バイクタクシーの手配サービスラットフォームの「SafeBoda(セーフボーダ)」やフィンテックのNumida(ニュミダ)など、注目を集めるスタートアップ企業が続々と誕生しているウガンダ。ケニアやコンゴ民主共和国に隣接する、東アフリカの内陸国だ。
2014年よりウガンダでNGO職員として農業支援プロジェクトに従事したのち、翌年から現地でライフスタイルブランド「RICCI EVERYDAY」を立ち上げ、ビジネスを始めたのがRICCI EVERYDAY 代表取締役の仲本千津さんである。大学院卒業後、三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)で法人営業を経験し、財務や経営をはじめとする、ビジネスに必要な学びを得たあと転職し、起業家へと転身した。
安定した仕事がなく、生活費や子どもたちの教育資金に困っている女性たちを中心に雇用し、色鮮やかなアフリカンプリントの布を用いたバッグや小物洋服などのファッションアイテムを手仕事で製造する工房を作り、2016年にはウガンダの首都カンパラ市に現地法人および直営店舗をオープンし、2019年には東京・代官山に初の直営店舗をオープンした。
ブランド5周年となる2020年8月には「世界中の女性が社会的通念や固定観念を乗り越え、本来のありたい姿を見出し、実現できる世界を目指していきます」と改めて決意を表明していた仲本さん。SDGs(持続可能な開発目標)17の目標でいうと「5.ジェンダー平等を実現しよう」「10.人や国の不平等をなくそう」「12.つくる責任 つかう責任」の3本柱で社会をより良くしていく事業に迫る。
アフリカンプリントに魅せられ、ウガンダ発ブランド立ち上げ
RICCI EVERYDAYがウガンダで産声を上げたのは、ごく自然な流れだった。学生時代にアフリカの紛争や政治、社会を専攻していた仲本さんは、将来的にはアフリカの社会課題を解決する仕事を自らやりたいと考えていた。しかし、一度は社会に出て一般企業で働き、ビジネスを始めるための下地作りが必要だと判断。
ファーストキャリアであるメガバンクに2年半勤めたのち、2011年秋、アフリカの小規模農家を約35年に渡り農業面で支援してきた笹川アフリカ協会(現ササカワ・アフリカ財団)に転職。東京の事務所で働いていたが、2014年に念願叶ってウガンダへ。農業支援のプロジェクト管理に従事しながら、休日にウガンダの街を歩く中で出会ったのがアフリカンプリントだった。
今でこそ日本でもアフリカンプリントを用いたアイテムを至るところで見かけるようになったが、2014年の日本ではまだ真新しく、馴染みのない柄ものだった。そのせいか、仲本さんが現地の人に仕立ててもらったアフリカンプリントのバッグや小物をSNSに投稿すると、日本に住む友人知人らからは大きな反応があったという。
「今でも私が市場へ足を運んで、派手すぎず暗すぎず、色のトーンが落ち着いている、絶妙なところを突いたアフリカンプリントを選んでいます。主なお客様である日本人が『可愛い』と感じる基準を大事にしているのです。市場に行くたびに新たな柄との出会いがあり、豊かな発想力に驚くことも少なくありません。面白いものでいうと、ハンバーガーや時計、お金などの柄もありますよ」(仲本さん、以下同)
アフリカンプリントでのモノづくりを軸に起業準備を進める中、友人の紹介で出会ったのが、ウガンダ人で4児のシングルマザー、ナカウチ・グレースさんだった。
グレースさんのほか、技術を持った2人のウガンダ人女性が加わり、仲本さんを含めて4人でのスタートだったが、現在(2022年4月時点)ではウガンダに20人のスタッフを抱えるまでに成長し、サンプル作りや修正、縫製をウガンダで行う。基本的には紹介制で、技術とやる気を持つ人を雇用している。
ロックダウンで工房の稼働がストップ。それでもスタッフを困窮させない
創業時のウガンダ人メンバーは偶然にも、3人ともシングルマザーだった。背景にはウガンダという国の特徴が色濃く関わっている。ウガンダは1988年~2006年までと15年以上にわたり内戦が続き、教育や保健・栄養、衛生、女性・子どもへの暴力などを社会問題として抱えているほか、一夫多妻制もあり、女性の地位が低い。
そのような背景から、女性が子どもに十分な教育を受けさせるための仕事を得ることも簡単ではない。さらに、2020年以降の新型コロナウイルスの世界的流行を受けて、困窮する人も少なくない。
「ウガンダでもコロナの影響で仕事を失った人は多いです。もともとウガンダで定期収入を得ている人は少なく、不安定な雇用環境にある人が多いのが実情です。全体の7割が農業従事者、2割が都市部でなんらかの仕事で日銭稼ぎをし、残りのわずかな人々が政府機関やNGO、民間企業に勤めています。バイクタクシーのようなサービス業に就く人も多いですが、ロックダウンがあった時期は収入を得る手段をなくすなど、今日明日生き延びられるかというギリギリの状況に陥った人の話もよく聞きます」
コロナ下ではRICCI EVERYDAYも打撃を受けた。ウガンダでは2020年3月からロックダウンが行われ、全土で経済活動がストップ。当然ながら外国人の一切の入国ができなくなり、工房の運営も止まり、そのころは生きた心地がしなかったと仲本さんは振り返る。
それでも4月はウガンダ人スタッフに給与を全額支払い、5月以降は有給休暇を消化してもらったり休業補償として60%払うなど、従業員をできる限り困窮させないよう努めた。
2カ月ほど続いたロックダウンは5月半ばに解除されたが、仲本さんが入国できたのは同10月のこと。ウガンダに行けない間は、仲本さんの現地アシスタントとして勤めるスタッフとメッセンジャーでやりとりしたり、日本で新商品の企画を考えたりする日々だった。
およそ7カ月ぶりにスタッフらと再会してからは、商品の試作や製造に追われた。2週間の隔離期間が定められた時期もあったが、現在は隔離期間が短縮され、年に3回ウガンダに行く働き方を続けている。
オンラインでも、店頭でワクワクするような購買体験を
2021年11月には、カンパラ市にある直営店舗を一時休業する判断をした。コロナ下でウガンダへの観光客が激減し、経済の動きも停滞していることが原因だ。ただ、RICCI EVERYDAYは主には日本人向けに展開していることもあり、日本での販売に引き続き力を入れている。
現在は、代官山の直営店舗や百貨店でのポップアップなどオフラインでの購入が6割、オンラインが4割となる。RICCI EVERYDAYではInstagramをメインとするSNSでの発信のほか、SNS広告を打っているが、他にもさまざまなオンライン施策を展開する。ECサイトの会員向けに週3通送られるメールマガジンも特徴的だ。
月曜日は既存商品をピックアップして使い方を深掘り、水曜日は「仲本千津からのメッセージ」と題して仲本さんの近況や考えていることを綴り、金曜日は新商品を紹介する内容のメールを送っている。
「水曜日に配信するメールマガジンはコロナ下以降に始めたものです。感染拡大の影響で、オフラインで買い物することをリスクだと感じる方もいます。店舗から足が遠のいてしまったお客さまとの直接的な接点を失わないための施策です。インスタライブ(毎週金曜20時~)をしたり、バッグに荷物を入れた様子をインスタのリール(最大60秒のショートムービー)で見せて、商品の情報を立体的に伝えたり、ECサイトに“人”の存在を感じさせる、弊社の日本人スタッフが書いた読み物を多く入れたりと、いろいろな工夫をしていますが、これらはすべてオフラインの接客で得たポイントを活かしたもの。店頭で買い物をするような感覚で、オンラインでも買い物を楽しんでほしいのです」
オンラインとオフラインの垣根を低くする取り組みがなされているのは、RICCI EVERYDAYのECサイトやメールマガジンを覗くと随所に感じ取ることができる。
現在、RICCI EVERYDAYの購買層は35~44歳が最多で、25~34歳、45~54歳と続く。顧客の多くは日本人だが、海外からのオーダーも増えているのは、新商品を通じてサステナブルなモノづくりに挑戦し続けることも関係しているだろう。
サステナブルなモノづくりと新たな仕事づくりを同時に進める
例えば、色とりどりのビーズを約2,000個つなぎ合わせた「ペーパービーズ・カラフルバッグ」や「ペーパービーズ・ツートーンバッグ」。使用されているビーズはプラスチックではなく、リサイクルペーパーを一つひとつ小さく切って丸めたもの。1週間かけてひとつのバッグが完成する、とても細かな手仕事で成り立っているのだ。
「クロシェット・ストライプ・バッグ」も新作のひとつで、Tシャツを作る工場から出た端切れを買ってアップサイクル(不用品に手を加え、付加価値を持たせること)したもの。イエローやブルー、グレーなど、さまざまなカラーのTシャツを作る際、必ず出てしまう端切れをつなぎ合わせ、手作業で編み込んでいる。
これらは、現在休業しているカンパラ市の直営店に商品を置いてくれていたクリエイターたちが手がけるもの。観光客や外国人客へ商品の販売ができず、クリエイティブ活動ができなくなっていた彼らに対し、仲本さんが日本人向けのデザインを依頼し、彼らの仕事をつくっている。
他にも新たなクリエイターと出会うために、街中を歩き回ったり、人の紹介を受けたりして動き回る。これはブランドに更新感を付与するだけでなく、現地で新たな仕事を生み出すふたつの目的を兼ねているといえるだろう。
紛争を経験した地域に、仕事を通じて安定をもたらしたい
最後に、事業を通じて解決したい社会課題や実現したい未来について、仲本さんに尋ねた。RICCI EVERYDAYは前述のSDGs目標「5.ジェンダー平等を実現しよう」や「10.人や国の不平等をなくそう」「12.つくる責任 つかう責任」と深い関係を持つ。
「つくる責任 つかう責任」については、RICCI EVERYDAYの商品はすべて手作業かつ少人数で生産していることもあり、作れる数が限られているため、ほとんどが一点もの。基本的に割引もセールもしない理由は、手仕事で生まれた商品一つひとつが持つ価値を保ったまま販売し、モノが人の手で作られていることを伝えるためだ。
大量に作ったアイテムを数カ月で販売し、売れなかったものは「売れ残り」としてセールで安価に販売し、それでも残ったものは廃棄される--アパレル業界にある“当たり前”をRICCI EVERYDAYでは選ばない。
例えば、ウガンダで伝統的に作られてきた木の皮を利用したサステナブルな素材「バーククロス」を生かしたバッグやポーチなどのコレクション。2021年8月に販売されたもので、受注販売形式だった。「それでも需要と供給のバランスを予測し、工房の稼働率、生産個数を考えるのは難しいこと」だと仲本さんは言う。
仲本さんが目指しているのは、紛争を経験した国・地域が過去を乗り越え、幸せを生み出し続ける場にすること。学生時代からずっと、頭の中を巡っているテーマでもある。
「どんな小さな仕事でもいいので、働いてお金を得ることが、その人自身の自己肯定感を高め、コミュニティの安定化につながると考えています。仕事があり、子どもたちの食事や教育に困らなければ、たとえ近くで紛争が起こっていたとしても、争い事に参加しようとは思わず、目の前の安定を選ぶはずですから」
RICCI EVERYDAYとしてできることは、ブランドをより大きく、より広げていくこと--。仲本さんはそう語る。確かに、規模を拡大していくと、社会的なインパクトも大きくなるが、それだけ動き方も変わってくる。「自分にできるだろうか」という不安を取り除いて覚悟を決めることが、今の自身に必要なことだと仲本さんは語る。
ただ、RICCI EVERYDAYがブランドに関わる女性たちをエンパワーメントしてきたことは間違いない。そして掲げられたブランドメッセージ「“好ましい”より、“好き”を。」も、世界各地から商品を注文する女性たちに届き、生活に溶け込んでいることだろう。