前回は、米海軍が開発した意欲的なステルス新形艦のうち、ズムウォルト級駆逐艦について経緯を紹介した。そして今回のお題は、沿海域戦闘艦(LCS : Littoral Combat Ship)。これもまた、周囲の状況の変化に振り回された部分がある。
ストリート・ファイターを具現化
実のところ、LCSも「フロム・ザ・シー」の申し子のようなところがある。地域紛争や不正規戦がメインという想定状況下で、敵地に近い沿岸海域まで乗り込んで行って暴れ回る「ストリート・ファイター」という構想が出て、それを具現化した艦だ。
そういう想定状況だから、外洋で敵艦隊と真正面から対決して雌雄を決する、という種類の使い方はあまり重視していない。小型のコルベットやミサイル艇、場合によっては自爆ボートといった類の脅威が対象となろうか。
ただし、単艦で任務に就くのではなく、あくまでネットワーク化された戦闘の一員という位置付け。だから、個艦で重武装を備えるとは限らず、場合によっては外洋にいる大型の水上戦闘艦、あるいは空母の搭載機などから支援を受ける想定もあると思われる。実際、現物を見るとマストにはLink 16データリンクの空中線がついている。
そして「沿岸海域で暴れ回る」用途からすれば、被探知性を高めて生残性を向上させるために対レーダー・ステルスへの配慮が欲しいし、45kt(83km/h !!)という最大速力も要求された。それを実現するため、高出力の機関とウォータージェット推進器、アルミ合金を使って軽量化した船体が用意された。
そしてよく知られている通り、フィンカンティエーリ・マリネット・マリーンが建造するモノハル型のフリーダム級と、オースタルUSAが建造する三胴型(トリマラン型)のインディペンデンス級の2種類を、同時並行建造することになった。ドンガラは2種類あり、それぞれ異なる指揮管制装置を備えるが、後述するミッション・パッケージは共通化する。そういう構想になった。
-
インディペンデンス級はトリマラン。船体の下部は、太めのセンターハルと細身のサイドハルに分かれる。センターハルの水線下にウォータージェットが4基並び、開いているハッチの中には搭載艇が収まる 撮影:井上孝司
LCSの誤算はミッション・パッケージ開発の難航?
LCSの特徴がミッション・パッケージ。これは、対機雷戦(MCM : Mine Countermeasures)、対水上戦(ASuW : Anti Surface Warfare)、対潜戦(ASW : Anti Submarine Warfare)のいずれにも対応可能としつつ、艦型をコンパクトにまとめるための方策で、要は「用途に応じて兵装を積み替える」というもの。それを実現するため、個々のパッケージは規格化されたコンテナやモジュールにまとめる。
この手の「積み替え方式」には、ヘリコプターではCH-54タルヘ、艦艇ではデンマーク海軍のフリーヴェフィスケン級哨戒艇という先例がある。ところがたいていの場合、掛け声倒れに終わっている。個々の艦や機体ごとに複数のパッケージを用意すると、使わずに遊ぶパッケージが出てしまうから経費の無駄になりかねない。特定の艦ごとに任務を決めて、それに合わせたパッケージを積むのが現実的となる(LCSも結局そうなった)。
それではパッケージ方式は意味がないといわれそうだが、艤装設計を共通化できる利点があるとはいえる。ただし、異なる用途の異なる機材を同じ規格の入れ物に押し込めることになるので、それが設計上の制約になる可能性はある。
このミッション・パッケージの開発に難航しているのはLCSにおける誤算の一つだが、そのせいで「ミッション・パッケージ方式だから開発に難航した」という人もいる。しかし本当にそうなのかどうかは、開発の経緯をきちんと検証しなければ断言できない。同じ中身でもミッション・パッケージ方式にしなければうまくいった、といえるのかどうか。
LCSを襲った数々の不幸とは?
LCSの不幸として、米陸軍のFCS(Future Combat System)で使用するつもりだった地対地ミサイルをASuWパッケージに転用しようとした件がある。大風呂敷を広げたFCS計画が大コケして、ミサイルも道連れになって消えてしまったからで、これはLCS計画側の責任ではない。
また、フリーダム級では主機でトラブルが発生して、対処に追われた。そしてとどめは、前回も説明したように、不正規戦から正規軍同士への交戦へと揺り戻しが発生したこと。この辺は、当初の運用構想に起因して、とんがりすぎた設計にしたことが裏目に出ている。
そんなこんなの経緯により、LCSの建造隻数は縮小された。造ってしまった艦については一部を早期退役させる一方、ASuW任務を割り当てた艦にはステルス設計の艦対艦ミサイル・RGM-184A NSM(Nytt Sjønomålsmissil / Naval Strike Missile)を載せる。隠密性の高い打撃力を隠密性が高い艦に載せて、敵地に突っ込ませて打撃力を発揮させる用途なら、ステルス性とネットワークが生きてくる。
つまり、LCSもまた「技術的新規チャレンジのてんこ盛り」と「周辺状況の変化」に振り回された艦といえる。成功か失敗かと問われれば失敗に分類されるのは致し方ないが、その失敗の理由はちゃんと見ないといけない。つい「他者の失敗という結果だけを見て、それを腐して喜んでしまう」のはマニアの悪いクセだが。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。