2026年2月12日に、ロッキード・マーティンと富士通が、海上自衛隊のイージス・システム搭載艦(ASEV : Aegis System-Equipped Vessel)に搭載するAN/SPY-7(V)1レーダーで使用する機器の購入に関する契約を締結した。今回は、この件と、それに関連する話題について取り上げる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 契約書への調印を済ませた後の撮影。左は宮﨑健一郎氏(富士通株式会社、ナショナルセキュリティ事業本部長)、右はウィリアム L.ブレア氏(ロッキード・マーティン・グローバル、アジア&インド地域統括副社長 兼 チーフエグゼクティブ) 撮影:井上孝司

    契約書への調印を済ませた後の撮影。左は宮﨑健一郎氏(富士通株式会社、ナショナルセキュリティ事業本部長)、右はウィリアム L.ブレア氏(ロッキード・マーティン・グローバル、アジア&インド地域統括副社長 兼 チーフエグゼクティブ) 撮影:井上孝司

  • こちらは契約書に署名している模様 撮影:井上孝司

    こちらは契約書に署名している模様 撮影:井上孝司

富士通はPS LRUを製造・納入する

富士通が製造・納入することになったのは、PS LRU(Power Supply Line Replaceable Unit)と呼ばれる機器。その名の通りに電源供給を司るものだ。ASEV用のAN/SPY-7(V)1で使用するPS LRUを富士通が担当する件については、2025年5月に了解覚書(MoU)を締結済みで、今回、発注契約の締結に至った。

この件では、まずロッキード・マーティンが提案要求(RfP)を発出、それを受けて富士通が提案を実施して、採用を勝ち取った次第。

第575回第577回において詳しく解説したように、AN/SPY-7(V)レーダーは、「サブアレイ・スイート」と呼ばれるモジュールを多数、束ねることで、アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーを構成している。ひとつのサブアレイ・スイートには16個の送受信アンテナがあり、それを作動させるための送受信機や電源などが、アンテナの背後にまとめられている。

そのうち電源が、今回の本題であるPS LRU。なにもレーダーに限ったことではないが、防衛電子機器というものはみんな安定した電源の供給が必要である。いや、それに限らず、お手元のパーソナルコンピュータでも電源の品質は重要である。

その電力供給を担当するPS LRUは、ひとつのサブアレイ・スイートに2個ずつ取り付ける。もちろん、サブアレイ・スイート単位で交換ができるが、さらにその中のPS LRUだけ交換することもできる。だから、もしも電源が故障したときには、該当するPS LRUだけ交換すればよく、サブアレイ・スイートをまるごと交換まではしなくても済むわけだ。

  • サブアレイ・スイートの実大模型。独立して手前に置かれているのがPS LRUで、奥の本体にも同じものがひとつ付いている様子が分かる 撮影:井上孝司

    サブアレイ・スイートの実大模型。独立して手前に置かれているのがPS LRUで、奥の本体にも同じものがひとつ付いている様子が分かる 撮影:井上孝司

LRUとSRU

なにもAN/SPY-7(V)のサブアレイ・スイートに限らず、艦艇や軍用機が使用する電子機器の多くは、このように機能ごとにユニットを分けて、個別交換を行えるようにするのが一般的。軍用機の場合、ユニットの交換は飛行列線(flight line)で行えるので、「列線で交換できるユニット」すなわちLRUという名称が用いられる。艦載レーダーでも同じ用語を用いたわけである。

LRUの中には回路基板など、複数の部品が収まっている。故障や破損が生じたLRUを、基地あるいはメーカーの作業場(shop)に持ち込めば、そこで基板やその他の部品など、もっと細かい単位での修理や交換ができる。その単位をSRU(Shop Replaceable Unit)という。

ASEV用のAN/SPY-7(V)1では、そのLRUあるいはサブアレイ・スイートといったユニットを保守・修理するための拠点(デポ)を日本国内に設置しようとしている。

なにしろ、AN/SPY-7(V)1を構成するサブアレイ・スイートは1面で328個、4面で1,312個、それぞれにPS LRUがふたつずつ付くからPS LRUは2,624個。それが2隻分で5,248個。これだけでも結構な数である。

それを日本国内で製造できれば、製造拠点とデポが近いから供給の安定性につながると期待できるし、ASEVの長期的な運用継続にもつながると考えられる。もし、ASEV以外に日本でAN/SPY-7(V)を導入する場面ができれば、このサポート基盤はそのまま生かせる。

ついでに身も蓋もないことを書くならば。こうしてコンポーネントの製造や導入後の維持管理に相手国のメーカーを参画できるようにすることは、他国への装備品の売り込みに際して極めて重要な要素である。欧米の大手メーカーはみんなやっていることであるし、我が国から他国になんらかを輸出したいという場面でも、同様に実行を考えなければならない話である。

日本向けASEV以外への展開は?

さしあたり、今回の契約の対象は海上自衛隊のASEVに搭載する分だけが対象となっている。しかし、AN/SPY-7(V)は日本以外にスペイン海軍のF-110型フリゲート・5隻にAN/SPY-7(V)2を、カナダ海軍のリバー級フリゲート・15隻にAN/SPY-7(V)3を搭載する話が決まっている。

  • ASEVの模型。2025年のDSEI Japan展示会にて 撮影:井上孝司

    ASEVの模型。2025年のDSEI Japan展示会にて 撮影:井上孝司

また、米軍のミサイル早期警戒レーダーLRDR(Long Range Discrimination Radar)がアラスカ州のクリアー宇宙軍施設で稼動を開始しているし、グアム島にはTPY-6レーダーを設置する話が決まっている。いずれも同じ基盤技術を使用しており、サブアレイ・スイートは共通であるし、ソフトウェアも共通性が高い。

だから、富士通が納入するPS LRUが品質・価格・納期といった面で要求を満たして満足してもらえれば、日本向け以外のレーダーで採用される可能性はあるかもしれない。また、PS LRUの実績をテコにして、他のコンポーネントでも採用を勝ち取れる可能性も考えられる。

ロッキード・マーティンはこれまでのところ、このPS LRUを自社の工場で製造しているので、富士通から調達することになれば自社の仕事が減る、という一面もある。しかし、同じサブアレイ・スイートを共用するレーダー製品のインストール・ベースが増えれば、供給源を増やすことはサプライチェーンの強靱化につながるともいえる。

  • ロッキード・マーティンが2025年の秋に、都内でいくつかの地下鉄駅に掲出していた広告。日本側とのパートナーシップをアピールする内容になっていた 撮影:井上孝司

    ロッキード・マーティンが2025年の秋に、都内でいくつかの地下鉄駅に掲出していた広告。日本側とのパートナーシップをアピールする内容になっていた 撮影:井上孝司

サプライチェーンの強靱化は、ここ数年、欧米の防衛産業界でいわれている重要な課題。たまたま今回はタイムリーな話があったのでAN/SPY-7(V)の話を取り上げたが、他の分野でもサプライチェーンの強靱化につながる話はある。おいおい、本連載でもサプライチェーンの強靱化という視点から記事を書いてみたいと考えている。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。