本連載では、さまざまな業界で取り組んでいる「映像データによる“現場DX”」を現場担当者の声と共にご紹介していきます。どのような課題があり、そこでどう映像データを活用し、どのような成果が見られたのか。今回は、クラウドカメラ映像を活用した、物流業界における現場DXに着目します。
今、業界横断で進んでいる働き方改革の波が、物流業界にも押し寄せてきています。主にトラックドライバーの時間外労働の上限が規制されることで、物が運べなくなる「物流クライシス」が現実問題として注目を集めており、企業における各工程での生産性向上は必須となっています。
その中で今回は、倉庫内作業やバースでの生産性向上や品質向上をはじめとしたクラウドカメラの活用事例を紹介します。
物流業界でも映像活用による生産性向上が進む
昨今、物流業界では「物流の2024年問題」が提起されています。人手不足解消や従業員の就業環境規制対応など、課題が山積みです。電子商取引(EC)市場は拡大を続け、2020年の約20兆円から2025年には27.9兆円規模に成長が見込まれ、倉庫スタッフの需要は増加の一途です。このような課題を解決するための一例として、マテリアルハンドリング設備のモニタリングや検品をはじめとした庫内作業の状況確認のような目視が入る倉庫業務においてはクラウドカメラの映像により現場を可視化することで、現場に赴かずとも遠隔からの業務対応を可能になってきています。
澁澤倉庫は、1897年、日本の資本主義の生みの親と言われる渋沢栄一氏が創業し、国内外の倉庫業をはじめとし、陸上運送や海上・航空輸送、通関まで幅広く手がけ、120余年の確かな実績で多くの有力企業の信頼を得ています。同社は2022年にイノベーション推進室を設立し、全国各地に展開されている各営業所の業務効率化に向けて、3Dロボットなどの機械やテクノロジーの導入サポートを推進、またそのノウハウを他部署にも展開し、全体最適化を進めています。
クラウドカメラに着目したのはウェアラブルクラウドカメラの「Safie Pocket2(セーフィーポケットツー)」 の導入が契機です。営業所では検品、梱包といった流通加工業務を必要とする顧客の商品が増加し、倉庫内での付帯作業が拡大したことが背景に挙げられます。拡大に伴い、飛躍的に増大した作業スタッフも入れ替わりが激しいため、個々人の作業品質を高いレベルで平準化し、生産性を高めることを目的にクラウドカメラを導入しました。現在の付帯作業はライン生産方式で行っているため工程ごとに作業場が分かれています。その中で、どこかの工程で作業が滞ると後工程のスタッフが稼働できずに、全体の生産性が著しく低下するため、Safie Pocket2で各工程の作業を撮影、スタッフ全員が見られるモニターに映像を投影し、可視化しました。
「作業スタッフは自分たちの前工程のバックログ(未処理分)などがひと目でわかるようになりました。おかげで状況判断がスピーディーになり、スタックしている作業場に応援スタッフを送るなど臨機応変に対応でき、全体の生産性アップに繋がっています」(同社 中国・九州支店 福岡営業所 所長)
映像による遠隔管理でトラックの待機時間の削減も実現
各工程の作業を可視化するだけに留まりません。トラックが商品の積み下ろしを行うバースにも、稼働状況も遠隔モニタリングしたいと考え、クラウドカメラを設置しました。
「各バースのカメラ映像を、事務所スタッフが常にモニタリングできるようにしています」(同社 中国・九州支店 福岡営業所 所長)
その他の営業所でも、荷主と営業担当者のコミュニケーションにおける映像活用を実現しています。例えば、顧客とのオンラインミーティングなどで、Safie Pocket2で撮影した倉庫の様子を配信し、施設やサービスの状況を簡潔に伝えることができていると言います。ECの顧客からは、梱包作業状況を確認したいという要望が多いので、実際の映像で確認でき、より安心感を持ってもらえているそうです。
また、遠隔管理にクラウドカメラを活用している営業所も増えています。協力会社の倉庫にSafie Pocket2を設置し、保管状況をモニタリングするといったかたちで活用しています。顧客の商品を搬入する前の保管場所の状況や、商品の搬出入状況を詳細に報告できるエビデンスとして撮影することもあります。
倉庫内で大活躍のシステムと映像データ連携の可能性
EC倉庫での出荷作業は、物流業務の中でもミスや予想外のトラブルが生じやすい工程の1つです。正確な検品や丁寧な梱包をした上で、正しくお客様の元へ届けることが「当たり前」の品質として求められていますが、人手不足や荷量の増加により、人手のかかる工程では作業ミスがどうしても起きてしまいます。業界では、「当たり前」の品質を維持することが困難になりつつある中、より正確で丁寧な物流サービスを求められています。
そういった中、多くの倉庫ではWMS(Warehouse Management System)を用いて、入出庫や在庫の管理が行われています。入荷検品の際に商品の数量や種類などの予定と実績を突合することが可能となり、在庫の引当や賞味期限管理、出荷依頼に基づいた効率的な商品のピック指示や梱包、出荷などを実現させています。
「Safie」の映像管理画面上には、映像データを1秒1コンマの映像データをURL生成・シェアする機能があります。WMSと映像データの連携サービスによって、例えば、消費者から問い合わせが入った際に、該当商品の検品の様子をすぐに振り返って問題がなかったかを確認したり、迅速に課題の原因の分析や対策を行ったりすることができるようになります。問い合わせから回答までの時間を大幅に短縮することが可能となり、倉庫作業の振り返りや品質担保につながり、ひいては消費者や荷主の顧客満足度向上にも寄与することができるのです。
佐川グローバルロジスティクス(以下、SGL)は、宅配便事業を中心に物流事業を展開するSGホールディングスグループの中で、ロジスティクス事業を行っています。同社は「SGL STANDARD」を掲げ、労働災害や属人化を防ぎ、効率的な運営を目指しています。SGL千葉北営業所では消費者から商品発送後に問い合わせがあった際に、作業に問題がなかったかエビデンスを探すというコア業務以外の各作業に平均1時間かかっていました。
その中で、同営業所では、各検品台にエッジAIカメラ「Safie One(セーフィー ワン)」を設置し、カメラ映像を社内のWMSの出荷管理画面に連携させる取り組みを始めました。結果、問い合わせが発生した場合、調査対象の検品作業の映像を1分もかからずに容易に確認が可能になり、繁忙期には、問い合わせ業務にかける時間を大幅に削減し、本来時間を割くべきコア業務や有人対応を要する業務に集中することが可能になりました。
「SGL千葉北営業所では、商品の発送後にお客さまからお問い合わせをいただき、欠品があった際には在庫数を数えたり、出荷時の状態の記録用として都度写真を撮影したりするなど通常業務以外に時間を割いている状態でした。今回、当社のWMSとセーフィーのカメラ映像を連携させることで、短時間で作業の記録や原因の発見が可能となり、生産性の向上が認められました。今後は、品質担保をできるような業務オペレーションの改善や、カメラを活用した災害時の施設確認などにつなげていきたいと考えています」(同社 物流ソリューション部 LS課 課長)
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今後もこの連載では、映像データを活用し、新たな取り組みを行う“現場DX”をご紹介します。お楽しみに!