ディスプレイ製造のための部材市場の2021年の動向について、Omdiaディスプレイ部材調査マネージャーの宇野匡氏は、「コロナ禍におけるFPD部材市場は、旺盛な需要と生産・輸送の混乱が特徴的である。巣ごもり需要によりTV・PCなどモバイル製品以外では需要が急増した。一方では、世界中で物流が混乱し、原油や素材価格が上昇したためコストも上昇した。いままで部材価格が上昇することは一部の部材以外ではほとんど起こらなかったが、昨年は多くの部材価格が上昇した。しかし、コロナ禍はすでに2年継続しており、家庭のTVなどの買い替え需要は一巡してしまった。2021年第3四半期以降ではエンドマーケット需要は減退している」と述べた。

さらに、同氏は「コロナ以前の部材価格の常識としては、ゆるやかに価格下落を継続しできるだけ利益率を維持する傾向にあった。部材メーカーは歩留まり改善、ラインスピードアップ、素材の変更、技術革新など多くのコストダウン項目を持っており、現場は将来の価格下落に備えて常にコストダウンを追及している。部材によってそれぞれ特徴はあるが、四半期で数%、年間で10%程度のコストダウンが通常と考えている。部材メーカーにとっては、得意先からの強力な値下げ圧力よりも、競合メーカーからの値下げ競争の方がより大きな脅威となる。コストダウンを大幅に上回る値下げが起こる場合には、事業からの撤退をせまられることにもなる」と述べた。

2021年を通して、物流コストと素材価格の上昇により、さまざまな部材がかつて経験したことのない値上げが行われた。パネルメーカーは2021年前半までは、かつてないパネル価格の上昇により過去最高の収益を上げており、部材価格の上昇を受け入れる余地があった。その後パネルメーカーは急激なパネル価格の下落に直面しており、部材価格の上昇とも相まって収益が急激に悪化している。部材価格が上昇したといっても、ドライバICを除いては10%を超える価格上昇とはなっていない。「新型コロナの状況次第ではあるが、今後、部材価格は継続的な価格下落に戻っていくのではないか」と宇野氏は予測した。

2021年第3四半期以降、エンドマーケットの変化によりパネルの需給が大幅に悪化している。2021年の第3四半期と第4四半期は、パネルメーカーは大幅に稼働を調整することとなった。しかし、大幅な供給過剰の部材を除いては、部材メーカーへの注文においては深刻な影響は聞こえてこない。

2022年においても、全体のディスプレイ面積は7%成長が予測されている。TVを筆頭として、多くのアプリケーションでは平均画面サイズが大型化する傾向にある。2023年以降ではTVの平均画面サイズの大型化が飽和する傾向にある。第10.5世代以降の大型基板投資は計画されておらず、65型と75型が一般消費者向けの最大サイズとなる。面積成長の鈍化はFPD部材事業に大きな影響が出ると予測され、その結果、部材メーカーによる競争が激しくなると予測されることから、部材メーカーは生き残りをかけた準備を進める必要があるとする。

ガラス基板 - 中国政府が補助金を潤沢に投入

中国ではガラス基板を重要部材として、手厚い援助が行われてきた。2009年から量産を開始したIRICOをはじめ、東旭とCNBMの合計3社が量産を継続しているが、2020年末以降、大手ガラスメーカーにおける事故が続いた。中国のガラス基板メーカー各社は出荷量を増加させているが、3社ともディスプレイガラス基板事業では黒字を計上したことがないことに注意が必要である。

東旭はディスプレイ部材事業に積極的であり、大日本印刷から第5世代のカラーフィルターラインを購入し、2018年から量産を開始している。また、住友化学と偏光板ラインの投資を計画したが、量産直前にジョイントベンチャー(JV)をご破算にしてしまったほか、フォトマスク事業にも参入を画策するなどの動きを見せていたが、事業の多角化が裏目に出たため、2019年末に不渡りを出し、従業員への給与支払いを遅延する事態となった。当時多くの従業員が退社したとされているが、2020年に天水市で第6世代の4窯に新規投資を実施しているほか、2023年にさらに新規投資を行うとの情報もある。

IRICOも第8.5世代の投資を継続しているが、中国では重要な産業と認定されると、10年以上赤字を継続し、デフォルトに陥った企業でも地方政府からの補助金が潤沢に投入され続けることから倒産しない。そのため、ガラス基板は大手ガラスメーカーと中国メーカーの技術差がまだ大きいが、長期的には市場シェアを上げていくと予測される。

偏光板 - 日系メーカーが圧倒的なシェア

LG Chem(LGC)は偏光板事業を中国Ningbo Shanshanへ売却し、2021年1月NingboとLGCがJV「Shanjin Optoelectronics」を設立した。同社は今後、合計6本の偏光板ラインの投資を計画している。SAPOとHMOも積極的な投資を計画しており、2025年には中国偏光板メーカーが全体の生産能力の約48%を保有すると予測されるという。

一方、偏光板基材フィルムでは、TAC・PVA・COP・Acrylなど日系メーカーのシェアが高いフィルムが多い。中国メーカーの参入はまだほとんど起こっていないが、将来的には偏光板基材フィルムへの中国メーカーの参入が焦点になると考えられる。ただし、偏光板基材フィルムの投資は、1ラインで膨大な生産能力が出来上がってしまうため、新規参入の障壁は高く、日系メーカーの地位は当面安泰と考えられる。

(次回に続く)