今回のお題は、イスラエルのエルビット・システムズがしばらく前に発表した「Air Keeper」。従来は別個のプラットフォームに載せて別個に機能していた、ISTAR(Intelligence, Surveillance, Target Acquisition and Reconnaissance)、すなわち情報収集・監視・目標指示・偵察の機能。それと電子戦(EW : Electronic Warfare)の機能を統合したところがミソである。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

ISTARとEWは別々のことが多い

第554回に、電子戦システムの統合化について取り上げた。このときには電子戦に関わる機能、すなわちEA(Electronic Attack、妨害のような電子的攻撃)、ES(Electronic Support、敵の電子兵器に関する情報収集)、EP(Electornic Protection、敵のEAへの対処)を統合化して一元的に扱う、という話であった。

一方のISTARは、電子光学/赤外線(EO/IR : Electo-Optical/Infrared)センサーや合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)による映像情報の収集、そして収集した情報に基づく目標指示の機能である。

近年では無人機を活用する場面が多く、「EO/IRセンサーで目標を発見したらレーザーで目標指示を行い、レーザー誘導のミサイルや砲弾を撃ち込んで交戦する」といった流れがポピュラー。ただし、ミサイルや砲弾を別のプラットフォームに依存することもある。

  • エルビット・システムズが開発したレーザーベースの標的捕捉デバイス「Rattler XR」 引用:エルビット・システムズ

これらは、それぞれ完結した機能のように見えることがあるが、ちょっと頭を冷やして考えてみると。

例えば、EO/IRセンサーで敵の地対空ミサイルを見つけたとする。もちろん、それを物理的に破壊する手はある、しかし。相手が市街地のただ中にいて、物理的に破壊すると付随的被害が発生しそうだとなったら、どうするか。付随的被害を避けるために見逃せば、友軍機が被害を受ける。攻撃を強行して一般市民に死傷者が出れば、敵に宣伝材料をくれてやるようなもの。

そこで、EAによってレーダーによる捜索や射撃指揮を無力化する選択肢があればどうなるか。友軍機の被害を避けるのが最終目的なら、EAによって無力化する方法でも良いのではないか?

しかし、ISTARプラットフォームとEWプラットフォームが別々だと、そんな柔軟な選択は難しい。「EAを仕掛けたいので電子戦機を呼んでくれ」では、電子戦機が来る頃にはターゲットが移動して姿を消しているかもしれない。

ISTARとEWを統合化すれば……

そこで、単一のプラットフォームにISTARの機能とEWの機能を集約して、かつ、一元的に管制できるようにしたら、という話になる。

ISTARとは「目標を特定する手段」であり、EWとは「目標を無力化する手段」。その両方が一度に手元に揃うと、「捜索・探知・位置標定・識別・意思決定・交戦」のループを迅速に回すことができるのではないか。

また、EO/IRセンサーによる映像情報も、ESシステムによる電波発信源の逆探知・識別・位置標定も、みんな一つの画面に集約する形でデータを提示する。それができれば、それぞれを個別に見ていたのでは分からないことが見えてくることはないだろうか。

その後の対処についても、レーザーによる目標指示みたいなターゲティング手段だけでなく、EAによってレーダーや通信の機能を無力化する手段まで一緒に手元に用意してあれば。その場の状況や相手に応じて切れるカードの種類が増えると期待できないだろうか。

という話を具体化したのが、エルビット・システムズのAir Keeperという話になる。エルビット・システムズは(無人機も手掛けてはいるが)基本的には防衛電子機器メーカーだから、Air Keeperとは機上に搭載するセンサー機器・電子戦システム・管制システムを統合した集合体である。

それを、さまざまなビジネスジェット機や小型旅客機に搭載できるように設計してある。「すでに別の用途で使っているのと同じ機体に、Air Keeperも載せたい」といった具合に、機体の種類を顧客の求めに応じて変更できれば、販路が広がる可能性を期待できる。

作る人も使う人も領域間の壁を作らない

もっとも、こういう製品が出てきた背景には、もともとエルビット・システムズではISTAR製品とEW製品を同じ部門で手掛けている事情があった、といえるかもしれない。

そこで重要なのは、ISTARの機能とEWの機能を単に「同じプラットフォームに載せました」で終わらないこと。搭載する場所が同じになるだけでなく、それらの機能が融合して、一体のものとなって動かなければならない。つまりISTARとEWの間に壁を作ってはいけない。

すると、個々の構成要素同士を結ぶインタフェースや、管制システム(を制御するソフトウェア)がキモになる。

また、情報を分かりやすい形で見せなければならないから、マン・マシン・インターフェイスのデザインが問題になる。そこは、この手のシステムの運用に関わる知見を豊富に持っているメーカーでなければ、なかなかうまくできないところだろう。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。