今回も前回に引き続き、「2024国際航空宇宙展」(以下JA2024)をトリガーとする話題を取り上げてみる。そして今回のお題は無人機。とあるメーカーの方と雑談していた席で出た話を基に、あれこれ考えてみる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
UASあればC-UASあり
今回のJA2024が過去のイベントと比べて大きく違ったと思う点の一つに、「無人モノ」のプレゼンスが強まった点が挙げられる。
もともと、空に限らずその他の分野でも、無人モノは斬新なアイデアを持ち、小回りが効くスタートアップ企業が得意とする一面がある。ところが今回のJA2024では、大手も含めて無人モノが最前列に出てきた。
そして運用現場でも、以前よりも地に足のついた、より現実的で実現可能性が高い形で、無人モノを活用するようになってきている。それは「戦の現場」でも変わらない。
こうして無人モノの利用が拡大すれば、それが脅威になる場面も出てくる。それはウクライナや紅海の情勢を見ていれば一目瞭然。したがって、UAS(Unmanned Aircraft System)のプレゼンスが増すことは、同時にそれへの対抗手段(C-UAS : Counter UAS)のプレゼンスが増すことにもつながる。
ただしJA2024で筆者が見て回った範囲においては、C-UAS関連の展示はほとんど見かけなかった。これは、JA2024が「飛ばす側」を主体とするイベントだからだろう。C-UAS関連の展示が目立ちそうなのは、来年に開催が予定されているDSEIの方だ。
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JA2024でエアバスが一等地に展示していた、VSR700無人ヘリコプターの模型。そういえば、海自がノースロップ・グラマンのMQ-8Cファイアスカウトを買おうとしたらディスコンになっていた、という話があったが 撮影:井上孝司
C-UASにおけるコストと弾数のジレンマ
無人モノの利点として「人命の損耗を気にしなくてよい」が挙げられる。それとともに、「性能・機能・能力を欲張らなければ、安価に作ってどんどん投入できる」もある。たとえば、イエメンでフーシ派が実際にやっていることである。
すると迎え撃つ側にとっては、頭が痛い問題が発生する。既存の対空ミサイルでも、無人機を迎え撃ち、撃墜することはできるが、ミサイルはお値段が高い上に数が多くない。
生憎、イランあたりで作っているUAVのお値段がいかほどかは分からないが、そんな高価なものではないだろう。例えばの話、数百万円で製造できる無人機を撃ち落とすために数千万円の対空ミサイルを撃っていたら、まことに不経済な話となる。そういうエフェクターは、もっと脅威度が高い、例えば巡航ミサイルを撃ち落とすために使いたい。
そこで期待されている手段の一つがレーザー兵器。以前にいくつかの開発計画が走っていた大出力化学レーザーと異なり、現在の主流はソリッドステート・レーザー。これは電力さえ供給できれば、なんぼでも撃てる。発電機が稼働し続ける限り、弾数の心配は要らない。
ただ、現時点で実用になっているレーザー兵器は、出力が大きくなく、数十kW程度のものが多い。それでも、数秒間の照射で電動式マルチコプターぐらいは破壊できるのだが。
例えば、いささか話は旧聞に属するが、MBDAドイッチュラントが2015年に、レーザーで電動式マルチコプターを破壊する試験を成功裏に実施した。このレーザーの最大射程は3km程度とされるが、実際に破壊したときには、出力20kWで500m先のUAVを、3.39秒間の照射で破壊したという。
これが何を意味するか。出力が数十kW級のレーザーでUAVを迎え撃つには、相手を数km程度の距離まで引きつけなければ交戦できない。しかし迎え撃つ側の立場からすれば、「排除できるものなら、できるだけ遠方で排除したい」「それなら対空ミサイルを撃ってしまえ」となりそうなもの。
多数の脅威に対する脅威評価
すると鍵を握るのは、脅威評価ということになる。飛来する多数の脅威を捕捉追尾して、未来位置を予測したり、飛行パターンから脅威の種類を予測したりして、優先順位をつける。
米海軍はロッキード・マーティン製のMk.5 mod.0 HELIOS(High Energy Laser with Integrated Optical-dazzler and Surveillance)というレーザー兵器の配備を始めているが、これの特徴はイージス武器システムと連接していること。
すると、イージス武器システムが脅威評価を行ってくれる。HELIOSをイージスと連接することの意味はそこにあるが、イージス艦でしか使えない機能になってしまう。それなら、第513回で取り上げたVAWS(Virtual Aegis Weapon System)を用いて、イージスの“頭脳”だけを外部に持ち出すような対応も考えられるかもしれない。
では、人工知能(AI : Artificial Intelligence)を使った意思決定支援や脅威評価はどうだろうか。C-UASの現場でAIを使うことの利点は、対峙する脅威の動向を学習できること。それによって脅威評価のロジックを改善できれば、次の交戦で、より正しい意思決定につなげることができるかもしれない。
ミサイルは必ず目標に向けて突っ込んでくるものだから、着弾のタイミングが問題になる。ところがUAVの場合、武器を搭載して投下してくるかもしれないし、自らがミサイルみたいに突っ込んでくるかも知れない。その違いも脅威評価に影響する。
なぜかといえば、武器を積んでいるUAVは、武器を投下する前に無力化しないと脅威になる。ところが、自爆突入型UAVはミサイルと同じで、被弾を阻止できればそれでよい。その違いを何らかの方法で認識して、優先順位付けに応用できたら、便利そうではある。
また、単に脅威度に基づく優先順をつけるだけでなく、ハードキルとソフトキルのどちらを使うか、という判断も欲しい。そしてUAV相手のソフトキルでは電子戦の話が不可欠だから、なにやら領域横断的な話ではある。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。