今回も前回に引き続き、仮想化イージス武器システム(VAWS : Virtualized Aegis Weapon System)から、米陸軍のAFATDS(Advanced Field Artillery Tactical Data System)にデータを送り込んだ試験の話を取り上げる。

これはロッキード・マーティンが2025年1月29日に、演習「キーン・スウォード」における同社製品の活用について、プレスリリースを出した案件だ。なお、AFATDSの概要については、前回を参照いただきたい。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 演習「キーン・スウォード」の様子 出典:ロッキード・マーティン

    演習「キーン・スウォード」の様子 出典:ロッキード・マーティン

AFATDSと他の資産を連携させる実験を実施

AFATDSに目標情報を送り込むためには、ISTAR(Intelligence, Surveillance, Target Acquisition and Reconnaissance、情報収集・監視・目標指示・偵察)を担当する資産を、AFATDSとデータ通信網でつなぐ必要がある。

従来の発想なら、陸軍が持っている偵察資産、例えばMQ-1Cグレイ・イーグルみたいな無人偵察機や、最前線に出ている戦闘部隊の兵士、あるいは斥候に出ている兵士などが情報源となる。英陸軍の砲兵隊では、エルビット・システムズのヘルメス900という無人機を導入している。

このほか、空軍の戦場監視機、E-8C J-STARS(Joint Surveillance Target Attack Radar System)もAFATDSとの連携が可能である。それなら、RQ-4グローバルホーク・ブロック40でもよいだろう。もちろん、本国の情報部門から得られる情報もある。

ところが、こうした従前からの枠組みを超える試験が行われるようになってきている。

例えば、ノースロップ・グラマンが2022年1月に、ホワイトサンズ実験場で実施した実証試験について発表した。このときには、F-35のセンサーで得た情報をAFATDSに送って交戦する試験が行われたという(それ以外にもさまざまな試験が行われていた)。

2024年の演習「キーン・スウォード」では、目標情報はVAWSからAFATDSに送り込まれた。以前なら、このプロセスは手作業で実施していたところだが、相互接続・相互運用が可能なシステムを構築したことでVAWSとAFATDSの “会話” が可能になり、手作業を伴わずに目標情報を迅速に送り込めた……という話。それが、先に言及した、ロッキード・マーティンのプレスリリースにおける要旨であった。

  • AFATDS AXSのユーザビリティテストを実施している第10山岳師団砲兵隊の特技兵 出典:US.Army

    AFATDS AXSのユーザビリティテストを実施している第10山岳師団砲兵隊の特技兵 出典:US.Army

VAWSとAFATDSを接続することの意味

この話を最初に眼にしたときには、「VAWSに“頭脳”の役割を受け持たせて、射撃指揮の調整をやらせたのだろうか」と考えた。以前に第498回や第513回で書いたように、VAWSの用途として「イージス武器システムの“頭脳”を切り出して、それを必要とする現場に持ち込める」という話が出ていたから、それに影響されたわけだ。

ところが、別の可能性も考えられることに気付いた。

VAWSからAFATDSに目標データを自動的に送り込むということは、VAWSとAFATDSの間で“会話”ができるということ。

それなら、携行可能なコンピュータの仮想マシン上で走るVAWSだけでなく、本物のイージス艦が搭載しているイージス武器システムとAFATDSの間でも、しかるべきインターフェイスとネットワークさえあれば、“会話”ができるはずである。

すると、洋上にいる海軍のイージス艦と、陸上にいる陸軍や海兵隊の砲兵隊が連携できることになる。イージス艦と、そこにつながっている各種センサーで得た目標情報を活用して、AFATDSにデータを渡して火力支援を調整させることができるのではないか。それこそまさに領域横断である。

実はそちらが本筋ではないだろうか? 海軍と陸軍がシームレスにつながって協調する話だから、試験に関する発表で「陸軍の第3マルチドメイン・タスクフォース(3rd MDTF)への支援」という話が出てくるのではないか?

それを実験で検証するのに、本物のイージス艦を持ってくるのは大変だ。海軍に依頼して艦を1隻、用立ててもらわなければならないし、艦を動かすには200名を超える乗組員が必要になる。それと比べれば、仮想マシンが走る可搬式のコンピュータだけで済むVAWSの方が、はるかに手軽に使える。

マイクロサービス化したAFATDS AXS

最後に、AFATDSの中身の変化についても触れておきたい。

実は、AFATDSは30年あまりの歴史がある。ながらくレイセオンが開発を担当していたが、バージョン7からレイドスに担当替えとなった。

当初のAFATDSはモノリシック構成だったが、最新のAFATDS AXS(Artillery Execution Suite)では「迅速なアップグレード」や「適応性の高さ」を謳っている。これは、米軍で規定しているオープン・アーキテクチャ化のための標準化仕様、MOSA(Modular Open System Approach)に則ったマイクロサービス化を図っているという意味。

マイクロサービスとは、独立して機能する個々のサービスを組み合わせてアプリケーションを構築するアーキテクチャ・スタイルのことだから、AFATDSも「すべての機能をひとかたまりにした巨大ソフトウェア」から「機能ごとに独立したモジュールを用意する、ソフトウェアの集合体」に作り替えられたという話になろう。

このAFATDS AXSは、2030年までに現行バージョンを置き換える予定だとされる。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。