6でのエンジン選定を読み解く

そんな思い出があるので、今般のPS6のエンジンに関するロイター通信による記事は大変興味深く読んだ。記事によると、PS6のエンジンには最終的にAMD、Intel、Broadcomの3社が検討されたが、コストと既存ソフトとの後方互換性の観点から、AMDの提案に落ち着いたということだ。

記事によると、交渉が行われていたのは2022年ころであり、この時期のAMDはTSMCとの協業が本格化したころである一方、Intelがファウンドリ会社の設立について大々的に発表していた時期である。ハイレベルな交渉がPlayStation側とAMDないしIntelの間で行われていたらしい。記事では両社の提案の内容まで述べてはいないので部外者の私には知るべくもないが、AMDが後方互換性について優位に立っていたことは容易に想像できる。PS4/PS5にまたがってAPUを供給したAMDのハードウェアベースで書かれた多くのゲームアプリはその後も進化を続け、引き継がれているので後方互換性を勘案すれば、新アーキテクチャーに移行する理由としては、そのリスクを払しょくするだけの余程の性能が求められる。かつて、CPU市場で常にIntelを追う形だったAMDは、後方互換性について顧客を説得するのに多くの労力を要したが、PlayStationの場合はこの逆であったことは皮肉な現実である。

私が意外に思ったのは「コスト」の点がAMDが選ばれたもう1つの理由として挙げられていたことだ。確かにゲームコンソールのエンジン向け半導体は、その集積度とコストを考えればサーバー用CPUやAIアクセラレーターとは比較にならない「割に合わないビジネス」である。しかし、PlayStationのブランドと1億台を超える実績を考えれば、ファウンドリビジネスを開始しようとするIntelにとっては戦略的に大きな意味を持っただろうと察する。

折しも、業績不振にあえぐIntelは先ごろファウンドリビジネスの分社化を発表し、外部からの資本を受け入れる決断をした。AWSとの緊密な協業も発表しているが、今後ファウンドリ会社がAWS以外のどの大手顧客を取り込むかはわかっていない。

IntelがPS6のビジネスを失注したという話が事実とすれば、Intelにとって「逃がした魚が大きかった」と後々言われるのではないかとの印象があるが、その発売時期については近いうちに発売するのであればわざわざPS5 Proをこのタイミングで発売するということもないだろうこともあり、2026年末とも、2027年や2028年とも噂されていることを鑑みると、AMDが後方互換という面では有利ではあるだろうが、まだまだ蓋を開けてみないと分からない段階だとも言えるのだろう。半導体は日々、性能向上に向けた技術革新が続けられている。果たしてPS6では、どのようなユーザー体験がもたらされるのか、首を長くして待っている必要があるだろう。

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