取材などで何回か、航行中の護衛艦の艦橋にお邪魔したことがある。実は日本に限らず、軍艦の艦橋における配員は、商船のそれと比較すると大幅に多いのが一般的だ。しかしさすがに、最近は配員を減らす流れも出てきている、というのが今回のお題。
少人数で艦を操れるようにした事例というと、2年前に本連載で紹介した、イタリア海軍のPPA(Pattugliatore Polivalente d'Altura)ことパオロ・タオン・ディ・レヴェル級がある。また、我が国でも “もがみ” 型FFMでは、従来の護衛艦と比べて大幅に艦橋の配員を減らしている。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
艦艇を動かすために必要な機能
艦船に限らずどんな乗りものでも、それを操るために必要な機能は案外と共通している。
まず、加減速の制御と舵取りの操作。加減速の制御はエンジンの操作であり、舵取りの操作は車輪や舵の向きを変える操作である。飛行機や潜水艦では三次元の操作が必要になるが、クルマや水上艦船は二次元の操作となる。鉄道車両は例外で、進路の設定は外部に依存しており、運転操作は加減速のみとなる。
ところが、運転操作を行うには周囲の状況を把握しなければならない。クルマの運転であれば、首を動かして頭の向きを変えたり、ミラーを見たりして状況を把握する。飛行機も似ているが、レーダーなどのセンサー機器を利用する場面が多くなる。いずれにしても、操縦する人が自分の眼で見て、自分で状況を認識した上で意思決定して、操縦操作をしている。
ところが、フネ、とりわけ軍用の艦艇はいささか状況を異にする。「航海の指揮を執る人」「操舵を担当する人」「速力の変更を担当する人」「見張りをする人」が別々にいるからだ。さらに見張りは、目視による見張りと、レーダー画面による見張りの2種類に分かれる。
さらに、艦橋の片隅に海図台というものがあって、そこに航海科員がついている。そして、事前に立てた通航計画に合わせて変針点への接近を報告したり、現在位置を海図に書き込んだりしている。
計画通りに航行している場合、「変針10分前になりました。○○を△△度方向・××マイルに見て、135度に変針、次の行程15マイル」といった具合に報告が上がり、当直士官はそれを受けて艦の針路を変えるよう舵手に指示する。
ただし周囲の行会船は可変要素だから、それは見張員やレーダー担当から口頭で報告が来る。そんなこんなの情報を頭に入れた上で、針路の変更や速力の増減を指示しなければならない。単に計画通りにフネを動かすだけだと衝突事故が起きかねない。
さらに伝令や交話員、そして艦長や司令まで加わるので、護衛艦の艦橋には十数名の人がすし詰めということになる。(艦長や司令は別として)全員が24時間フルタイムで当直に就くわけにはいかないから、交代要員も必要になる。つまり艦橋の配員が多ければ、それだけでも乗組員の所要はけっこうな数になる。
どうしても多くの配員を必要とするなら仕方ないが、少なくできるものなら少なくしたい。ことに、「槍の切っ先」である戦闘艦に多くの人的資源を集中しようとすれば、補助艦艇や哨戒艦艇はできるだけ少ない人手で動かしたい、となっても不思議はない。
機関については、艦橋から直接操作できる艦艇が増えている。これはディーゼルやガスタービンだからできることで、蒸気タービン機関では、速力通信機(テレグラフ)で機関操縦室に速力の指示を出すしかないのだが。
省力化が図られた艦艇いろいろ
といったところで、2025年5月にシンガポールで開催された「IMDEX Asia 2025」展示会に際してお邪魔したのが、タイ海軍のクラビ級外洋警備艦(OPV : Offshore Patrol Vessel)の2番艦、プラチュアップ・キリカン。艦側の御厚意により、艦橋まで上げていただくことができた。
艦橋を横断するように設けられた横長のコンソールがあり、右から順にレーダー、機関(速力の増減)、航法(電子海図)、通信といった機能が割り振られている。その後方に操舵手の席とコンソールがある。見た感じ、4~5人いれば艦を動かせそうだ。クラビ級は英海軍のリバー級OPVをタイプシップとしているから、リバー級も似たような仕組みと思われる。
これは、いわゆる統合艦橋システム(IBS : Integrated Bridge System)といってよいだろう。IBSを国際標準化仕様に発展させた、統合航法システム(INS : Integrated Navigation System)という言葉もあるが、ここではIBSで統一する。これについては以前、以下の記事で執筆したことがある。
統合化したシステムの重要性
IBSでは、航行計画と航路監視、衝突予防といった機能、すなわち電子海図、レーダー、船舶自動識別システム(AIS : Automatic Identification System)、オートパイロットといった機能を統合化している。
国際海事機関(IMO : International Maritime Organization)では、IBSについて「適切な資格を持つ人材による、安全で効率的な船舶管理を強化するための、センサー情報または指令/制御への集中アクセスを可能にするために相互接続されたシステムの組み合わせ」と説明している。
昔は、操船といえば「自分の眼で見て得た情報に基づいて行う」ものであったが、現在ではレーダーやAISなどといった手段に依存する部分が大きくなっている。となれば、そういう時代に適合した操船支援手段があってしかるべきだろう。
例えば、レーダーと電子海図とAISの情報を個別に表示する代わりに一つの画面に重畳すれば、状況認識の改善に役立つと考えられる。ただし、単に重畳するだけでなく、見せ方や操作の仕方、すなわちユーザー・インタフェースのデザインが問題になる。
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NACOS Marineという会社のIBS製品例。左のコンソールはレーダーやAISなどの情報を統合して、自艦の位置や周囲の行会船の状況を表示、右のコンソールは自艦の針路・速力や機関の状況を表示する 撮影:井上孝司
使いやすい、状況を理解しやすいIBSを開発すること、そしてそのIBSを適切に使いこなすこと。まずフネを安全・確実に操ることが先決であり、フネを用いて戦うのはその後の話である。
そして、艦艇の省力化はどこの国でも直面している課題である。だから「IMDEX Asia」みたいな展示会では、艦艇や機関、搭載武器に関する展示だけでなく、IBSに関する展示を行うメーカーもいる。イタリアの大手造船所・フィンカンティエーリみたいに、操船シミュレータを持ち込んでいる事例もあった。これだから展示会の取材は面白い。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。



