前回はソナーの概要について解説したが、今回はアクティブ・ソナーの構造を取り上げることにしよう。魚群探知機の親戚といえなくもないが、こちらが探知しようとする「魚」ははるかに大きく、しかも身を隠そうとしてあの手この手を使う(実は、潜水艦乗りの言葉だと潜水艦は「ボート」で、「フィッシュ」は魚雷のことだが)。

圧電効果

ソナーを実現するには、水中の音響(によって発生する振動)と電気信号の相互変換を行う仕掛けが必要になる。

アクティブ・ソナーで探信する場合は、電気信号をかけると振動して音波を発する必要がある。一方、パッシブ・ソナーで受聴する場合やアクティブ・ソナーで探信音の反射を聴き取る場合は、水中を伝わってきた音波によって振動して電気信号を発する必要がある。

そこで関わってくるキーワードが「圧電効果」。電歪効果という言葉を使うこともあるが、要するに「物質に圧力をかけた時に、圧力に比例した分極(表面電荷)が現れる現象」のことだ。

アクティブ・ソナーの元祖であるASDIC(Allied Submarine Detection Investigation Committee)では、石英を使用していた。当初、石英とともにロッシェル塩(酒石酸カリウム-ナトリウム、KNaC4H4O6)が、この効果を顕著に発揮することがわかっていた。

戦後になって、その他の物質も使われるようになった。例えば、圧電セラミックの一種であるチタン酸バリウム(BaTiO3)がそれだ。

ASDICは旋回式

ASDICを開発した時は、石英を利用する送信機と反射波を聴き取るためのハイドロフォンを組み合わせて旋回式の送受信機を構成、これを船体下面のドーム内に納めていた。旋回式だから、オペレーターが指示した方を向いて、オペレーターの指示を受けて音波を出す。

したがって、ASDICによる探信は「方位の指示 → 探信 → 反射波が戻ってこないかどうか聞き耳を立てる → 方位を変える」という操作の繰り返しになる。もしも反射波が戻ってきた場合、その時に送受信機が向いている方向に潜水艦がいることになる。

この方法なら送受信機は1つで済むが、全周を走査しようとすると時間がかかる難点がある。できれば、全周を1度に走査できるほうがありがたい。

レーダーでも、一般的なのはアンテナを旋回させるタイプだが、これだと全周を捜索するには時間がかかるし、探知・追尾が間欠的になってしまう問題もある。電波か音波かという違いはあるが、海中でも事情は同じなのだ。

トランスデューサー・アレイという考え方

そこで登場したのが、トランスデューサー・アレイ。先に挙げたチタン酸バリウムなどの圧電効果物質を利用して、送受信兼用の小さなトランスデューサーを作り、それをズラッと並べる。ただし、海中にいる潜水艦を探知するには、方位と深度の両方を知る必要があるので、3次元の探知能力が求められる。

そこで、トランスデューサーを上下方向・水平方向に複数並べて、トランスデューサー・アレイを構成することになる。水平方向に一列に並べるだけでは、方位は分かっても深度(正確には上下方向の角度)がわからないので、水平方向・上下方向の両方に並べる必要がある。

探信の場合、すべてのトランスデューサーを一斉に発振させると訳がわからないことになりそうだが、順番に作動させれば事情は違う。発振して、さらに反射が戻ってきたトランスデューサーが向いている方向がすなわち、目標がいる方向である。

そして、送信から受信までにかかった時間を基にして、距離を割り出すこともできる。ただし、海中での音波の伝搬速度は水温や塩分濃度によって変動するのだが、その話を始めると脱線してしまうので、今回は割愛させていただく。

受聴について言えば、複数のトランスデューサーで音波を受けることになる。すると、どのトランスデューサーで聴知したか、トランスデューサーごとの受信のタイミングはどれぐらい異なるか、といったデータがあれば、聴知した音波の方位を計算できる。この辺の考え方はフェーズド・アレイ・レーダーと同じだ。

トランスデューサー・アレイの形状

そのトランスデューサー・アレイの外形は、「球形」と「円筒形」に大別できる。

球形のトランスデューサー・アレイは、アメリカの原潜で好んで使われている形態。球形の本体の表面に、トランスデューサーをたくさん並べてあり、外観はゴルフボールに似ている。ゴルフボールのディンプルがトランスデューサーに相当する。

球形をなしているから、3次元で全周を均等にカバーできて、探知目標がいる向きを割り出すには具合がよい。もっとも実際には、上端と下端は切り取られた形状になっているようだ。

モノがモノだけに、なかなか写真が出回っていないのだが、米海軍水中戦センターのWebサイトに小さな写真が載っていたので紹介する。

参考 : Facility Power
http://www.navsea.navy.mil/Home/Warfare-Centers/NUWC-Newport/What-We-Do/Detachments/Seneca-Lake/Facility-Power/

ただし、球形のトランスデューサー・アレイは場所をとる。アメリカの原潜は艦首に球形のトランスデューサー・アレイを格納しているが、これが艦首のスペースを食ってしまっているため、艦首に魚雷発射管を設置するスペースがなくなった。

だから、アメリカの原潜はすべて、魚雷発射管を艦首よりいくらか後ろに下がった部分(たいてい、セイルの下か、それより少し前ぐらい)の側面に、外側に向けて角度をつけた状態で装備している。

一般的なのは円筒形のトランスデューサー・アレイで、丸いケーキみたいな形を想像していただければ、大体合っている。

これでも上下方向にトランスデューサーを並べているので3次元方向の捜索は可能だが、球形のトランスデューサー・アレイと比べると、上下方向、とりわけ真上や真下に近い領域については、監視能力が見劣りすると考えられる。

しかし小型の潜水艦や水上艦では、艦首に大きな球形トランスデューサー・アレイを取り付けるのは無理があるから、どうしても円筒形になってしまう。

潜水艦の場合、トランスデューサー・アレイを艦首の中央部に据え付けて、その上や下に魚雷発射管を並べる方法と、トランスデューサー・アレイを艦首の上部に据え付けて、その下に魚雷発射管を並べる方法がある。艦首まわりの形状を見れば、どちらの派閥に属しているかはだいたい見当がつく。

水上艦のバウソナーも円筒形のトランスデューサー・アレイだ。だから、バウソナーを覆うソナー・ドームは左右にかなり広がった形になっている(前回に掲載した写真を参照されたい)。

それと比べると、船体下面に突き出すハルソナーは違った形状になるかもしれない。バウソナーのように円筒形ではなく、もっと細長い形になるだろうと推定される。

ヘリコプターが使う吊下ソナーもアクティブ・ソナーだが、これは縦長の円筒形で、海中に降ろした後で傘の骨みたいな形でトランスデューサーを展開する。ヘリコプターの機内に納めなければならないので、直径が大きいのは困るのだ。

海上自衛隊のSH-60Kヘリが搭載する吊下ソナー。右側の円筒に納まっているのが吊下ソナーの本体で、これを海中に降ろしてからトランスデューサー・アレイを展開させる