過去2回に分けて、陸上の防空システム、その中でも機動が前提となる野戦防空の分野において、スタンドアロン交戦からシステム化された交戦に移行する流れがある、という話を書いた。その続きで、米陸軍の動向を見てみる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
中間がすっぽり抜けていた米陸軍
艦隊防空やミサイル防衛と同様、野戦防空や本土防空でも、長・中・短射程のエフェクターを組み合わせて、多層防衛とするのが理想である。
例えば、日常的にハマスやヒズボラがロケットを撃ってくるイスラエルでは、上層から順に「アロー」「デービッド・スリング」「アイアン・ドーム」という三段構えの多層防空システムを整えている。
ところが米陸軍の場合、長射程のMIM-104パトリオットと、短射程のFIM-92スティンガーの間がすっぽり抜けていた。そこで持ち上がったのが、IFPC(Indirect Fire Protection Capability)計画。業界用語でいうところのギャップフィラーを実現しようという話である。
しかし、一切合切をゼロから新規開発していたら、経費が増えてリスクも増大する。そこで当初は、イスラエル製のアイアン・ドームに目をつけた(IFPCインクリメント1)。これならすでに実績がある製品で、迅速に導入できる。ただしスタンドアロンであれば。
方針変更で、IFPCインクリメント2を開発
以前に本連載で取り上げたように、米陸軍ではノースロップ・グラマン製の指揮管制システム、IBCS(Integrated Battle Command System)を導入する計画を進めている。防空用の資産をみんなIBCSの指揮下に入れて統合化したシステムを構築すれば、スタンドアロンのシステムによる個別交戦ではなく、全体を俯瞰して最適化した交戦指揮が可能になると期待できる。
また、IBCSの特徴として、以前にも紹介したように、冗長性・抗堪性が向上するとか、センサー情報の融合によって高精度の探知・追尾データを得られるとかいう話もある。
ところが、アイアン・ドームはもともとイスラエル向けに開発された製品で、IBCSとの接続に難があった。それでは米陸軍が推進している方向性と相容れず、具合がよろしくない。そこで方針が変わり、IFPCインクリメント2として自前の製品を開発することになった。
とはいえ、一切合切を新規開発していたら、経費もリスクも増大することに変わりはない。そこで、格闘戦用空対空ミサイルのAIM-9Xサイドワインダーに目を付けた。これなら既製品である。ただし車載式の発射器は必要だから、これはダイネティクスに作らせることにした。名称を“Enduring Shield”という。
レーダーの方は、ロッキード・マーティン製のAN/MPQ-64センティネルA4を使用する。移動手段としては、大型軍用トラックFHTV(Family of Heavy Tactical Vehicles)を使う。中型のFMTV(Family of Medium Tactical Vehicles)にしなかったのは、機材が大がかりになるからだろうか。
IFPCインクリメント2の上層に位置する、長射程・広域用の防空システムについては、すでにパトリオットがある。それと組み合わせるレーダーも、全周のカバーが可能なLTAMDS(Lower Tier Air and Missile Defense Sensor)の開発が進んでいるから、それを使えばよい。
みんなIBCSの指揮下に入れる
そのパトリオットやLTAMDS、そしとIFPCインクリメント2などをIBCSのネットワークに接続して組み合わせれば、多層構成かつ一元的な指揮管制を行える、新世代の防空システムを実現できよう。
実際、2023年3月に「IBCS、IFPCインクリメント2、LTAMDSを組み合わせた試験を実施する計画がある」と報じられた。そして同年末に、リスク低減を目的とする実証試験が完了したことが明らかにされた。その後、開発試験~運用評価試験と駒を進める計画だと説明された。
2024年末にホワイトサンズで行われた実証試験では、模擬UAV標的×2機と模擬巡航ミサイル標的×1基の探知・捕捉・識別・追尾を実施した。これで、「IFPC向けに、どんなセンサーやエフェクターでも接続できる能力を実証できた」というのがノースロップ・グラマンの説明であった。
さらに、エフェクターのバリエーションを増やす
2025年3月に、IFPCと組み合わせる中射程地対空ミサイルの開発をボーイングが担当する話が決まったと報じられた。ただしこれは野戦防空というよりも、「不動産」の防空を念頭に置いたものであるようだ。
このほか、AIM-120D AMRAAM(Advanced Medium Range Air-to-Air Missile)空対空ミサイルを組み合わせる話が俎上に上ったこともある。AMRAAMの地対空型なら、ずっと前からノルウェーのコングスベルクがNASAMS(National Advanced Surface-to-Air Missile System)を開発・実用化しているから、実績があって低リスクといえる。ただ、NASAMSの発射機は6連装で、弾数が少ないところが米陸軍には不満だったようだ。
IFPCのエフェクターはミサイルだけというわけではなく、レーザー兵器の構想もある。これをIFPC-HEL(Indirect Fires Protection Capability-High Energy Laser)と称する。
まず、ロッキード・マーティン製のデモンストレーターとして、出力300kW級の実証用レーザー兵器・HELSI(High Energy Laser Scaling Initiative)が登場。続いて2023年7月に、プロトタイプの開発契約を2億2,084万ドルで発注した。
また、イピロス(Epirus)という会社が別件で、高出力マイクロ波を使用するIFPC - HPM(Indirect Fire Protection Capability-High-Power Microwave)の開発を6,610万ドルで受注している。
レーザー兵器やマイクロ波兵器には「電源さえあれば弾切れが起こらない上に、1発(?)あたりの経費が安い」という利点がある。300kW級のレーザーなら、相応に破壊力の増大も見込めよう。すると、脅威の種類や数に応じてミサイルとレーザーを使い分ける話も現実的になってくるかもしれない。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。


