既報のように、インターステラテクノロジズ(IST)は5月4日、観測ロケット「MOMO」3号機の打ち上げを実施し、成功した。高度100kmの宇宙に到達したことで、同社は名実ともに宇宙企業へと脱皮。打ち上げ後に開催した記者会見で、同社の稲川貴大社長は「低価格な民生品を多用したロケットで宇宙空間に到達可能なことを実証できた」と喜んだ。
打ち上げの時刻は5時45分ジャスト。打ち上げの240秒(4分)後に最高高度の113.4kmに到達し、515秒(8分35秒)後に着水を確認したという。着水場所は、射点の沖合37kmの地点。なお燃焼時間は、速報値では118秒と発表されていたが、これは116秒と訂正された。
1号機では、機体のロール回転と、強度不足という問題が起きていた。その対策を施した2号機は離昇直後に落下・炎上したため、この2つの問題が残ったままになっていたが、3号機のロール制御は「完璧だった」(稲川社長)という。「Max Q」(動圧最大点)も無事越えたことで、対策の有効性が実証できたと言って良いだろう。
3号機では、尾翼の取り付け精度などを向上させるなどして、ロール周りの外乱の発生自体も抑えたとのこと。外乱を小さくすることと、ロール制御の能力を強化したことで、今回はかなり余裕があったようだ。姿勢制御スラスタは最大45°まで方向を変えることができるが、今回は常に10°以下だったという。
3度目の挑戦とはなったものの、今回、ついに成功したことで、同社のビジネスにも弾みが付くだろう。資金調達面を担当している同社の堀江貴文取締役は、「やっと実験成功の会見ができるので気が楽になった」と笑わせた上で、「成功すると資金調達できる契約もある。まずはほっとした」と現在の心境を述べた。
MOMOが成功したことで、今後、同社は超小型衛星用ロケット「ZERO」への取り組みを本格化させ、開発を加速したいところだ。そのためには、これまでのMOMOよりも1桁多い資金が必要になってくるが、堀江取締役は「ZEROの開発に必要な工場建設の資金調達も、以前よりスムーズになるだろう」と、楽観的な見通しを示した。
とはいえ、まずはMOMOだ。ZEROの初飛行は2023年の予定。それまでは、MOMOの商業化を進め、観測ロケットの事業を軌道に乗せる必要がある。
3号機では、ペイロードとして、高知工科大学のインフラサウンド(超低周波音)計測器と、GROSEBAL(神奈川県相模原市)の「とろけるハンバーグ」が搭載されている。堀江取締役は「サブオービタルは意外と需要がある」と指摘。「飛行高度に余裕があったので、もう少し重いペイロードも搭載できる。エンタメ需要などにも対応できるのでは」とした。
堀江取締役は「面白い、ともすればくだらないことに使われてこそ、宇宙産業は大きくなる」と持論を展開。「インターネットがそうだったし、宇宙もそうなるべき。どんな企画でも我々はウェルカム。話題になるような面白い企画を、僕らも準備している」と述べ、今後のマーケットの拡大に期待した。
同社は、1号機「はるいちばん」の打ち上げを2011年3月に実施。同年7月に打ち上げた2号機「なつまつり」で高度1kmを突破するなど、出足は順調だったものの、「そこから宇宙までが長かった」と堀江取締役は振り返る。MOMO1号機を打ち上げたのは2017年7月。2年がかりで対策に取り組み、ようやく成功に漕ぎ着けた。
MOMOは今回、初めて成功したばかりだが、今後については、「MOMO自体も改良していく方針」(稲川社長)だという。すぐ製造に着手する4号機では大きな設計変更は行わないものの、それ以降の機体では、「運用しやすい」「低コストで作れる」「同じ方法で軽く作れる」ような改良を行いたいとのことだ。
またMOMOには、実験プラットフォームとしての役割もある。ZEROでは、アビオニクス、センサー、分離機構など、多くの新規要素がある。今後、MOMOを改良していく中でそうした新規要素の実証を行い、「ZEROへシームレスにつないでいきたい」(同)という。これまでは年間1機だったが、「かなり増やしたい」とペースアップも狙う。
そして大型化するZEROでは、射場の拡張が必要になるだろう。これについて、大樹町の酒森正人町長は、「ZEROが宇宙に飛び立つ舞台を作りたい」と全面的な支援を表明。現在、ISTも交えて協議をすすめているそうで、稲川社長は「構想自体はかなり具体的なところまでまとまっている」ことを明らかにした。
ところで、同社の射場は"日本初の民間宇宙基地"となったわけだが、種子島宇宙センターのような名称はまだ無い。これについて、堀江取締役は「ネーミングライツでの命名を検討している」、稲川社長は「個人的には"北海道スペースセンター"を名乗りたい気持ちもある」と述べ、今後関係各所と調整していく模様だ。