私の半導体業界での経験で学んだ用語を私の勝手な解釈で思い出と一緒に解説しようという今回のシリーズ。今回は「Bread-board(ブレッドボード)」を取り上げたい。今回も正確性については甚だ自信がないが読み物だと思ってお付き合い願いたい。

ブレッドボードの半導体業界での意味

本来は「パン切りまな板」の意味であるが、半導体業界では「試作品評価用ボード」のことを示す。

一般的には基板に何百もの穴が規則的に空いていて、はんだ付けなしにケーブルを接続することでデバイスの評価をする汎用品である。しかしここで私が取り上げるのは私がAMDで見た社内評価用の特注品である。

  • ブレッドボード

    写真は一般的な電子工作で用いられるブレッドボードだが、社内評価用の特注品も基本的にはこうした作りを踏襲している

必ずしも一発で動いてくれない半導体の試作品

Am386の開発においては、以前、いきなり完成に近い製品が仕上がったと書いたが、通常の場合はそれ程うまくいくケースは稀である。

予定されたピンアウト通りにパッケージした試作品がプリント基板に差してあるが、基本的な結線だけで、他の部品の接続はジャンパーケーブルなどでつないでラボで評価ができるように作られている。

私は技術部門の経験がないので実際にその作業をやったことはないが、現場のエンジニアにとって試作品をブレッドボードに挿して一応のケーブリングを終えた評価システムに電気を通す瞬間は緊張の瞬間である。

OS、アプリケーションなどが一発で動くのはかなり稀で、ブレッドボードを囲んだ開発エンジニアたちの衆目の中、「さて火を入れますか」などと言って電気を通したが「ピクリとも動かない」場合もあって、その後の機能評価、性能評価、バグ出しなど多くの仕事に取り組まなければならない開発エンジニアが一喜一憂するのをはたで見ていた憶えがある。

プロセッサー開発の初期段階から協力を申し出たα/βパートナーの技術部門にブレッドボードを持ち込んで客先のシステムと連結すると「電気を入れたら煙が出てきてお釈迦になった」などと言う残念な瞬間もあったように記憶している。

なお、何十億個のトランジスタを実装する現在のプロセッサー開発の現場で未だにこのようなものが使用されているかどうかについては、業界から離れている私はまったく知らない。