とっくに書いていただろうと思ったら、実はそうではなかった話が一つあったので、「小型化と分散化」というテーマにこじつける形で取り上げてみようと思う。ということで、今回のお題は「センサー・ノードの分散配置」だ。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
メリットは冗長性・抗堪性だけか?
センサーだけでなく、シューターあるいは指揮管制機能にもいえることだが、一つところに集中するのではなく分散することで、冗長性が増す。あるセンサー・ノードがやられてしまっても、生き残っている他のセンサー・ノードがあれば、多少なりともフォローができて、「いきなり全滅」にはならない。すると結果として、「戦うシステム」全体の抗堪性が向上する。
これを敵軍から見れば、つぶすべきターゲットが増える分だけ探知・捕捉・追尾・交戦のための負担が増える。しかも、そのターゲットが固定ではなく動き回るものであれば、ますます負担が増える。分散海洋作戦(DMO : Distributed Maritime Operations)のベースとなる考え方だといえよう。
しかし、それだけの話であろうか。というのが今回のお題。
レーダーで得られる情報をおさらいすると
そこで、代表的なセンサーであるレーダーについて、復習してみたい。レーダーは電波を出して、それの反射波を受信することで探知を成立させる。反射波の方位はすなわち探知目標の方位であり、送信から反射波の受信までに要する時間はすなわち、探知目標までの距離を知るための情報である。つまり、レーダーを作動させることで、そのレーダーの位置を起点にした探知目標の方位と距離が分かる。
ただし注意しないといけないのは、いずれもレーダーの位置を起点とする相対的な情報というところ。また、レーダーで使用する電波の周波数、使用する空中線、そしてシグナル処理といった具合に、探知能力に影響する要因はいろいろある。基本的には、高い周波数の電波を使用する方が分解能が高いが、電波が減衰しやすくなるため、探知可能距離が短くなってしまう。周波数を低くすると逆になる。
しかしこれらは、単一のレーダーで探知するという前提に立脚した場合の話。離れた場所に複数のレーダーを設置して、同じ目標を同時に探知・捕捉・追尾したらどうなるだろうか。
その場合、個々のレーダーから目標に向けて方位線を引くことができ、その方位線が交差する部分が探知目標の位置となる。それなら、複数のレーダーを設置していて、個々の方位線の向きが大きく異なるほどに、高い精度の位置情報を得られる理屈となる。
複数のレーダーを組み合わせて探知情報を融合することで、レーダー単体の能力以上に高い精度の探知情報を得られる可能性につながる。これまで、第381回ミサイル防衛に関する最近の話題(4)、第381回ミサイル防衛に関する最近の話題(9)、第428回艦隊を指揮する軍艦・旗艦と指揮所(9)と、以前から取り上げているノースロップ・グラマンのIBCS(Integrated Battle Command System)、あるいは共同交戦能力(CEC : Cooperative Engagement Capability)で、実際に用いられている考え方である。
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2隻の艦が同一目標に対してレーダー探知を行い、その結果をCECを通じて融合すると、高い精度の探知情報を得られる 引用:Johns Hopkins APL technical digest, volume 23, numbers 2 and 3 (2002) “CEC: Sensor Netting with Integrated Fire Control” (Conrad J.Grant)
これはレーダーだけでなく、電波を逆探知したときの方向探知にも共通する話。受信機が一つだけでは方位しか分からないが、複数あれば方位線を交差させることで位置まで分かる。方位線の角度は、近接しているときよりも大きく異なっているときの方が、高い精度が得られると期待できる。
ただし、口でいうのは簡単だが、実現する際には解決しなければならない課題がある。それは、複数のレーダーが探知した目標の相関をとり、同じ探知目標か、異なる探知目標かを区別すること。もちろん、使用するレーダーはすべてネットワーク化しておかなければ仕事にならない。
シンプルに考えれば、探知情報を融合してみて、近接していれば同一目標と判断することになろう。しかし、「どれぐらい近接していたら同一目標である」と判断するか。その閾値を決めるのは簡単ではなさそうだ。連続して追尾すれば、探知目標のベクトルをとることができるから、そのベクトルが同一方向・同一速度なのか、それとも異なるのか、といった判断基準ができそうではある。
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リング型IFF(Identification Friend-or-Foe)アンテナの下に付いている4枚の平面アンテナが、CECが情報交換に使用するPAAA(Planar Array Antenna Assembly) 撮影:井上孝司
電波以外のセンサーは?
ここまではレーダーのような電波兵器の使用を前提として書いてきたが、それ以外のセンサーはどうだろうか。
レーダーの次にポピュラーなセンサーというと、電子光学/赤外線センサー(EO/IR : Electro-Optical/Infrared)だが、これは探知可能距離がレーダーより短いことが多いし、方位の情報よりも、むしろ映像そのものが意味を持つセンサーといえる(もちろん、どっちの方向にいる目標か、という情報は必要だが)。すると、複数のEO/IRセンサーから方位情報を得て高精度の位置標定を……という話はあまりなさそうだ。
むしろ、パッシブ・ソナーにおいて有用性が高い。電波の代わりに音波を使うものの、探知の基本原理は同じだからだ。実際、潜水艦のパッシブ・ソナー探知では、潜水艦自身が位置を変えながらパッシブ探知を繰り返す、交差方位法という手がある。位置が変われば方位線の向きも変わる理屈だが、同時に複数のソナーを使うのではなく、1隻で移動しながらやるところは違う。
ただ、潜水艦が移動している間に探知目標も移動しているから、それだけ話はややこしくなる。また、電波は基本的に直進するが、水中の音波伝搬はずっと複雑だ。こうした事情があるので、交差方位法で位置を出すといっても、同時に複数のレーダーを使用するのと比べると難しい仕事になる。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。