「カタログギフト」と聞くと、結婚式の引き出物を思い浮かべる人は多いと思う。カタログに掲載された品物から、自分が欲しいと思うものを選んで申し込むタイプのギフトであり、使ったことのある人も少なくないだろう。→過去の回はこちらを参照。

そんなカタログギフトと防災を掛け合わせたサービス「LIFEGIFT」が、防災への意識が高まっている昨今、注目を集めている。企画開発・運営を行うのは、2人の共同代表者によって2020年9月に創業されたKOKUA。

  • KOKUA代表取締役の泉勇作さん(右から3番目)、疋田裕二さん(右から4番目)、中山和也さん(一番右)(内容や肩書は2022年9月の記事公開当時のものです、以下同)

,A@SDGsビジネスに挑む起業家たち 第12回|

代表取締役の1人である泉勇作さんは神戸市に育ち、幼少期に阪神淡路大震災で被災した。その影響で災害を意識して生きる中、社会の役に立ちたいと考え、学生時代は災害ボランティアを中心に活動してきた。

主に事業開発を担う共同代表者の疋田裕二さんは、学生時代に東日本大震災のボランティア活動に従事したのを機に、NPOの事業企画や運営に携わるようになり、世界に存在するさまざまな社会課題に触れてきた。泉さん、疋田さんは2019年の同時期、一般社団法人である防災ガールのアクセラレータープログラムに参画もしている。

2人の代表のほか、KOKUAを支えるキーパーソンは営業・メディア戦略を担う中山和也さん。大学時代、泉さんと同じNPOのボランティア団体に所属し、東日本大震災での災害救援活動をはじめ、全国各地で災害が発生する度に、最前線で活動に取り組んできた。今回、3人に同社の事業や目指すことを聞いた。

LIFEGIFTが防災を進めるきっかけになれば

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第12回

泉さんと疋田さんは、東日本大震災が起きた2011年、大学に入学し、3.11をフックに災害救援や復興支援、防災などの取り組みに注力するようになった。

大学卒業後、両者ともに民間企業で働き始めて5~6年経つころ、防災を普及させ、災害についての情報を伝え、人々の防災への理解を深める事業をしたいと考えるように。

2018年にチーム結成後、2019年には前出のプログラムに参画したり、東北大学災害科学国際研究所主催の「Bosai Startups in Japan」で代表チームに選抜されたり、世界防災フォーラムでプレゼンテーションを行ったり、防災ガール主催の「シークレットミートアップ」にてビジネスピッチを行ったりと、さまざまな場所で登壇を重ねながら、事業計画立案を進めた。

その間、1年ほどヒアリングを重ね、2020年7月にLIFEGIFTのクラウドファンディングを行った。当時のKOKUAのFacebookページにはこんな記載がある。

正直グッズ1つだけで万全な対策が取れるわけではないというのは事実です。 ただほんの少しでもギフトを通じて災害の被害を小さくできたら。ほんの少しでも災害に備えるという意識を身近にできたら。 (2020/7/28 KOKUA Facebookページより引用)

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第12回

「LIFEGIFTは防災を進めていくきっかけを提供していきたいと考え、作ったサービスです。防災と言っても、何をしていいのかわからない、いつ起こるかわからないことに予算を割きづらい、自分だけのために防災を始めようという気にはならない、という方もいます。だからこそ、防災を誰かのため、大事な人のために、ギフトを通して広めていくのがいい方法ではないかと考えたのです」(泉さん)

2020年7月といえば、熊本を中心とする九州各地や中部地方で、記録的な集中豪雨(令和2年7月豪雨)が発生したタイミングでもあった。その大災害はもちろんだが、他にも毎年多くの災害が発生していたことから、災害被害という社会問題をそろそろ自分ごとにした方がいいとの機運が、人々の中で高まっていたこともあるだろう。

結果、クラウドファンディングでは、目標金額の150万円を遥かに超える357万円を達成し、同年12月にLIFEGIFTはサービスを開始したのだった。

防災をギフトにする文化を作っていく

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第12回

    暮らしに溶け込むシンプルなデザインの消火器「+ 住宅用消火器」(LIFEGIFTで取り扱う商品の一例)

“いのちをまもるカタログギフト”として運営されるLIFEGIFTでは、日常生活に違和感なく溶け込むような防災アイテムや美味しくて備蓄できる食品を厳選している。わかりやすく言うと、「いかにも」な防災アイテムとはかけ離れた、とてもスタイリッシュなものが多いのだ。

同社が運営する「防災オンラインストア」を覗いてみてほしい。同ストアではLIFEGIFTに掲載された防災アイテムも買えるほか、単体でも防災アイテムを買うことができる。ここにはインテリアにもなるようなおしゃれな見た目のアイテムばかりが並ぶ。

「3.11後から消費者の中でも防災意識は高まっています。そこへ届けやすくするために、各メーカーは知恵を絞って防災とデザインを掛け合わせて、デザイン性の高いものを作っているのです」と語るのは中山さんだ。

「LIFEGIFTは“あなたの無事が いちばん大事”をコンセプトにしています。防災アイテムのカタログギフトですが、防災を押し出そうとはしていません。贈る側の“あなたの無事が いちばん大事”という優しい想いが届くギフトとして、最適なものでありたいと考えています。誰かを大事に想う気持ちが伝わるギフトであると認知されることで、ギフトとして広まっていけばと思っています」(泉さん)

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第12回

    きれいなネックレスタイプの防災笛「effe bottle prism」(LIFEGIFTで取り扱う商品の一例)

「こんなカタログギフトはなかった!」と、サービス開始翌月には報道番組で特集が組まれ、認知を広げたLIFEGIFT。その後もテレビにラジオ、Webに至るまでさまざまなメディアで取り上げられたり、東急ハンズでのポップアップや阪急うめだでのコラボ展示を行ったりと、オン・オフラインともに露出を増やした。記事として取り上げられやすいトピックでプレスリリースを毎月出すなど、新たな取り組みを意識した発信も続けている。

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第12回

    阪急うめだでのコラボ展示(イメージ)

LIFEGIFTは出産や結婚、内祝い、新築祝いなど、新生活を祝福するためのギフトとして、ボリュームゾーンである30~50代から特に多く購入されているが、それでも課題は山積していると泉さんは話す。ギフトとして選ぶハードルはまだ高く、市場があるわけでもないので、文化を作るための発信を強化していく必要はあるほか、より若い世代にもアプローチしていきたいという。

「やはりSNSがひとつの施策となります。LIFEGIFTを使っていただけると、贈り手と受け取り手の少なくとも2人にタッチできます。その方たちが口コミをしてくれるよう、投稿しやすい素材やコンテンツを用意することに力を入れています。届いたときのパッケージのデザインや添えられたメッセージはもちろん、サイトにも投稿したくなるような商品のストーリー、バックグラウンドを知ってもらえるような情報を吟味して入れていきたいです」(疋田さん)

国と人々との間に立ち、防災を「翻訳して届ける」

ここまで自社の主たる事業としてLIFEGIFTを展開してきたKOKUAだが、新たにパーソナライズ防災診断サービス「PASOBO(パソボ)」のクラウドファンディングを9月下旬に実施予定だ。正式なサービス公開予定は10月中だという。

LIFEGIFTは防災には興味がなかったけれど、ギフトとしてもらったことで使ってみた人といった、防災へのきっかけを生み出すプロダクトだった。

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第12回

    パーソナライス防災診断「PASOBO(パソボ)」の画面イメージ

一方、PASOBOは「これから防災を始めよう」と行動し始めた人に向けて、最適な防災情報を届けるプラットフォームである。

「一般家庭において、お金や予算に関する理由以外で、防災への備えを進めづらい理由のひとつが、“備えは必要だと頭ではわかっているけれど、普段の生活で防災に触れる機会がなく、馴染みもない”ということではないでしょうか。今の自分たちには何が必要なのか、複数のハザードマップや自宅の耐震基準などをもとに調べるのも簡単ではありません。防災用品のラインアップはいろいろあっても、住んでいる地域や子どもの有無、障害の有無、年齢などによっても、準備した方がいいものは変わってきます。各家庭にとって揃えるべき防災用品の優先順位は異なるともいえます」(泉さん)

そんな課題を解決すべく、PASOBOでは郵便番号を入力して10問程度の設問に答えていくと「必要な防災セット」「暮らしに合わせた必要備品」「現在住んでいる場所の危険度」「被災時の行動、避難、被災後の生活」などをパーソナライズ化して情報提供してくれる。国交省や行政機関、地方自治体などが公開するデータを用いて、半年ほど前から開発を進めてきた。

多様な災害の起こる日本では、行政単位で災害対策を行い、知見を蓄積している。また、災害に関する多様なデータを国がオープンにしているため、情報は充実しているともいえる。一方で、一般の人々にとってそれらは馴染みのない、難易度の高い内容であり、正確に読み取って自身のアクションにつなげている人は決して多くはない。

ただ、皆がそれぞれデータと向き合う必要はないと、KOKUAでは考えている。自分たちのような民間企業が国と一般の人々との間に立って、国が提示するデータを翻訳して一般の人々に届ける役目を果たしたい。

防災が行き届く仕組みを公助だけで作るのは難しく、民間も入っていくことで共助の中で成り立たせていくべき--。これはKOKUAのメンバーが掲げる共通見解である。

災害とうまく付き合っていくための防災

「災害は避けられない」「災害を止めることはできない」。取材中、疋田さんからそんな発言があった。人はどんなことをしても災害をコントロールできない。「だからこそ、災害とうまく付き合っていくことが必要」と語るのは泉さんだ。

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第12回

    2022年8月にあった大雨で2000棟あまりの住宅浸水被害が起きた新潟県関川村で被災地支援をする泉さん

では、具体的にどうするのか。疋田さんは「自然と人間の住む場所を分断するのではなく、自然と社会が調和した状況を作ること」が重要だと語る。この考えはKOKUAの事業を体現する、SDGs目標でいうところの「11.住み続けられる街づくりを」を象徴するものだ。

中山さんは、首都圏の災害対策で備蓄が推奨されていることを挙げ、ハード面を揃えるのは当然のことだが、人々と防災との接点をいかに増やすかがカギになると考えている。「家族が大事だから防犯意識から防災に備えていくとか、大事な人を守るためにといった文脈で、防災意識を広めていきたい」と締めくくった。

防災と社会をつなぐハブとしてKOKUAの挑戦は続く。