第491回で取り上げたズムウォルト級は「新機軸てんこ盛り」の艦だから、戦闘システムもコンピューティング環境もブラン・ニューの新規案件だらけとなった。

しかし同級はいささか革新的に過ぎて、「一般的な傾向」を知るには参考になりづらい。そこで、一般的に用いられている艦載戦闘システム(とコンピューティング環境)がどんな構成なのか、という話も書いてみたい。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

サーブ9LVという製品

情報量が多く、かつ情報が手に入りやすいという理由で、本連載ではどうしてもアメリカの製品が多くを占めることになってしまう。しかしそれもどうかということで、今回は別の国の製品を引き合いに出してみる。それがサーブ9LV。

当初に開発を手掛けたのはフィリップスの現地法人だが、その後の数多の変遷を得て、現在はサーブの製品になっている。サーブといえば戦闘機ばかり有名だが、実は防衛電子機器のメーカーでもあるのだ。

9LVシリーズにはけっこう長い歴史があり、最初は射撃指揮システムとして開発が始まった。これが9LV Mk.1と9LV Mk.2で、スウェーデンやノルウェーの海軍で導入実績がある。余談だが、LVとは防空システムを意味するスウェーデン語 “Luftvärn” が語源であるらしい。

  • カナダ海軍のハリファックス級フリゲート。艦橋の屋根上に載っているのがサーブ製のCEROS 200射撃指揮システム。その左手、ヤグラに載っているのはタレス製のSMART-S Mk.2レーダー 撮影:井上孝司

そこから発展する形で、1980年代後半に分散構成の艦載指揮管制システムとして登場したのが9LV Mk.3。プログラム言語こそ軍用のAdaだが、ネットワークはEthernet、コンソールで使用するプロセッサはMC68020といった具合に、COTS(Commercial Off-The-Shelf)化された。続いて、オペレーティング・システムをOS-9からWindows NTに改めた9LV Mk.3Eが1990年代後半に登場した。

その後の製品ライン見直しにより、指揮管制装置だけでなく、その下で動作する武器管制システム、あるいは個別の砲やミサイルを扱う射撃指揮システムといった分野の製品を、すべて「9LV」という統一したブランディングの下にまとめた。そして、現行製品は9LV Mk.4シリーズとなっている。

重要なのはスケーラビリティ

9LVに限らず、戦闘システムの分野で重要なのは、スケーラビリティを持たせること。例えば、艦載戦闘システムを構築する際に、特定の艦に合わせたオーダーメイド・専用設計の製品を作ったのでは、その艦の建造が終了したら「もはやこれまで」である。それでは販路が広がらない。

スケーラビリティを実現できるアーキテクチャを最初にきちんと構想・設計した上で、コンピュータ、ソフトウェア、ネットワーク、射撃指揮システム、通信システムなど、さまざまなビルディング・ブロックを揃える。そしてカスタマーの求めに応じて、必要なビルディング・ブロックを組み合わせてシステムを構築する。

それができれば、小型の哨戒艦艇から大型の水上戦闘艦、あるいは潜水艦まで広範に対応できると期待できるし、実際、9LVの最新シリーズはそうなっている。スウェーデン海軍の潜水艦や水上戦闘艦だけでなく、オーストラリア海軍のフリゲートが能力向上改修に際して導入しているし、オーストラリア海軍の揚陸艦でも導入した。それ以外にも導入実績は多岐にわたる。

  • 9LVシリーズの導入事例は、このように多岐にわたる。さまざまなカスタマー、さまざまな種類の艦に対応できる柔軟性の現れといえる 引用:SAAB

オープン・アーキテクチャ

搭載する艦の種類や用途によって、使用するセンサーの陣容は違ってくる。ときにはカスタマーからの要望で、他社製品を組み合わせることもある。そうなると、中核となる指揮管制装置(を構成するコンピュータ、ソフトウェア、ネットワーク)と、そこに組み合わせる各種のセンサーや武器の間のインタフェース仕様をどうするかが問題になる。自社製品に最適化した独自仕様では具合が悪い。

例えば、オーストラリア海軍はANZAC級フリゲートの近代化改修に際して、「頭脳」の部分に9LV CMS(Combat Management System)を導入したが、レーダーは国産品、CAEテクノロジーズ製のCEAFARを組み合わせた。

さて。以下の図において、指揮管制機能も含めた総合的な戦闘システムを構成しているのが、”Saab Combat Management Systems” とある部分。

  • “Saab Combat Management Systems” の部分に注目。ネットワークの上の部分には各種のセンサー、下の部分には各種の武器があり、ネットワークの中核に9LVの頭脳となる多機能コンソールが置かれている様子が見て取れる 引用:SAAB

全体を単一のシステムにひとまとめにしたのでは柔軟性を欠くが、この図でお分かりの通り、構成要素ごとに切り出した上で、ネットワークで相互接続する構成になっている。ネットワークに接続するセンサーや武器を足したり外したりすれば、システム構成と、それによって実現する機能が変わる。

この図におけるもう一つのポイントは、スケーラビリティをアピールしていること。左下の “Saab FCS Subsystem” は「小型の哨戒艦艇なら射撃指揮の機能だけ用意できますよ」という意味。その右側にある “Saab WCS Subsystem” は、「各種の武器を管制する機能をまとめて用意できますよ」という意味(WCS : Weapon Control System)。

そして、こうしたさまざまな用途で使用する機材を可能な限り共通化すれば、コストの低減と維持管理の負担低減につながると期待できる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。