日本にとって、2025年は「海外艦艇来航ラッシュ」の年となった感がある。ここ何年か、ことに欧州諸国の艦が日本を訪れる機会が増えているが、2025年には約130年ぶりにスペイン海軍の艦が来航したり、ノルウェー海軍の艦が初めて来航したりと話題が多い。

そして、見慣れない艦を見られるということは、これまで知らなかった世界を実地に見られるということでもある。連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 2025年7月7日に横須賀に現れた、ズムウォルト級の2番艦「マイケル・モンスーア」 撮影:井上孝司

    2025年7月7日に横須賀に現れた、ズムウォルト級の2番艦「マイケル・モンスーア」 撮影:井上孝司

ズムウォルト級のディテール

まず、2025年7月7日に横須賀に来航した米海軍の大物、「マイケル・モンスーア」(DDG-1001)。2022年に来航した「ズムウォルト」(DDG-1000)の同型艦(2番艦)である。

「ズムウォルト」は、普段は空母が着けている12号バースに着けていたため、遠くから見ることしかできなかった。ところが「マイケル・モンスーア」はヴェルニー公園から目と鼻の先に着けてくれたので、これまで分かっていなかったディテールが判明した部分があった。

このクラスは、徹底したステルス設計を取り入れたことで知られている。その辺の話は過去にも取り上げたことがあるので、基本的なところは割愛して、「間近で現物を見て、それで初めて分かったこと」に的を絞ってみたい。

まず、同級の特徴である「どでかい上部構造物」。これを見た方が異口同音に「でかい」「大きい」と書いているのが面白い。確かに、構造物というよりも建物の趣がある。

これは、IDHA(Integrated Composite Deckhouse and Apertures)と呼ばれている。字義通りに訳すと、「上部構造と(アンテナ)開口を統合した複合材料製の構造物」であり、実際、1番艦と2番艦のそれは炭素繊維複合材で造られた。なお、3番艦「リンドン B.ジョンソン」(DDG-1002)では鋼製に改められている。

そのIDHAの表面を見ると、タイルが貼られているように見える。しかし実際にはもっと柔らかい素材のようで、一部が剥がれたり、気泡が入ったりしている様子を確認できた。洋上を航行していれば、太陽光に灼かれることも、海水を浴びることも、風雨にさらされることもある。

155mm AGSとチリ(?)の処理

もうひとつ、同級のステルス設計を象徴するアイテムが、前甲板に2基据えられた155mm艦載砲AGS(Advanced Gun System)。以前にも書いたことがあったかと思うが、使用するときだけカバーが開いて、中から砲身がせり出してくる構造になっている。

ところがそのAGS、間近で見てみると、案外と継目が目立った。冗談半分、本気半分で「このチリの処理は、トヨタの車だったら却下されるぞ」と言ってしまったものである。この継目の段差が、どの程度までRCSを増やすことになるのかは分からない。もちろん、増分がゼロということはないだろう。

もっとも、艦艇のステルス設計は主として「飛来する敵の対艦ミサイルに対して、自艦をできるだけ小さく見せる」のが目的であり、その際の主戦場は側方から入射するレーダー電波だ。

すると、前方に向いた継目でいくらか段差があっても、それを解消するために労力やコストをかけるのは割に合わない、と判断したのかもしれない。側方から入射したレーダー電波を浴びる場所ではないからだ。

そうした中で、表面に張り付けた(おそらく、レーダー電波のエネルギーを吸収するための)素材を維持するのは、簡単な仕事ではないだろう。そもそも論として、補修したり貼り直したりしようとしても、レーダー反射断面積(RCS : Radar Cross Section)を小さくするために表面がノッペラボーになっているから、作業用の足場がない。

  • 前方から見たIDHA。表面の一部に剥離が見て取れる。頂部にアンテナ類や電子光学センサーのターレットが増設されている様子も分かる 撮影:井上孝司

    前方から見たIDHA。表面の一部に剥離が見て取れる。頂部にアンテナ類や電子光学センサーのターレットが増設されている様子も分かる 撮影:井上孝司

増設された、電子光学センサーらしきもの

もうひとつ、「マイケル・モンスーア」を見て気付いたのが、そのIDHAの上部に増設された機器類。「く」の字型のマストに、TACAN(Tactical Air Navigation)やLink 16データリンクらしきアンテナが取り付けられているのは「ズムウォルト」と同じだ。

ところが、それだけでなく電子光学センサーのターレットらしきものが増設されていた。これは、3年前に来航した「ズムウォルト」には付いていなかったものだ。

  • 2022年に来航した「ズムウォルト」。繋留位置の関係でこれが精いっぱいだったが、「マイケル・モンスーア」にある、電子光学センサーのターレットらしきものがないのは分かる 撮影:井上孝司

    2022年に来航した「ズムウォルト」。繋留位置の関係でこれが精いっぱいだったが、「マイケル・モンスーア」にある、電子光学センサーのターレットらしきものがないのは分かる 撮影:井上孝司

逆に「ズムウォルト」の写真を見ると、球形のアンテナ・ドームを複数、それぞれ異なる向きに指向した、逆探知用の臭いがプンプンする謎の空中線らしきものが、IDHAの頂部についている。これは「マイケル・モンスーア」には付いていない。同型艦でも艦によって、あるいは時期によって、こういう細かい差異が発生するから面白いし、見ていて飽きない。

  • こちらは「マイケル・モンスーア」。「ズムウォルト」のIDHA頂部にあった、クローバー型みたいなアンテナ・ドームの集合体がないのが分かる 撮影:井上孝司

    こちらは「マイケル・モンスーア」。「ズムウォルト」のIDHA頂部にあった、クローバー型みたいなアンテナ・ドームの集合体がないのが分かる 撮影:井上孝司

その「ズムウォルト」は2025年8月現在、造船所に戻されてAGSを撤去、跡地には極超音速ミサイルCPS(Conventional Prompt Strike)・12発を搭載するためのLMVLS (Large Missile Vertical Launch System)を設置する工事を受けている。その際に戦闘システムなどにも手が入るだろうから、センサー機器の陣容には変化が生じるかもしれない。

余談だが、LMVLSの発射筒は87in(2,210mm)径で、そこにミサイル3発を収容する。1隻につき、これを4基搭載するので、1隻あたりの搭載数は12発となる。発射の際には、圧縮空気でミサイルを撃ち出してからロケット・ブースターに点火する。つまりコールド・ローンチだが、CPSのロケット・モーターが大推力だからこうしたのだろうか。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。