新しいウェポン・システム、あるいは既存のウェポン・システムの改良型をリリースする際の決まり文句のひとつに「Commonality」がある。日本語に訳すと「共通性」となる。

なぜ共通性をうたうのか

「共通性」「共通化」「共用化」といった話がしばしば謳われる背景には、どんな事情があるのか。それは、ウェポン・システムのRDT&E(Research, Development, Test and Evaluation、研究・開発・試験・評価)に多大な手間と費用がかかる以上、いったん実用にこぎつけたものは幅広く使いたいし、共通化するほうが整備・訓練の面でも有利、という話に尽きる。

共通性を高めることで合理化を図った分かりやすい一例が、おなじみF-35。陸上基地から運用するCTOL(Conventional Take-Off and Landing)型のF-35A、空母から運用するCV型のF-35C、強襲揚陸艦やSTOVL空母から運用するSTOVL(Short Take-Off and Vertical Landing)型のF-35Bと3モデルがあるが、外見は似たところが多い。

といっても、共通化の最大の実を挙げているのはむしろ、中身の部分。飛行のために使用する電子機器(アビオニクス)、セントラル・コンピュータ、通信・航法・識別(CNI : Communication, Navigation and Identification)関連の機器、そしてレーダーをはじめとする各種のセンサー機器。みんな3モデルで同じものを共用している。

すると、これら共通装備のRDT&Eはワンセットで済む。もしも、A型とB型とC型で別々の機器を搭載することになれば、個別にRDT&Eをやらなければならないから、費用と手間は3倍になる。しかも調達数量が少なくなるから、単価が上がってしまう。

  • 3モデルあるうち、唯一、まだ日本に姿を見せたことがないのが米海軍の空母搭載型、F-35C。主翼などに違いがあるが、中身は他のモデルとおおむね共通

F-35は同系列の機体で共通化を図った事例だが、同じ機器を異なるプラットフォームに載せている事例もたくさんある。センサー、通信機、電子戦装置といった分野で、その傾向が強い。

もうちょっと細かくなると、そのセンサーや電子機器の分野でも、キー・コンポーネントを共通化している事例がある。第332回と333回で取り上げた、ロッキード・マーティンのLRDR(Long Range Discrimination Radar)とAN/SPY-7(V)シリーズ、第334回で取り上げた、レイセオン・テクノロジーズのAN/SPY-6(V)シリーズがそれ。いずれも、AESA(Active Electronically Scanned Array)レーダーの中核コンポーネントである送受信モジュールを共用しながら、複数のバリエーション・モデルを展開している。また、そのレーダーを制御するためのソフトウェアも共通化を図っている。

面白いのは、同じレイセオン・テクノロジーズ社の戦闘機用レーダー。第344回で取り上げたように、フロントエンド(アンテナ部分)とバックエンド(電子機器部分)を異なるモデルの間で行ったり来たりさせながら、能力を向上させた改良型を送り出している。

これらはハードウェアの共通化が主体となる話だが、ソフトウェアにも似たような話がある。ソフトウェアを部品化して「さまざまな機能を実現するソフトウェアを一元管理する体制とシステムを構築、必要に応じて、必要とされる部品を引っ張り出してくる」というCSL(Common Source Library)の考え方は、ソフトウェア・コンポーネントの分野で共通化を図った事例といえる。

Commonality と密接に結びつく Scalability

スケーラビリティ Scalability という言葉は、IT業界ではなじみ深いもの。そして、LRDRとAN/SPY-7(V)シリーズでも、あるいはAN/SPY-6(V)シリーズでも、キー・コンポーネントやソフトウェアを共通化しながらサイズ・重量・能力に違いがある複数のモデルを展開している。これはまさに、Scalability を持たせた典型例といえる。

こうしてみると、Commonality とScalability には密接な関係があるのだとわかる。AESAレーダーの場合、基本的には送受信モジュールが多いほうが性能向上につながる傾向があるが、そうすれば大きく、重く、高価になって販路が狭まる。そこで、小さく、軽く、安価なバリエーションを展開しつつコストとリスクを抑えるには、キー・コンポーネントの共通化は不可欠の要素となる。

Commonalityを実現するには?

このように具体例を挙げると「はいはい」と納得してしまうのだが、実現するのは口でいうほど簡単ではない。実のところ、共通性を持たせるには、最初のアーキテクチャづくりや、全体状況を俯瞰・監督する開発マネージメント担当者の識見がモノをいう。そこでドジを踏むと、共通化がうまくいかなかったり、共通化のレベルが下がってしまったりする。

また、共通化を企図して計画がスタートしたのに、関係者同士の思惑が食い違い、話が空中分解する事例もある。これは国際共同開発案件において、ちょいちょい見られる種類の話。

例えば、イギリス、フランス、イタリアが共同で防空フリゲートを開発しようとしたが折り合いがつかず、イギリスが離脱して単独で45型駆逐艦を建造した事例がある。同じPAAMS(Principal Anti-Air Missile System)という対空戦闘システムだが、イギリス向けはPAAMS(S)、フランス・イタリア向けはPAAMS(E)で、中核となるレーダーが別物になってしまった。

しかし、レーダー以外のところ、垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)やアスター艦対空ミサイルなど、共通で踏みとどまった構成要素も多々ある。レベルは下がったが、共通化の果実が皆無になる事態は避けられたといえる。

  • PAAMS搭載艦のイギリス向けバージョン、45型ことデアリング級。前檣の頂部に載っているレーダーが、フランス・イタリア向けのPAAMS搭載艦と異なる

ひとつの国の中で、複数のウェポン・システムで使用するコンポーネントやソフトウェアを共通化するのと比べると、複数の国が関わる場面のほうが実現が難しくなる傾向は否めないようだ。どこの国も自国の産業基盤維持を図りたいので「俺が俺が」となってしまい、もめる傾向は出てくる。

民間でも、ひとつの会社の中で完結させるのと、複数の会社が絡むのと比較すると、後者の方が調整がめんどくさくなったり、誰も納得できない妥協の産物になってしまったりする。それと似たところがありそうだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。