先週、Web公開された投資家向け発表会(Analyst Meeting)でAMDはCEOのLisa Suをはじめとする幹部が全員顔を揃え、今後の戦略の詳細について説明を行った。ZenコアのサーバーCPUを筆頭に、PCクライアント、グラフィクスに加え、買収が完了したXilinx社のFPGA技術やPensando社のDPU(Data Processing Unit)技術の取り込み戦略を明快に説明した。

この中で私が最も注目したのは、AMDが決算報告のビジネスセグメントを従来の製品指向のアプローチから市場指向へと変更したことだ。CPU/GPUの市場での優位性を核に、より顧客指向の半導体メーカーへと転換しようとするAMDの決意を見た気がした。

決算発表のセグメント分けは重要な指標

これまでのAMDの決算発表は、売り上げ、利益、キャッシュなどの全体的な指標に加えて、PCクライアント、サーバー、グラフィクス、ゲームコンソールなどの製品別のハイライトを発表していたが、今後のAMDの決算発表では下記の4つのセグメントでのパフォーマンスをはっきりさせる方向に転換する。

  • Data Center:CPU、GPU、XilinxのFPGA、Pensandoなどのデータセンター向け製品
  • Embedded:Xilinx製品とAMDの組み込み用製品
  • PC Client:パソコン用のCPU、GPU、APU製品
  • Gaming:ディスクリートGPU、ゲームコンソール用SOC
  • AMDが2022年第1四半期決算発表にて示した4つのセグメント

    AMDが2022年第1四半期決算発表にて示した4つのセグメント (出所:AMDの2022年第1四半期決算発表資料)

このセグメント分けには大きな戦略上の意図がある。Lisa Suが会見で何度も強調したのがデータセンター市場でのAMDの優位性である。

EPYC製品のサーバー市場での存在感は急速に増していて、現在ではIntelのXeonを圧倒する勢いである。また、アクセラレーターとしてのGPU製品に加えて、XilinxのFPGAによるカスタム性と、新たに加わったPensandoのネットワーク効率化技術によりビッグデータを扱うデータセンターのスループットという点では、AMDの優位性は飛躍的に向上する。以前はサーバー市場でのAMDの価値はCPUに限られていたが、データセンター環境でのアクセラレーター機能の重要性が増すにつれ、AI/機械学習/深層学習をサポートする要素技術でCPUの周辺を補強することで、AMDの総合力は格段に強化された。

Lisa Suが“最も重要”と位置づけるデータセンター市場とその顧客ニーズを吸い上げるために、従来の製品指向のビジネスアプローチから市場/顧客指向のアプローチに転換したのは充分にうなずける。

決算セグメントは各事業部のP&Lに直結する大事

業績を拡大するために半導体各社は製品中心のアプローチ(Product Out)と市場中心のアプローチ(Market In)をその時々の要件に合わせて使い分ける。どちらが正解かはその局面におけるメーカー側の能力と市場側のニーズによって異なるので一概には言えない。かつて市場独占を誇っていたIntelは、私が記憶する限りでは完全にProduct Out企業の印象があった。独占市場では顧客とサプライヤーのポジションは逆転し、顧客はIntelが設定する新製品の「ロードマップ」に従ってサーバー・PC製品を開発/製造すればいいことになる。しかし、今や市場をリードする現在のAMDの顧客志向への転換は、カスタマーをまず第一に考えるAMDらしいアプローチだと私には思える。

決算セグメントの変更は単に経理上の問題ではない。各事業部は目指す市場でのベストな製品ミックスを常に意識することを強いられ、毎四半期にそのP&L(損益計算)パフォーマンスが試されるからだ。製品開発/製造チームには大きなプレッシャーがかかる。セグメント各市場を代表する事業部からの幅広い要件を満たしながら、汎用品ロードマップを策定し、常にコストを意識した製造に努めなければならない。特に、最先端品の製造をTSMCに頼るAMDにとっては、TSMCとの交渉能力が重要な要件となる。営業チームにも大きなプレッシャーがかかる。顧客に一番近いポジションにある営業は本社に対しては市場の要件を代表する立場があり、顧客に対しては会社の製品カバー能力の最適解を常に提示する必要がある。よって、鋭い市場の読みと自社製品の理解に必要な高度な学習能力が要求とされる。

半導体メーカーで最高の粗利を目指すAMDとIntelの対照的な説明

私は、AMDのWebキャストを見た後で、Intelが2月に行った投資アナリスト向けのWebキャストを視聴してみた。IntelのCEO就任2年目となるPat Gelsingerが自らが声をかけて新編成した幹部チームと一緒に登壇し、相変わらず“立て板に水”のごときプレゼンを行ったが、イベント終了後の質疑応答セッションではアナリストから厳しい質問もいくつか飛び出した。

私が最も興味を惹かれたのはGross Profit(GP)/Gross Margin(粗利率)の両社の説明だ。高性能CPUの成功で毎期継続してGPを伸ばしてきたAMDは現在でも48%の高い率を誇るが、将来目標を57%以上と設定した。かたや、かつて「ドル札を印刷するよりも儲かる」と豪語したIntelの現在のGPは51-53%レベルに沈んでいる。このGPの下落を受けたIntelは将来的に「54-58%に戻す」と説明したが、AMDとのベクトルの違いは明らかである。常に短期的な結果を求める証券アナリスト達の本音は「いったいいつまで待ったらいいのか?」ということだろう。かつてのIntelの黄金期をCTOとしてリードしたGelsingerは「装置産業の半導体における時間軸は少なくとも3年だ」と明言し、盛んと将来図を強調するが、足元の最先端プロセスの問題は未だに未解決部分が残るのは事実で、苦しい説明に終始した。

  • AMDの直近3年間の業績推移
  • AMDの将来に向けた展望
  • AMDの直近3年間の業績推移と将来に向けた展望 (出所:AMD Financial Analyst DayにおけるLisa Suの発表資料)

AMDのイベントは、私としては大変に懐かしい人物の発言で終わった。現在ではCFO(最高財務責任者)を務めるDivender Kumarは、私が最初に会った時は経理課長だったがその後38年も勤め上げた大ベテランだ。そのDivenderは、CFOとしてのプレゼンの後「私はAMDの職歴38年だが、この会社は昔とは全く別の会社に成長した。AMDは今やベストなポジションにある」、と発言し喝采を受けた。確かにAMDは別の会社になったようだが、“あくまでも顧客指向”の創業者サンダースのDNAは変わっていないと感じた。