「航空機の技術とメカニズムの裏側」の第117回で、対地接近警報装置(GPWS : Ground Proximity Warning System)について取り上げた。こうした「地面との意図せざる接触」を防ぐためのシステムにも当然のことながら、地理空間情報が関わってくる。

GPWSとEGPWSの動作原理

GPWSが企図しているのは、所定の着陸進入経路を外れて地表に異常接近していると判断した時に、警告灯と音声による警告を行うこと。そのため、電波高度計を用いて対地高度のデータをとるほか、高度計から高度のデータを連続的にとって、降下率を把握できるようにしている。

そして、所定の降下率よりも早く降下しているような場面で、警告灯や音声による警告を発する仕組みになっている。電波高度計のデータを連続的に見ていれば、「地面が急速に接近してきているので危ない」ということはわかるが、それは「今、現在」の話である。

何をいいたいのかというと、「前方に山などの盛り上がりがあるので、このまま進入すると突っ込む危険性がある」ということを把握するには、電波高度計のデータだけでは足りないという話である。電波高度計のデータに頼る限り、実際に盛り上がった地形の上に進入して、対地高度が急速に減少し始めるまでは、「危ない」ということがわからない。

そこで考え出されたのが、拡張版対地接近警報装置(EGPWS : Enhanced Ground Proximity Warning System)。EGPWSのキモは、地形データを参照する点にある。

慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)やGPS(Global Positioning System)があれば、機体の現在位置の緯度・経度がわかる。GPSではさらに高度もわかる。そのデータと自機の針路、そしてEGPWSが持っている地形データを突き合わせれば、前方の地形がどうなっていて、それが危険要因になるかどうかを事前に把握できる。

また、INSやGPSがあれば速度も計算できるから、例えば「前方に切り立った崖があって、そこまでの距離は○○km。だからあと△分で突っ込む」ということを事前に計算できる理屈だ。その場になってから警告を発するよりも、事前にわかっているほうが、対応するための時間的な余裕が増える。

そのEGPWSが参照する地形データもまた、地理空間情報の1つである。

GCASとAuto-GCAS

GPWSやEGPWSが活躍するのは主として、離着陸時である。民航機は高い高度をとって巡航するし、その際は地上の障害物に対して十分な余裕を持たせた高度をとるのが普通。よって、離着陸時以外で地表に急接近するような場面はあまり起こらない。

ところが、戦闘機は話が違う。レーダー探知を避けようとして意図的に低空、あるいは山間部を飛行することがあるし、爆撃のために目標に向けて急降下することもある。ともあれ、戦闘機は民航機と比べると、「地面との意図せざる接触」が起きる可能性がある場面が多い。これを業界用語でCFIT(Controlled Flight Into Terrain)という。

そこで米空軍は2014年から、F-16ファイティングファルコンにAuto-GCAS(Automatic Ground Collision Avoidance System。AutoGCASと書くこともある)を導入した。GCAS(Ground Collision Avoidance System)は、地表に向けて急接近している時に警報を発するだけだが、Auto-GCASでは回避機動まで自動的にやってくれる。

米空軍が明らかにしたところでは、1992~2004年にかけて合計34機のF-16を事故で喪失して、24名の犠牲者を出している。また、F-16の事故喪失事例のうち75%がCFITに起因していたとの話もある。そこでAuto-GCASの開発に取り組んだわけだ。その後、F-16に加えてF-22もAuto-GCASを導入した。

  • 米空軍のF-16は、「地面との意図せざる接触」を防ぐためにAuto-GCASを導入した

ただし、自動的に回避機動をとるといっても簡単な仕事ではない。「どちらに向けて回避するか」を判断しなければ、それはそれで危ない。しかし、地形データが手元にあれば、「どちら側なら障害物がないか」がわかる。ここでもまた、地形データという名の地理空間情報が役に立つ。

このAuto-GCASは、F-35にも導入する計画になっている。F-35はもともとGCASを備えていたが、それは前述したように警報を発するだけだ。Auto-GCASが加われば自動回避が可能になるので、安全性が向上する。

ちなみに、GCASの装備は米軍機に限った話ではなくて、例えばサーブJAS39グリペンでも導入事例がある。最新のMS20仕様で追加されたようだ。サーブの関係者によると、グリペンは3年単位でソフトウェアの更新による能力向上を図っているのだそうで、GCASの追加もその一環ということになる。

ただし、こうしたシステムを整備するには、まず地形データベースを作らなければならない。

「専守防衛」で「自国の上空とその近所しか飛びません」ということであれば、対象エリアは比較的少なくて済む。しかし、全世界をまたにかけて作戦を展開する可能性がある、または、他国に輸出する機体にGCASやAuto-GCASを搭載するという話になると、全世界の地形データがなければ始まらない。

すると、まずそのためのデータ収集をどうやるか、その後の継続的なデータ更新はどうやるか、という課題がついて回る。

と、ここまで書いていて気になったのがF-15Eストライクイーグルだった。もともと夜間の低空侵攻を表芸とする戦闘機である。当然ながら「地面との意図せざる接触」をする可能性も高いのではないか? と考えた次第。

しかしよくよく考えると、F-15Eは当初からそのつもりで作られた機体だから、AN/AAQ-13 LANTIRN(Low Altitude Navigation and Targeting Infrared for Night)航法ポッドを備えており、地形追随レーダーと赤外線センサーを組み合わせて夜間低空飛行時の安全性を高めている。地形追随レーダーの用意がある点はB-1Bランサー爆撃機も同様だ。

そういう仕掛けがないF-16のほうが、CFITによる事故が問題になったのではないだろうか。F-16でもAN/AAQ-13の搭載事例がないわけではないが。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。