近畿大学(近大)は1月17日、「イリジウム錯体」を発光材料とする有機発光ダイオード(OLED)を開発し、それに外部から磁力を加えるという従来にない手法で、立体映像を映し出す際に使われる「円偏光」を左右どちらの回転どちらでも望む方向で発生させることに成功したと発表した。

同成果は、近大大学院 総合理工学研究科の原健吾大学院生、同大学 理工学部 応用化学科の今井喜胤准教授、大阪府立大学 大学院工学研究科の八木繁幸教授のほか、日本分光、奈良先端科学技術大学院大学の研究者も加わった共同研究チームによるもの。詳細は、応用光化学・光生物学・光物理学に関連する分野を扱う学術誌「ChemPhotoChem」に掲載された。

特定の方向に振動する光である偏光のうち、らせん状に回転している「円偏光」は、3D表示用有機ディスプレイなどに使用される新技術として注目されており、通常のOLEDが発する光に含まれる円偏光には、回転方向が左右どちらのものも含まれているとされる。

3D表示には右回転の円偏光が必要で、それだけを得るにはフィルターを用いて左回転円偏光をカットする必要があるが、その場合、光量が半分になってしまうという課題があることから、フィルターを用いずに一方の円偏光を優先的に発する円偏光有機発光ダイオードの開発が求められるようになっている。

現在主に開発されている技術としては、鏡面対称な構造を持つ光学活性な分子を用いて円偏光OLEDを作製し、どちらかの回転の円偏光を発生させるというものだが、この方法の場合、どちら回転の円偏光も発生させる分子が混在している状態(光学不活性)から、目的の分子だけを得る必要があるため、作製コストが高くなってしまうという課題があった。

こうした背景のもと、光学不活性の分子を用いた場合でも、どちらかの回転方向の円偏光を発生させられる新しい手法の開発に挑んでいるのが研究チームであり、今回、発光ダイオードの材料として実用化されているイリジウム錯体を発光材料とするOLEDを開発し、その回転方向の制御を実現したという。

具体的には、光学不活性な2種のイリジウム錯体、Ir(III)(ppy)3と「Ir(III)(ppy)2(acac)」をそれぞれ発光材料とする2つのOLEDが作製され、それらのOLEDに外部から磁力を加えながら光を発生させたところ、発光材料が光学不活性であるにもかかわらず、円偏光を発生させることに成功したという。また、加える磁力の方向を変えることによって円偏光の回転方向を反転させることにも成功したとしており、これにより単一の分子から左右どちらの回転の円偏光でも選択的に取り出すことができることが示されたとしている。

さらに、Ir(III)(ppy)3とIr(III)(ppy)2(acac)を用いたOLEDでは、光の回転方法が反転することも判明したほか、イリジウム錯体の構造を変えることでも、円偏光の回転方向を反転させられることにも成功したという。

研究チームによると、今回の研究では、室温かつ永久磁石による磁場下にOLEDを設置するだけで円偏光を発生させることに成功したという点が重要だとするほか、光学不活性な分子は、一般的に光学活性な分子よりも製造コストが安価であるため、円偏光OLEDの製造コストも、従来法より抑えられるようになるとしており、今後、3D表示用有機ELディスプレイなどの製造コスト削減や、高度な次世代セキュリティ認証技術の実用化などにつながることが期待されるとしている。

  • 有機発光ダイオード

    今回の研究で開発された円偏光有機発光ダイオードの構成 (出所:近畿大学/NEWSCAST)