以前に第634回~636回で取り上げた短距離防空(SHORAD : Short Range Air Defence)は、レーダーや射撃統制システムを組み合わせることで、より効率的・効果的な交戦を可能にするという話だった。同じような道具立てでも、もっと深刻な立場にあるのが、沿岸防衛・地対空交戦の分野となる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

地対艦ミサイルというジャンル

海戦の分野では、大口径砲の撃ち合いから対艦ミサイルの撃ち合いに切り替わって久しい。では、地対艦の交戦はどうか。

こちらもやはり、昔は大口径砲の撃ち合いがあった。ノルウェーでは1980年代になっても、来寇する敵艦と交戦するために陸上砲台を設置している事例があったというが、さすがに今は事情が違う。やはり対艦ミサイルである。

手近なところで、陸上自衛隊における地対艦ミサイルの歴史はけっこう長い。SSM-1(88式地対艦誘導弾)が制式化されたのは、その名の通りに1988年のことだから、もう37年も前の話になる。

そのSSM-1から派生して艦載型のSSM-1B(90式艦対艦誘導弾)が登場したのは御存じの通り。つまり、地対艦ミサイルと艦対艦ミサイルは共通性が高い。

  • 88式地対艦誘導弾の発射機は6連装・車載式 撮影:井上孝司

    88式地対艦誘導弾の発射機は6連装・車載式 撮影:井上孝司

  • その88式地帯艦誘導弾から派生したのが、この90式艦対艦誘導弾 撮影:井上孝司

    その88式地帯艦誘導弾から派生したのが、この90式艦対艦誘導弾 撮影:井上孝司

逆の転用事例もあって、RGM-84ハープーン艦対艦ミサイルを陸上転用したHCDS(Harpoon Coastal Defense System)は台湾が導入、ウクライナにも供与されている。

また、RGM-184A NSM(Nytt Sjønomålsmissil / Naval Strike Missile)を車載式発射機に載せるNMESIS(Navy Marine Expeditionary Ship Interdiction System)を、米海兵隊が導入している。NMESISでは4×4のJLTV(Joint Light Tactical Vehicle)を使うので、載せられるミサイルの数は2発しかないが、機動性は高いし、目立たない。

  • 米海兵隊のNMESISは機動性を重視して、JLTVベースの連装発射機をコンパクトにまとめている 撮影:USMC

    米海兵隊のNMESISは機動性を重視して、JLTVベースの連装発射機をコンパクトにまとめている 撮影:USMC

それとは別に、NSMベースの地対艦ミサイル・システムがあり、こちらはNSM CDS(Coastal Defence System)と称する。ルーマニア、デンマーク、ポーランドが導入を決めており、ブルガリアも導入の可能性がある。

地対艦交戦の特徴

地対艦ミサイルの主な用途は、海からの侵略を阻止すること。ただしプラットフォームが艦艇ではなく陸上になることで、運用には相違が生じる。

これはSSM-1が登場したときから喧伝されていることだが、地対艦ミサイル部隊は海岸線に発射機を据え付けて撃つのではなく、もっと内陸の、目立たない場所に潜んでおく。そして、撃ったミサイルは地形に紛れて飛翔しながら洋上に出る。山岳地帯なら、谷間を通ることで見つかりにくくなる。

洋上に出た後は隠れられる地形はないので、あとは目標に向けて一直線ということになろう。ただし斉射したミサイルの一部をわざと迂回させて、同時にさまざまな方向から攻撃する戦術はあり得よう。

すると、ミサイルには長い射程が求められることが分かる。視点の高さや相手の大きさにもよるが、海岸線から見通せる水平線までの距離は20km程度。しかしミサイルは、それよりもずっと長い射程を求められる。

それに、上陸する側は地対艦ミサイルの脅威を避けたいし、そもそも接近を覚られたくない。だから上陸予定海岸から見た場合には水平線以遠に引っ込んでおいて、そこから揚陸艇やヘリコプターを使って上陸を仕掛けることになる。

すると、それを迎え撃つ側は水平線以遠までカバーできる捜索・ターゲティング手段が不可欠となる。海岸線にレーダーを据え付けたのでは仕事にならない。

水平線の向こう側で索敵する手段と神出鬼没が不可欠

SHORADシステムでは、相手は空中にいるから、地平線に邪魔されることは多くない(ただし地形や植生に邪魔されることはあり得るが)。

ところが地対艦交戦では、相手は水平線の向こう側にあると考えてかからなければならないので、視界を広くする必要がある。すると、地べたよりも高いところに「眼」を置かなければならない。つまり航空機である。戦闘機でも早期警戒機でも無人機でもいいが。

よって、当節の地対艦ミサイル部隊には「外部の眼から情報を得るためのデータリンク機能」が不可欠と考えられる。もっとも、地上レーダーがあるに越したことはなくて、台湾向けのHCDS輸出でもレーダー車両が一式に含まれているが。

そして、関係する諸要素が広い範囲に分散すると、ひとつところにまとめて布陣できるSHORADシステムみたいにケーブルでつなぐわけにはいかない。だから、関係する諸要素を無線通信を介して接続する仕掛けは不可欠となる。

そのネットワークに指揮統制システムを加えて、戦域全体の状況認識と目標割り当ての機能を持たせれば、より効率的な交戦が可能になり、撃ち漏らしが減ると期待できる。また、地対艦ミサイル以外の資産を組み合わせて波状攻撃・調整攻撃を仕掛けるようなことも、実現しやすくなろう。

また、ずっとひとつところに留まっていたら敵軍に捕捉される可能性が高くなるので、撃っては移動、撃っては移動、を繰り返して神出鬼没にならないと我が身が危ない。

米海兵隊がNMESISでやろうとしていることがまさにそれで、島から島へと渡り歩きながら、NSMを撃って敵艦の行動を掣肘しようと考えている。すると指揮統制システムの側では、「敵がどこにいるか」だけでなく「味方がどこにいるか」も常に把握しておかないと、困ったことになる。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。