実は、対機雷戦(MCM : Mine Countermeasures)において機雷を無力化するためのの基本的な手法、すなわち掃海(mine sweeping)と掃討(mine hunting)については、はるかに昔、本連載の第94回と第95回で取り上げている。同じことの繰り返しになってしまっても何なので、今回は、掃海や掃討の意味は分かっているという前提で、この分野における無人ヴィークルの活用について取り上げてみる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • BAEシステムズが2025年の「DSEI Japan」で展示していた、使い捨て型の機雷処分具「アーチャーフィッシュ」 撮影:井上孝司

    BAEシステムズが2025年の「DSEI Japan」で展示していた、使い捨て型の機雷処分具「アーチャーフィッシュ」 撮影:井上孝司

機雷掃討は「再利用」から「使い捨て」へシフト

機雷掃討における近年のトレンドとして、ROV(Remotely Operated Vehicle)で処分爆雷を仕掛ける方法から、使い捨て式のUUV(Unmanned Underwater Vehicle)を用いる方法への移行がある。

ROVで処分爆雷を仕掛けるのであれば、回収したROVに処分爆雷を積み直すことで再利用できるが、使い捨てではそうはならない。だから不経済な話に見えるのだが、それでも使い捨ての方が良いと判断するには相応の理由があるはずだ。

まず、ROVを回収・再利用できるのは、ROVが無傷で戻ってくるという前提があればこそ。機雷を爆破処分したときのトバッチリ、あるいは機雷そのものが備える掃討阻害機能(ダイバーやROVが接近してきたら爆薬を起爆させる等)により、ROVが損傷したり破壊されたりすれば、「もはやこれまで」となってしまう。

その点、使い捨て式であれば在庫がある限り、次々に送り出すことができる。それに、最後は爆発して消えてしまうものだから、損傷して使えなくなる心配も無縁となる。

また、航行速度が低いROVは展開するにも回収するにも時間がかかる。そして、ROVの行動可能範囲は母船とつなぐケーブルの長さによって制約を受ける。すると、母船となる対機雷戦艦艇はケーブルの長さが許す範囲内まで、機雷のところに接近しなければならない。

技術の進化やコストの低減により、一回こっきり・使い捨ての機雷処分具… …というよりも、自航式処分爆雷というべきか。それが実用的な性能を備えて、かつ安価に量産できるようになれば、作業効率の観点からしても、人命を危険にさらさない観点からしても、好ましいわけだ。

  • 米海軍のMCM USV。後部甲板が開放式になっていて、ここに曳航ソナーや機雷処分具などを積み込む仕組み Photo : US Navy

    米海軍のMCM USV。後部甲板が開放式になっていて、ここに曳航ソナーや機雷処分具などを積み込む仕組み Photo : US Navy

使い捨てUUVの課題は「命中精度」

ただ、その使い捨ての機雷処分具を、どのようにして対象となる機雷のところまで送り届けるか、という課題はある。

機雷の位置が分かっていれば、そこまで自律航法で送り込むこともできるのではないかと思いそうになるが、機雷はそんなに大きな物ではない。捜索・マッピングの段階でも、その後に来る掃討の段階でも、よほど高い精度でピンポイントの位置標定ができないと、自律航法だけに頼るのは無理がある。

となると現実的には、ケーブルで母船と結ぶ方が確実と考えられる。それなら、処分具に取り付けたセンサーの情報を見ながら誘導できるし、対象を間違える可能性も低くなる。

そこで具体例として、フランスのexailという会社が手掛けている、K-Ster Cを見てみる。先に挙げた誘導・識別の課題が理由なのか、この製品はROVに分類されている。つまり母船とケーブルで結ぶ形で使用する。

K-Ster Cはリチウムイオン蓄電池で動くスラスタを推進手段としており、航続時間は1時間。速力は通常で3ノット(5.4km/h)、最大で5ノット(9km/h)。だからそれほど “遠出” はできないし、メーカーが出しているデータシートでも、進出可能距離は最大1,500mとなっている。

メーカーが公開している動画を見ると、「UUVを走り回らせてソナーで機雷を捜索して、データを持ち帰る」「発見した機雷のところにK-Ster Cを送り込んで爆破処分」という流れが分かる。また、K-Ster Cが後方にケーブルを引っ張っている様子も見て取れる。

Exail - Stand-Off MCM Concept

「親亀小亀方式」で実現する安全な機雷掃討

「K-Ster Cの進出可能距離が1,500mだと、母船は機雷原に入り込まないといけないのでは?」という疑問が出てくると思う。その通りである。そこでUSVが登場する。親亀小亀方式である。

つまり、母船はUSVを搭載して機雷原の手前まで進出する。そこで、USVに機雷捜索用のUUVと機雷処分具を搭載して海面に降ろし、機雷原に送り込む。exailのシステムでは、INSPECTOR 125というUSVを使う。

そして、まずUUVを走り回らせて機雷の捜索とマッピングを行い、位置が判明した機雷のところにUSVから発進した機雷処分具を送り込んで吹き飛ばす。これなら母船は機雷原に立ち入らなくても済む。

捜索の手段は以下のように3種類用意している。

  • A-18 UUV。UMISAS合成開口ソナー(SAS : Synthetic Aperture Sonar)を装備する。
  • T-18曳航ソナー
  • Seascan UUV (機雷識別担当)
  • exailのSeascanというUUV。これは機雷の識別を担当するため、先頭部(写真では右側)にセンサーがいろいろ取り付いている 撮影:井上孝司

    exailのSeascanというUUV。これは機雷の識別を担当するため、先頭部(写真では右側)にセンサーがいろいろ取り付いている 撮影:井上孝司

  • こちらはexailの使い捨て式機雷処分具、K-Ster 撮影:井上孝司

    こちらはexailの使い捨て式機雷処分具、K-Ster 撮影:井上孝司

「機雷原に入らない」掃海艦という発想転換

具体的な地名を挙げるならば、「ホルムズ海峡に機雷を敷設した」と某国がいい出すようなことがあっても、掃海艦が自らホルムズ海峡の機雷原に乗り込む必要はない。その手前で、所要の機材を搭載したUSVを送り出せばよろしい。

オランダとベルギーが共同で調達を進めている新型掃海艦は、こういう運用コンセプトの下で作られている。自身が機雷原に入り込むつもりはないから船体は鋼製であり、サイズもけっこう大きい。USVやUUVをいろいろ積み込まなければならないから、そもそも大きくならざるを得ない。

なお、INSPECTOR 125は掃海にも使えるUSVだ。つまり、UUVや機雷処分具の代わりにケーブル・カッターを取り付けて、対象海面を走り回らせればよい。機関2基とウォータージェット2基で推進して、最大速力は25kt。

ただし掃海作業で使用するときには、最大速力13kt、掃海時の速力は8ktとされている。ケーブル・カッターを曳航して走り回り、かつ係維索をちょん切れるだけの力がなければいけないから、相応の推進力が必要で、そこが開発の際に課題になったかもしれない。

なお、USVでは実現できそうにないのが、浮遊機雷の銃撃処分。これについてなんらかの研究開発が行われている、あるいは製品がリリースされているという話は聞かないので、そういう場面は蓋然性が低いとして、想定から外しているのだろうか。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。