RAMといっても、読み書き可能な半導体メモリやレーダー電波吸収素材のことではなくて、ロケット弾、砲弾、迫撃砲弾の頭文字。それらが飛来したときに迎え撃つことをC-RAM(Counter Rocket, Artillery and Mortar)という。当然、飛来を知るためのセンサーが要る。

C-RAMについては、第393回で取り上げたことがあるが、このときにはどちらかというと「迎撃」の話が主体だった。そこで今回は、「捕捉追尾」に焦点を当ててみる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • イスラエル製のC-RAMシステム、アイアン・ドームで使用するミサイル発射機の模型。もちろん、ミサイルを撃つ前に、飛来する脅威を捕捉追尾する必要がある 撮影:井上孝司

対砲兵レーダーとC-RAMの違い

もともと、この分野には対砲兵レーダーという製品分野がある。これは第222回などで取り上げたことがあるから御存じだろう。

飛来する砲弾やロケットをレーダーで捕捉追尾するところは、対砲兵レーダーもC-RAM用のレーダーも違いはない。しかし、目的は異なる。

対砲兵レーダーの狙いは、「発射地点を知る」ことにある。敵の砲兵隊が射撃してきたときに、飛来する弾を捕捉追尾することで弾道を計算して、発射地点を割り出す。その発射地点(すなわち敵の砲兵がいる場所)に向けて対砲兵射撃を仕掛けて、敵の砲兵隊をつぶす。これが対砲兵射撃の目的。

ではC-RAMはどうかというと、こちらは迎撃が主眼となる。もちろん、発射地点が分かって、それをつぶすことができれば、それはそれで好ましい。ただ、メインはあくまで飛来する砲弾やロケットを迎撃して、被害を抑制することにある。すると、「どこから飛んで来たか」よりも「どこに落ちそうか」が問題になる。

現在、C-RAM分野において最も豊富な実戦経験と知見を有しているのは、間違いなくイスラエルであろう。ハマスがガザ地峡から安いお手製ロケットを撃ち込んできたり、反対側ではヒズボラが砲撃を仕掛けてきたりしている。それを放置しておいたのでは国民の士気に関わるし、物理的な被害も無視できない。

そこでイスラエルでは、最上層で弾道ミサイルを迎え撃つアロー、中間層で弾道ミサイルを迎え撃つデービッド・スリング、そして下層でC-RAMを受け持つアイアン・ドームという、三段構えの防御態勢を構築している。そのアイアン・ドームが飛来するロケットなどを迎え撃つ模様を撮影した動画が、いろいろ出回っている(デービッド・スリングの実戦初使用は、比較的最近の話だ)。

アイアン・ドームのレーダーは回転式

アイアン・ドームで使用しているレーダーは、IAI(Israel Aerospace Industries Ltd.)傘下のエルタ・システムズが手掛けているEL/M-2084。アクティブ・フェーズド・アレイ型のアンテナを車体に載せて移動式としているが、使用する際にはアウトリガーを展開して固定する。

使用する周波数帯はSバンド。案外と低い周波数の電波を使うものだなと思うが、イージス・システムのAN/SPY-1シリーズも、その後継となるAN/SPY-6(V)シリーズやAN/SPY-7(V)シリーズも同じSバンドだ。

アンテナは1面回転式で、回転速度は30rpm、上方向は50度まで、左右方向は120度の範囲をカバーできるとされる。同時に多数の砲弾やロケットが飛んでくる前提で考えなければならないから、アクティブ・フェーズド・アレイ化は必然であろう。

もちろん、大きな航空機を相手にする場合よりも、小さな砲弾やロケット弾を相手にする場合の方が、探知可能距離は短い。それでも探知可能距離は100kmということになっている(これはあくまでメーカー公称値だが)。

これが、飛来する砲弾やロケットを捕捉追尾して、飛翔経路を割り出し、着弾地点を予測する。そして、「迎撃しなければならない相手」と「放っておいても構わない相手」を選り分ける。

日本でありがちな考え方だと、「とにかく飛んでくるものはすべて迎え撃たなければ許されない」となりそうなところだが、それでは迎撃ミサイルの所要が増えてしまう。ただでさえ、安い手作りロケットを高価なミサイルで迎え撃っている時点で非対称なこと甚だしいのに、空き地に着弾する弾まで迎え撃っていたら、ますますコストが上がる。そこを割り切るところはいかにもイスラエルらしい。

ただ、「人家がある場所に着弾するかどうか」を精確に予測するためには、レーダーには高い捕捉追尾精度が求められるし、飛翔経路の計算についてもしかり。そして、強風が吹いていれば風で流されて飛翔経路がズレる。口でいうほど簡単な仕事ではないだろう。

RTXのKuRFSは全周対応型

EL/M-2084はアンテナを回転させて全周をカバーしている。脅威が飛来する方向はある程度、事前に予測できそうだから、そちらに向けて固定的に使う運用もあり得るかもしれない。

アメリカでは、RTX(旧レイセオン)がC-RAM用のレーダー製品を手掛けている。こちらはKuRFS(Ku-band Radio Frequency System)といい、その名の通りにKuバンドの電波を使用する。周波数が高い分だけ、分解能は高くなると期待できるし、アンテナはコンパクトになっている。

KuRFSは4×4の小型装甲車に載せる車載式で、車体後部に立てた支柱の上にアンテナを載せる。アンテナは4面のアクティブ・フェーズド・アレイ型で、斜め前方・斜め後方に向けて取り付けてある。つまり回転させずに全周の同時監視が可能である。

KuRFSはレーダー単体の製品で、迎撃手段は別に用意する。陸揚げしたファランクスCIWS(Close-In Weapon System)、12.7mm機関銃、30mm機関砲、レーザー、そしてコヨーテ無人機といった迎撃手段との組み合わせが可能。

組み合わせる相手がいろいろあるということは、それらと接続するための物理的・電気的なインタフェース、それとデータや指令をやりとりするためのプロトコルを適切に取り決めて、オープンなアーキテクチャを構築しなければならないことを意味する。

このKuRFSは、C-RAMだけでなくC-UAS(Counter-Unmanned Aircraft System)にも対応可能とされており、すでに実証試験も実施している。これを、米陸軍のLIDS(Low, slow, small-unmanned aircraft Integrated Defeat System)計画の下で導入しようという話になっている。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。