ここまで、主として砲弾を取り上げてきたが、当節では「弾薬」というとミサイルのような誘導弾が重要な地位を占めている。そして、誘導弾につきものなのが発射機である。そこで今度は、ミサイル発射機の話も取り上げてみたい。「それのどこが “軍事とIT” なんだ」と疑問に思われるかもしれないが、実のところ関係は大ありである。

ミサイル発射機とは

といっても、段階を追って話を進めていかないと、ミサイル発射機とITの関連性が分からない。そこで今回は、イントロととして「ミサイル発射機の基礎知識」を紹介しよう。

ひとことでミサイル発射機といっても、実は種類が多彩である。航空機搭載用、車載用、艦載用、個人携行用といった具合に、発射機を搭載するプラットフォームの種類が多い。そして、搭載するミサイルの形態や種類も多彩である。いずれにも共通するのは、「ミサイルを搭載・保管する」機能と、「ミサイルを撃ち出す」機能を備えているところだ。

航空機の場合、使用するその都度、ミサイルを弾薬庫から出してきて搭載するので、「保管」の機能はない。保管の際には専用のコンテナに入れて、しまってある。

ところが、車載用や個人携行用では、ミサイルを収容・保管する筒がそのまま、発射機を兼ねていることがよくある(車載用だと、ミサイルをコンテナから出して発射機に装填する形態もあるが)。そして艦載用の場合、どちらのパターンもある。

「発射」の機能は、大きく分けると2パターンある。

一つは、発射筒に収容した状態、あるいは発射レールに取り付けた状態で推進装置を作動させて、ミサイルがそのまま滑り出る形態。発射レールを使用する場合、「レール・ローンチ」という言葉を使うこともある。

発射レールを使用する場合、旋回・俯仰が可能な架台に取り付けて、目標がいる方向に指向するのが一般的な形。ただし航空機に搭載する場合には、機体そのものを目標の方に指向するのが普通なので、発射機は機体に固定されている。

もう一つは、発射機からミサイルを切り離してから推進装置を作動させる形態。これを使うのは航空機搭載用で、火薬の燃焼ガス、あるいは高圧空気で作動するピストンを用いて、ミサイルを強制的に放り出す。搭載機がどんな状態で飛行していても、確実に分離できるようにするため、こういう仕組みを使う。

発射機の形態いろいろ

続いて、さまざまなミサイル発射機の写真を御覧いただき、それぞれに簡単な解説をつけてみよう。

  • 艦載用の艦対空ミサイル発射機Mk.13。船体内に円筒形の弾庫が組み込まれていて。ミサイルはそこに縦向きに収容している。発射機のレールは旋回・俯仰が可能で、装填の際には真上に向ける。そして下のハッチを開き、弾庫からミサイルを送り出してくる仕組み

  • 艦載用の垂直発射システム (VLS : Vertical Launch System)・Mk.41。ミサイルは1発ずつ、専用のキャニスター(金属製の箱)に入れて、装填する。ひとつのキャニスターごとにひとつのセルがあり、セルごとに蓋が付いている。発射の際は蓋を開ける

  • F-16戦闘機の翼端に取り付けられたLAU-129/A発射機。空対空ミサイル用のレール型発射機

  • 旧ソ連製の9K33オサー(SA-8ゲッコー)地対空ミサイル用の発射機。旋回・俯仰が可能な架台に、ミサイルを1発ずつ収めたキャニスターと捜索レーダーなどをまとめて取り付けてある。撃ったらキャニスターごと取り替える

  • MIM-104パトリオット地対空ミサイル用の発射機。9K33と違い、レーダーは別の車両に積んであるが、ミサイルをキャニスターごと搭載するところは同じ

  • FGM-148ジャベリン対戦車ミサイルの発射機。ダンベルみたいな形をした筒の中にミサイルが入っている。手前側に付いている照準器は取り外しが可能で、撃ったら別の発射筒に付け替える。個人携帯式のミサイルはたいてい、こんなつくり

実は保管・装填・発射だけではない

さて。ここまで述べてきたのは、ミサイルの保管・装填・発射といった、いわば物理的な話である。

ところが、ミサイルを発射する前には、ミサイルの誘導制御機能に対して、目標の位置など、さまざまな情報を与えなければならない。だから、発射機とミサイルの間には電気的なインタフェースが必要になる。デジタル方式なら、データ・フォーマットに関する規定も必要だ。

また、ミサイルの種類と発射機の種類が一対一対応していれば話は簡単だが、1つの発射機に複数の種類のミサイルを搭載できるようになっていると、話がややこしくなる。なぜかというと、どの弾庫のミサイルをどの目標に向けて撃つかという「武器割当」の機能を実現する際に、「どこの弾庫(VLSならセル)に、どの種類のミサイルが保管されているか」を知る機能が必要になるからだ。

さもないと、「弾道ミサイルが飛んできたので、弾道ミサイル迎撃用のSM-3を発射」のつもりが「対地攻撃用の巡航ミサイルを撃っちゃいました」なんていう、間の抜けたことになりかねない。また、撃ったミサイルが外れたり、連続して複数の目標と交戦したりする場合には、搭載しているミサイルをどの順番で発射するか、という問題も絡んでくる。

すると、発射機の動作を管制するためのコンピュータと、そこで使用するソフトウェアが不可欠になる。これはITの領域である。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。