6月5日に三菱重工業・名古屋航空宇宙システム製作所・小牧南工場(愛知県西春日井郡豊山町)で、F-35Aのお披露目が行われた。今回の機体(AX-5)は、三菱重工の工場で組み立てられた最初の機体で、通算5機目に当たる。

昨年9月23日(現地時間)にロッキード・マーティン社(テキサス州フォートワース)でロールアウト式典が行われたのは、同地で組み立てられた日本向け1号機(AX-1)だった。

6月5日にお披露目された、航空自衛隊向けF-35Aの通算5号機。日本で組み立てた最初の機体だ

FACO施設は3ヶ所、生産参画は11ヶ国

F-35計画の特徴は、アメリカを含む9カ国が組んで計画に取り組んでいるところにある。開発パートナー国は開発費を支出してリスクを分担する一方で、自国のメーカーが生産に参画する糸口ともしている。

各国政府の立場から見ると、「自国のメーカーがF-35の生産に参画して利益を上げれば、それは結果として税金という形でいくらか政府に還ってくるし、自国の産業基盤維持にもつながる」という理屈になる。だからこそ、国費を出して開発費を負担している。

ただし、パートナー国になれば自動的に仕事が降ってくるわけではなく、あくまでコストと納期と品質が要求を満たせれば、という条件付きではあるが。

その結果、生産拠点はアメリカ、イギリス、オランダ、ノルウェー、デンマーク、トルコ、イタリア、オーストラリア、カナダのパートナー9ヶ国、それと後から加わったイスラエル、日本。合計11カ国に広がった。

機体の製作では、まず以下の主要コンポーネントを組み上げる。

  • 前部胴体 : ロッキード・マーティン社(米)
  • 主翼 : ロッキード・マーティン社(米)
  • 中央部胴体 : ノースロップ・グラマン社(米)、TAI社(土)
  • 後部胴体と尾翼 : BAEシステムズ社(英)

胴体にしろ主翼にしろ、内部に組み込む機器や配管の多くも、組み立ての過程で取り付けてしまう。いわゆる先行艤装である。

これらを接合して「飛行機の形」にした後で、先行艤装しなかった搭載機器や、エンジン、キャノピーなどといったパーツを取り付ける艤装工程がある。そして機体が完成すると、塗装や検査を行う。

この「接合」「艤装」「塗装」「検査」を行うのが、FACO(Final Assembly and Check-Out)、つまり「最終組立・検査」と呼ばれる施設で、アメリカのテキサス州フォートワース(ロッキード・マーティン社)、日本の豊山町(三菱重工)、そしてイタリアのカメリ(レオナルド社)、合計3カ所にある。

部材の流れは複雑怪奇

さて。こうなると機体を構成する部品の流れは複雑なものになる。

例えば、カナダのマゼラン・エアロスペース社は尾翼の部品を製作しているが、それはフォートワースではなくBAEシステムズ社に送られ、他所で作られた部品と合わせて完成品の尾翼を構成する。

その尾翼や後部胴体が完成すると、それが先に挙げた3カ所のFACO施設に送られ、他所で作られた機体構造と接合される。中央部胴体のように2社で分担している部位もあるので、さらに話はややこしくなる。

つまり、1機のF-35が完成するまでには、さまざまなメーカーで作られた部品が単独で、あるいは組み上げられた形で、世界をあっちに行ったりこっちに行ったりする。そして最終的に、3カ所あるFACO施設のいずれかから完成品の機体として出てくる。

そのFACO施設で行われているのは、混流生産である。もっとも、自動車メーカーでいうところの混流生産とは異なり、基本的には同じF-35だが、それでもモデルごとに異なる部分はある。

昨年9月にフォートワースのFACO施設を訪れた際は、いくつも並んだ接合設備にそれぞれ「イギリス向けのF-35B」「アメリカ空軍向けのF-35A」「アメリカ海軍向けのF-35C」「イスラエル向けのF-35I」「アメリカ海兵隊向けのF-35B」といった具合に、さまざまな仕向地に向かうさまざまなモデルが入り乱れていた。

これは9段階に分かれた艤装工程も同じで、その中に日本向けの4号機(AX-4)も混ざっていた。

それどころか、フォートワースで製作している主翼や胴体がすでに、治具の上で形をなし始めた時点で、どの機体で使用するものかが決まっている。

なぜわかるかというと、タイプ・バージョンと呼ばれる識別ナンバーが掲出されているから。先に挙げた「AX-○」がそれで、「A」はF-35A、「X」は日本向けを意味する。「AF-111」と書かれた作りかけの主翼が治具に載っていれば、それは米空軍向けF-35Aの111機目で使うものというわけだ。

工程管理とサプライチェーン管理

ということは、個々の機体の完成予定日から逆算して、使用するパーツや搭載機器を何時までに製作してどこに納入するかを割り出し、製作にかかった時点で最終的な行先を決めていることになる。

無論、それぞれのパーツや搭載機器が適切なタイミングで適切な場所に届かなければ、その後の工程が全部狂ってしまう。しかもFACO施設は3カ所あるから、イタリアや日本で組み立てる機体に取り付ける機器は、スケジュール通りにイタリアや日本に送らないといけない。

さらにややこしいことに、日本のメーカーが製作する部品は当面、日本向けの機体にだけ組み込まれる。イスラエルのメーカーが製作する部品の中には、イスラエル向けの機体に「だけ」組み込まれるものもある。納入された同一種類の部品を一括プールして適宜ばらまく、というわけにもいかない。

こうしてみると、1機のF-35が完成するまでには、その背後で複雑極まりない工程管理とサプライチェーン管理が動いていることがわかる。当然、個々の部材の流れを把握・可視化するための仕組みと、それを支える情報管理システムも動いているはずだ。

ここではF-35を例に挙げたが、サプライチェーンがグローバル化しているのはボーイングやエアバスなどの旅客機も同じだ。そして、海外サプライヤーの製品をいろいろ使用している三菱MRJも同様である。

航空機産業を動かしていくということは、単に飛行機を設計するというだけの話ではない。工程管理とサプライチェーン管理をきちんと切り回していかなければ、飛行機はできないのである。