最近の報道で少々気になった記事があった。世界的にビジネスを展開している巨大プラットフォーマーGAFAMのうちGoogleとMicrosoftが最近になって日本での法人登録を行った、という記事だ。長年、外資系半導体企業の日本法人の一員として働いた私にとっては「なんで今頃?」、というのが正直な感想で、外資系ハイテク企業の日本法人の在り方について考えさせられた。
最近になって日本での法人登録をしたGoogleとMicrosoft
記事によると、世界的な規模でビジネスを展開するGAFAMのうち、ごく最近になってGoogleとMicrosoftが日本における法人登録をしたという。日本市場でも長年ビジネスを展開している巨大ハイテク企業が最近になってようやく法人登録をした背景には下記の事情があるらしい。
- 日本の会社法では、日本で事業を展開する外国企業は国内での法人登録が義務づけられている。これを怠ると100万円以下の過料の対象となる。
- 法務省では日本国内で事業実態がある外資IT企業48社に対し、法人登録の検討を要請したが、今回それに応じたGoogleやMicrosoftを含めてもその半分以上がまだ登録を行っていない。Facebookを運営するMETAなども法人登録をしていない。
- 近年増加するSNSにおける過度な誹謗中傷などのケースで、発信者の情報公開手続きを進める場合に、本社マターとなり開示請求に時間がかかるなどの問題が顕在化している。
端的に言えば、「責任者出てこい!!」と言う事態が生じた場合に登場する代表取締役社長がいないケースが多く、GAFAM規模で事業を展開するプラットフォーマー大手に日本政府が業を煮やした結果である。グローバルに大規模な事業を展開するプラットフォーマーに対しては、同じ問題を抱える各国政府の法務省、消費者庁、税務署などが連携する動きが顕著になっていて、「罰金を払って放っておけばよい」という対応が通用しなくなっているともいえる。
日本での法人登録が一般的な外資系半導体企業
デジタルインフラを支える同様な業界のような印象がある半導体であるが、私が長年勤めたAMDを含めて、私が知っている外資系半導体企業はすべて日本法人がある。AMDの場合は本社の創立が1969年で、その6年後には日本法人が登録されている。競合のIntelや他の半導体ブランドのほとんどが日本法人を展開している。各社、代表取締役社長という人物が必ずいて、業界の名物社長も何人か知っている。半導体はGAFAMなどのプラットフォーマーとは業界的にかなり異なる文化を持っているように思う。その理由を私なりに考えてみた。
- 業界の成立時期がプラットフォーマーらよりも10-20年も前で、その頃の日本市場は米国に次ぐ世界第2位の規模で、「日本で事業をするには、先ずは現地法人を立ち上げよう」、というのが自然の流れだった。
- 市場の創成期には半導体はかなりカスタマイズ性が高い商品で、半導体を購入する顧客から見れば、長期にわたる丁寧なサポートを期待するので「日本の文化を理解する人材が日本市場に根差した経営をやってもらわねば買うことはできない」、というのが普通であった。特に品質問題に厳格な日本の顧客にとっては、何か問題があった時にすぐにエンジニアが飛んでくるような態勢は必須である。
- プラットフォーマーと異なり、基本的に半導体部品というハードウェアの取引なので、在庫、輸入税務などをしっかり管理できる組織を必要とする。
といったところが頭に浮かぶが、明確な違いをズバリということができないのがもどかしい。
ボーダーレスなハイテク企業と各国政府のせめぎあいは始まったばかり
この10年程度で急激に勢力を拡大したデジタル・プラットフォーマー達にとって、一番肝心なのは、どれだけ多くのエンドユーザーを獲得するかということだ。
ユーザーがどの国にいるかは、言語の問題を別にすればあまり大きな要件ではない。しかも、大手のプラットフォーマーが本格的に日本で事業を展開するころには、各社がすでに巨大な経済圏を打ち立てていて、エンドユーザーの心さえ抑えていれば、各国の政府行政はむしろ制限要因にしかならない。米国に本社を置くプラットフォーマー大手は、この2年位米国と欧州の当局と激しいつばぜり合いを展開している。個人情報保護と法人税の2つがその中心分野となっている。
各国が営々と築いた経済圏をまたぐような形で、エンドユーザーをベースとした自社の経済圏を急速に拡大する大手プラットフォーマー各社は、今後各国政府とのせめぎあいをうまく乗り切っていく必要がある。これに加え、米中の技術覇権競争が激化する今後はより複雑なファクターを孕んだ展開が予想される。